ユベール・マンガレリ「四人の兵士」 白水社
これがフランスで売れているとしたら、フランスの文学的成熟度はかなり高いと思う。
静かに淡々と語られる兵士の休息。文学的な語り口調などなく、表現は平素、アクロバティックなたとえや小粋な会話もない。戦争文学にありがちな思索的なもの、あるいはヒロイックな行動、手に汗を握るスリリングな展開、そんなものもない。
1919年、ルーマニア戦線から退却中のロシア兵四人は互いに気遣い、一緒に楽しみ、つかの間の時を安らぐ。
シンプルで素直な筆致で描かれる彼らの生活は、読んでいくにつれ、彼らにとってどれだけ貴重なものであったか悟らされる。
やがて、宿営地を引き払うよう命令が下る。追っ手が追いついてきたのだ。そのときの彼らの静かな絶望、不安、とまどい。声高に叫ばない悲しみが痛いように伝わってくる。
「ぼくの横にはシフラがいた。せめて、持って行くのが清潔な毛布でよかったよ、と話しかけると、コートも洗っておけばよかったね、とこたえた。うん、洗えなくて残念だ。そう返事をしたとたん、ぼくは思った。そんな日があと一日でもあったら、沼にコートをざぶんと浸けたり、ごしごしやったりして愉快に過ごせたら。そして、洗ったコートを陽なたに干してやる日が、さらにもう一日あったら」
その一日を希求するのが人間であり、そして悲しいことにほとんどの場合、その一日が再び訪れることはない。
彼らの思い出は記録されることなく消え去ってしまうのだろうか。
しみじみといい本に出会えた。