ショパンが付き合ってた「気の強い女」ジョリーことジョルジュ・サンドですが
私はサンドの小説は「愛の妖精」と「魔の沼」と「笛師のむれ」を持っていて特に「愛の妖精」は大好きな小説です。
これは中三くらいのときに読んだんだけど、もう、今思えば私の理想の美キャラの原型みたいな人が出てくるんです
登場人物は「ランドリー」と「シルヴィネ」という双子の兄弟で、二人は村の一番のお金持ちの家に産まれた待望の男の子たちです
シルヴィネがお兄さん、ランドリーが弟なんですが、それはそれはそっくりな愛らしい子供たち。
しかし長じてシルヴィネは病気がちで繊細な青年になり、ランドリーは健康で逞しい立派な青年になるんです。
そこにヒロイン「ファデット」が登場します。
ファデットはサンドが得意とする「一見あまり美人ではないがとても賢い女の子」です。
ファデットは村のはずれに魔女と呼ばれる意地悪でケチな薬師のおばあさんと、足の不自由な弟と暮らしていて
村のみんなからは馬鹿にされ忌み嫌われています。
あるときランドリーが深い森で迷子になり、鬼火に追われて命からがらのところをそのファデットに助けてもらいます。
このへんの自然描写は鬼気迫りますよ。
ファデットは不気味だし、なんか変な魔法でも使って俺を助けたのではないか、と思ったランドリーはあまり感謝もせず
彼女に借りなんか作りたくないので「礼ならするし。お金でもなんでも」って言っちゃう。
ファデットは「お金なんか要らない。そのかわり今度の村祭りで三回私とおどってほしい」って頼むんです
ランドリーは人気者で村中の娘に好かれてるし、特に一番の美女マドンナさんを誘いたいと思ってたのですごい嫌なんだけど
どうしてもファデットは許してくれません。
そんなわけだけど根は男らしいランドリーは村中の人間に嘲笑われながら、ファデットと踊ります。
しかも村の男たちや美人だけど意地悪なマドンナさんに辱められそうになったファデットを「俺のパートナーに何をする」って助けるんです。
ファデットは逃げます。
そして村はずれの教会で一人泣いているところをランドリーに慰められます。彼女は自分のことで泣いているのではなく、
ランドリーに恥をかかせたことを深く悔いて泣いていたのです。月明かりの下泣いている彼女の可憐で美しいこと。
普段は泥まみれで働いてるからこその美しさです。私と踊れなんて言ってごめんなさい、なんて言う。惚れますよ。
それ以降二人はとても愛し合うようになるんです
さて一方お兄さんのシルヴィネですが、彼はとにかく弟のランドリーが好きなの。依存と言っていいくらい好き。
自分は身体の弱い出来損ないだけど、弟は立派で強い。町に働きにも行ってどんどん逞しくなる。
それを妬むでもなく誇りに思い、もうすき好きなんですよ
1番いいものは弟に上げるし、他人には頑なで意地悪なんだけど、弟にはとても尽くす。弟にだけはすごく優しいの。
彼は元々魔女の一家のことは恐がってるし大嫌い。
だから村祭り事件で賢く可愛い弟がなんでそんな恥かかされるのかってすごく怒るのに、ランドリーはファデットに助けられたことは秘密だから言わない。
付き合ってることも隠す。
でもひょんなことからそれをシルヴィネは知ってしまう。
シルヴィネはファデットに対してどんどん怒りと憎しみと妬みでいっぱいになるんです。
ファデットを殺したいとすら思う。なかなかの双子BLです。
そしていろいろあって…。
私は少女の頃はもちろんかっこいいランドリーが好きでファデットとの恋愛をうっとり読んでたんですが
あるとき、「これはシルヴィネの話ではないか」と気付いたんですね。少女の頃はむしろ彼が嫌いで良さとかちっともわからなかったのに。
いろいろあってシルヴイネはものすごく成長します
依存ではなく愛を知ってしまい、それが彼の運命を変えてしまうのです。
病弱でおとなしく意地悪だった彼が、誰よりも優しく強く賢く、そしてとても哀しい人になってしまう。
サンドは結局この青年を描きたかったのだ、それがわかったとき、私もちょっと大人になったかなと思いました。
ショパンとサンドは別れてしまうしショパンの葬式にも彼女は参列しなかったそうだけど、このシルヴィネとショパンがとても重なります。
ひねくれて引きこもる彼が少しずつ素敵になっていく姿は今読んでもうっとりします。
みんなみんな幸せになる楽しいお話なのに、シルヴィネの選んだ道は誰よりも気高く美しいのが心にずしんときます。
とても面白いので未読の人はぜひ読んでみてください。ジョルジュ・サンド、天才だから。
あ、「魔の沼」も面白いよ。これ初版には「わが友フレデリック・ショパンへ」ってあるのに二版以降削られてるんです。
そしてそれが「豊穣な創作の終焉」を暗示してるとか言われています。