
おれおれ詐欺をやってみる。
「もしもし、おれおれ」受話器の向こうに緊張感が走るのが感じられる。
「すごい」なぜか感動されるぼく。「おれおれ詐欺ですか」
「ええ、そうです」
「エクスパックを利用したものや還付金詐欺など、手口がこれだけ多様化している中で、なぜあえておれおれ詐欺を?」
「ただ古いからというだけで一顧だにされない風潮というものはいかがなものかと思いまして」
「つまり、プロテストとしてのおれおれ詐欺?」落ち着いた男性の声が言う。「そんな理解でよろしいのでしょうか?」
「そうです。その一方で単なるしきたりを伝統という名で覆い隠すようなことにも異議を唱えたいと思っております」
「要するに、古いからだめ、古いからいい、ということではなく、内容をよく吟味し考える必要があるというお考えで?」
「まさしくその通りです」
「で、わたしはあなたの何役でしょうか?」
「父親役でお願い致します」
「なるほど。短い間ですが、あなたのような息子を持ったことは私の誇りです」
「ありがとうございます」
「では、失礼します」
「あ、待って下さい」ぼくは慌てて引き留める。「お体、大事になさって下さい。父さん」
受話器を置き、窓の外に連なる山塊を眺め、ため息を一つついて、呟く。
「この連休、墓参りに行こうかな」