東京広尾にある、とあるインターナショナルスクールで、脳科学者茂木健一郎氏によるクローズドの講演が行われました。
演題は、「子ども達の脳にとってイフェクティブな大人であるとはどういう事か?!」
90分の講演でした。
生の茂木さんの話を聴く経験は4回目くらいになりますが、毎回、示唆に富む最新情報を聴けるので、今回も期待大で参加しました。
録音・録画禁止ということで、忠実にすべてを記録したわけではありませんが、読者の皆さんと共有したいことを中心に順にレポートします。
1.今の日本の教育の現状について
・最初は、日本の教育で今起きている現実把握のお話。
今の日本では教育方針で大きな2本の流れがあり、1つは従来型の良い大学につながる良い高校それにつながる中学・小学校・幼稚園に入れれば安心という路線。最近はハーバードなどの海外大学進学も増えてきたが東大という頂点の置き場所が変わっただけという流れ。しかし、アメリカ・イギリスなどではどの大学が上で下でという比較は無意味で、コンテンツ(研究内容)勝負的なところがある。なので、こうした日本の流れも今後通用しなくなるのではないか。
・もう一つの流れが、子どもの探究に焦点を充てた教育。好きなこと、いわばオタクなことを徹底追及させるような教育。
・その他として、両者を混在させた京都の堀川高校の例などもある(堀川高校は探学習を中心に据えて、探究活動をさせ、同時に大学受験対策の学習にも力を入れている)
2.茂木さんによるハーバード流模擬面接
・ハーバードなど海外の有名大学の入試はユニーク。一人の面接に2時間かけるところもある。徹底的な質問の深堀により合格者を決める。そういった深堀質問に受験生がどこまでレスポンス良く答えられるか、問題意識を持っているかが見られる。日本の大学入試問題にあるような重箱の隅の記憶をつつくような入試形態ではない。興味・関心や今までの学習履歴全般が深く見られるということ。
・参加者の中から、最前列の方と模擬面談。
ここで実際に参加者の一人をハーバードの受験生、茂木さんが大学の面接官という想定でインタビュー形式入学面談の模擬を実施。やりとりの途中で、こういうレスポンスだと良い/悪い なぜならばという実況が入り、日本の入試とはだいぶ違うという実感が湧きました。どれだけある分野に精通するほど深めたか、またそうした経験を大学でどうつなげ、何をしたいのかを徹底して聞かれるという雰囲気を掴むことができました。
3.幼児教育で大切な事とは
1)マシュマロテストの例
・マシュマロテストとは、幼児の前に好物のマシュマロを見せ、短時間食べずに我慢できたら、もう一個のマシュマロをあげるということを幼児に伝えて実験者が部屋を去り、その後の幼児の反応を見るというもの。
これは、幼児期の自制心を測るテストですが、このマシュマロテストで自制心が働く幼児は成人になっての社会的な成功に相関があるという結果が出た。
・脳科学的に解釈すれば、脳とは単純な話、Go/NoGoを判定していくシステムであり、前頭葉のこの働きの発達具合は将来に大きな影響があることがわかっている
2)「心の理論」の例
・4歳以上の幼児が、周囲の人の顔の表情を読み取れるか。特に表面的な表情ではなく、裏に隠れている意図まで読み取れるかどうかという能力。いわゆるポーカーフェースであっても、その裏に働く意図をどこまで読み取れるかという能力。こうしたことも発達と深く関係。
・桃太郎の物語。あらすじそのものではなく、例えば、桃太郎を送りだした時のおじいさん・おばあさんはどんな気持ちだったか、サル・キジなどにきびだんごをあげたときの桃太郎の思いは?など、登場する人物の心情を考えさせるような読み聞かせを行えば、上記の能力育成に非常に有効となる。
・脳科学的には、これは前頭葉のミラーニューロンに関係する。高機能自閉症の場合、これらの推定が不得意。つまり相手の心を読むのは不得手ということがわかっている。
・ただし、それ自体が良い・悪いというジャッジはあまり意味がない。それは脳の個性の問題と受け取ることが必要。相手の心を読むのは苦手でも数学やプログラミングなどで卓越した能力を示すこともある。ビルゲイツやアインシュタインも高機能自閉症と言われるが、これも個性ということになる。
3)パーソナリティの研究
・パーソナリティに関する研究が近年進んできた。
・特性論の紹介
性格は特性の組み合わせ=5特性因子(ビッグファイブ)
①外向性extraversion
②神経症傾向ニューロティシズム:不安がる傾向
③開放性オープンネス:対人的にオープンな態度を取れるか
④調和性,協調性agreeableness
⑤勤勉性,誠実性consciousness
※これらのパーソナリティは環境により常に変化していく。遺伝とは関係がなく、親の育て方とも関係がない。
幼児教育と関連させれば、園庭での人間関係の関わりなどにもそれが反映されているし、そういったことからも影響を受けるということ
4)成長とドーパミンの放出
・ドーパミンはチャレンジしないと出ない。
そういう意味では大人の単調な生活では出にくいので、意図的にそうしたチャレンジのある環境を作らないと成長できない。赤ちゃんは、常に刺激だらけの環境にある。赤ちゃんの視線でじっとみつめて目で追っているときは、探究して脳が活性化している。
5)大人が子どもの「安全基地」になることの重要性
・10代になって問題行動を取る子どもの追跡調査によると、それは幼児期に「安全基地がなかった」ということがわかっている。すなわち、こうした安全基地になりえる大人がいてくれれば、子どもは安心してチャレンジできるという環境にあり、そうした環境が脳の成長には極めて重要。愛着(アタッチメント)の対象となる大人の存在。
・子どもよりちょっと後ろの立ち位置にたち、安全を確保しつつチャレンジさせていくような感じがいい。
・幼児期の虐待やネグレクトは、その反対の行為となる。こういった場合、発達障害や非行に結びついていく。
・「安全基地をつくる」ということは、実際にはかなり難しいこと。すなわち過保護過ぎず過干渉すぎないちょうどいい距離を子どもとの間に取る必要があるため。
・茂木さんの場合、小さい時にチョウチョオタクであったが、それを母親がきちんと受け止めてくれ、小学校時代からチョウチョに関する学会に入れてくれたりしたことが、今に繋がっている
・母子が離れた環境にあるとしても、子どもの脳内で『インターナルモデル』すなわち、「お母さんは自分に安心感を与えてくれる存在」というようなイメージができていれば物理的に離れていてもなんとかなる。
6)チャレンジ直後にその場でフィードバック
・小さな成功体験をしたとき、間髪を入れずにそこを大きく認めたり、評価する⇒ドーパミンが出る
・「ママ見て~」などの子どもからの合図は、まさにその瞬間
・普段と違う成長を大人が認識するには、変化があるまでじっと観察し続け見守り続ける態度が重要
・『共同注意』も大切。子どもと同じ目線で同じものを見てあげる。子どもとアイコンタクトするなど
・チャレンジしたときに褒める
7)つまり幼児教育は極めて重要
・大学教育の方が幼児教育よりある意味簡単である。
幼児教育は、本当に人の将来を左右するものであり、もっと注目されるべき。
質疑応答コーナー
Q(参加者):言語習得は、やはり小さい頃がいいのか?複数の言語を同時に摂取させても大丈夫なのか?
A(茂木さん):最近は両親が違う言語などという環境があるが、それは影響がない。それはバイリンガルでもトリリンガルでも同じ。人は文脈により言葉を使い分けている。例えば高校生が親、先生、友人によって言葉を使い分けるのは文脈によってそうしている。外国語のCDをただ流していても言語は取得できず意味がない。文脈が伴っていない学習なので、聴いたことない音楽がかかっているのと変わらないので。
Q:パーソナリティは常に変化していくという話があったが、ストレングスファインダーなどのテストでは、20代と70代で行ってもほぼ同じ要素が出てくると言われる。これはどう説明されるのか?
A:政治家なら政治家、教育者なら教育者というように、同じような環境におかれる人の場合、あまり変化はないだろう。しかし、大きく職業を変えていった人などが被験者の場合は、違う結果が出る可能性があると思う。
その他の茂木さんの雑談
・日本はサブカルチャー的なビジネスはいいかもしれないが、アメリカのような大規模なプラットフォームビジネスの展開はまだまだ難しいだろう
・国の制度などにのっかっている教育は、残念ながらあまり先端なことはチャレンジできないだろう
講演を聴いての感想
・茂木さんは自分自らを「一人学級崩壊」と名付けて笑わせていましたが、本当に、話が次から次へと素早く展開されていくので、こちらもなんとかついていく感じでしたが、本当に刺激的な話がたくさん聞けました。
・なんとなく幼児教育は大人になった時の生き方に大きく影響していくだろうという漠然とした思いがありましたが、それが脳科学的にも証明される段階に来ているなぁという実感で裏打ちされました。
・子どもは子どもで日々、いろいろな刺激を受けて成長していくけれど、大人にとって必要なスタンスは、「安全基地になる」ということがとても印象に残りました。大人目線で言えば、「この自分の行動は、子どもの安全基地につながっているか」という思いを常にリマインドしながら、自分に問いかけ続けたとき、子どもの成長にとっても好影響を及ぼすことができるのだなぁということが今回の最大の学びでした。
・今後も脳についての知見と子どもの成長の関係については、知見が進んでいくことでしょうから、注目していきたいと思いました。
演題は、「子ども達の脳にとってイフェクティブな大人であるとはどういう事か?!」
90分の講演でした。
生の茂木さんの話を聴く経験は4回目くらいになりますが、毎回、示唆に富む最新情報を聴けるので、今回も期待大で参加しました。
録音・録画禁止ということで、忠実にすべてを記録したわけではありませんが、読者の皆さんと共有したいことを中心に順にレポートします。
1.今の日本の教育の現状について
・最初は、日本の教育で今起きている現実把握のお話。
今の日本では教育方針で大きな2本の流れがあり、1つは従来型の良い大学につながる良い高校それにつながる中学・小学校・幼稚園に入れれば安心という路線。最近はハーバードなどの海外大学進学も増えてきたが東大という頂点の置き場所が変わっただけという流れ。しかし、アメリカ・イギリスなどではどの大学が上で下でという比較は無意味で、コンテンツ(研究内容)勝負的なところがある。なので、こうした日本の流れも今後通用しなくなるのではないか。
・もう一つの流れが、子どもの探究に焦点を充てた教育。好きなこと、いわばオタクなことを徹底追及させるような教育。
・その他として、両者を混在させた京都の堀川高校の例などもある(堀川高校は探学習を中心に据えて、探究活動をさせ、同時に大学受験対策の学習にも力を入れている)
2.茂木さんによるハーバード流模擬面接
・ハーバードなど海外の有名大学の入試はユニーク。一人の面接に2時間かけるところもある。徹底的な質問の深堀により合格者を決める。そういった深堀質問に受験生がどこまでレスポンス良く答えられるか、問題意識を持っているかが見られる。日本の大学入試問題にあるような重箱の隅の記憶をつつくような入試形態ではない。興味・関心や今までの学習履歴全般が深く見られるということ。
・参加者の中から、最前列の方と模擬面談。
ここで実際に参加者の一人をハーバードの受験生、茂木さんが大学の面接官という想定でインタビュー形式入学面談の模擬を実施。やりとりの途中で、こういうレスポンスだと良い/悪い なぜならばという実況が入り、日本の入試とはだいぶ違うという実感が湧きました。どれだけある分野に精通するほど深めたか、またそうした経験を大学でどうつなげ、何をしたいのかを徹底して聞かれるという雰囲気を掴むことができました。
3.幼児教育で大切な事とは
1)マシュマロテストの例
・マシュマロテストとは、幼児の前に好物のマシュマロを見せ、短時間食べずに我慢できたら、もう一個のマシュマロをあげるということを幼児に伝えて実験者が部屋を去り、その後の幼児の反応を見るというもの。
これは、幼児期の自制心を測るテストですが、このマシュマロテストで自制心が働く幼児は成人になっての社会的な成功に相関があるという結果が出た。
・脳科学的に解釈すれば、脳とは単純な話、Go/NoGoを判定していくシステムであり、前頭葉のこの働きの発達具合は将来に大きな影響があることがわかっている
2)「心の理論」の例
・4歳以上の幼児が、周囲の人の顔の表情を読み取れるか。特に表面的な表情ではなく、裏に隠れている意図まで読み取れるかどうかという能力。いわゆるポーカーフェースであっても、その裏に働く意図をどこまで読み取れるかという能力。こうしたことも発達と深く関係。
・桃太郎の物語。あらすじそのものではなく、例えば、桃太郎を送りだした時のおじいさん・おばあさんはどんな気持ちだったか、サル・キジなどにきびだんごをあげたときの桃太郎の思いは?など、登場する人物の心情を考えさせるような読み聞かせを行えば、上記の能力育成に非常に有効となる。
・脳科学的には、これは前頭葉のミラーニューロンに関係する。高機能自閉症の場合、これらの推定が不得意。つまり相手の心を読むのは不得手ということがわかっている。
・ただし、それ自体が良い・悪いというジャッジはあまり意味がない。それは脳の個性の問題と受け取ることが必要。相手の心を読むのは苦手でも数学やプログラミングなどで卓越した能力を示すこともある。ビルゲイツやアインシュタインも高機能自閉症と言われるが、これも個性ということになる。
3)パーソナリティの研究
・パーソナリティに関する研究が近年進んできた。
・特性論の紹介
性格は特性の組み合わせ=5特性因子(ビッグファイブ)
①外向性extraversion
②神経症傾向ニューロティシズム:不安がる傾向
③開放性オープンネス:対人的にオープンな態度を取れるか
④調和性,協調性agreeableness
⑤勤勉性,誠実性consciousness
※これらのパーソナリティは環境により常に変化していく。遺伝とは関係がなく、親の育て方とも関係がない。
幼児教育と関連させれば、園庭での人間関係の関わりなどにもそれが反映されているし、そういったことからも影響を受けるということ
4)成長とドーパミンの放出
・ドーパミンはチャレンジしないと出ない。
そういう意味では大人の単調な生活では出にくいので、意図的にそうしたチャレンジのある環境を作らないと成長できない。赤ちゃんは、常に刺激だらけの環境にある。赤ちゃんの視線でじっとみつめて目で追っているときは、探究して脳が活性化している。
5)大人が子どもの「安全基地」になることの重要性
・10代になって問題行動を取る子どもの追跡調査によると、それは幼児期に「安全基地がなかった」ということがわかっている。すなわち、こうした安全基地になりえる大人がいてくれれば、子どもは安心してチャレンジできるという環境にあり、そうした環境が脳の成長には極めて重要。愛着(アタッチメント)の対象となる大人の存在。
・子どもよりちょっと後ろの立ち位置にたち、安全を確保しつつチャレンジさせていくような感じがいい。
・幼児期の虐待やネグレクトは、その反対の行為となる。こういった場合、発達障害や非行に結びついていく。
・「安全基地をつくる」ということは、実際にはかなり難しいこと。すなわち過保護過ぎず過干渉すぎないちょうどいい距離を子どもとの間に取る必要があるため。
・茂木さんの場合、小さい時にチョウチョオタクであったが、それを母親がきちんと受け止めてくれ、小学校時代からチョウチョに関する学会に入れてくれたりしたことが、今に繋がっている
・母子が離れた環境にあるとしても、子どもの脳内で『インターナルモデル』すなわち、「お母さんは自分に安心感を与えてくれる存在」というようなイメージができていれば物理的に離れていてもなんとかなる。
6)チャレンジ直後にその場でフィードバック
・小さな成功体験をしたとき、間髪を入れずにそこを大きく認めたり、評価する⇒ドーパミンが出る
・「ママ見て~」などの子どもからの合図は、まさにその瞬間
・普段と違う成長を大人が認識するには、変化があるまでじっと観察し続け見守り続ける態度が重要
・『共同注意』も大切。子どもと同じ目線で同じものを見てあげる。子どもとアイコンタクトするなど
・チャレンジしたときに褒める
7)つまり幼児教育は極めて重要
・大学教育の方が幼児教育よりある意味簡単である。
幼児教育は、本当に人の将来を左右するものであり、もっと注目されるべき。
質疑応答コーナー
Q(参加者):言語習得は、やはり小さい頃がいいのか?複数の言語を同時に摂取させても大丈夫なのか?
A(茂木さん):最近は両親が違う言語などという環境があるが、それは影響がない。それはバイリンガルでもトリリンガルでも同じ。人は文脈により言葉を使い分けている。例えば高校生が親、先生、友人によって言葉を使い分けるのは文脈によってそうしている。外国語のCDをただ流していても言語は取得できず意味がない。文脈が伴っていない学習なので、聴いたことない音楽がかかっているのと変わらないので。
Q:パーソナリティは常に変化していくという話があったが、ストレングスファインダーなどのテストでは、20代と70代で行ってもほぼ同じ要素が出てくると言われる。これはどう説明されるのか?
A:政治家なら政治家、教育者なら教育者というように、同じような環境におかれる人の場合、あまり変化はないだろう。しかし、大きく職業を変えていった人などが被験者の場合は、違う結果が出る可能性があると思う。
その他の茂木さんの雑談
・日本はサブカルチャー的なビジネスはいいかもしれないが、アメリカのような大規模なプラットフォームビジネスの展開はまだまだ難しいだろう
・国の制度などにのっかっている教育は、残念ながらあまり先端なことはチャレンジできないだろう
講演を聴いての感想
・茂木さんは自分自らを「一人学級崩壊」と名付けて笑わせていましたが、本当に、話が次から次へと素早く展開されていくので、こちらもなんとかついていく感じでしたが、本当に刺激的な話がたくさん聞けました。
・なんとなく幼児教育は大人になった時の生き方に大きく影響していくだろうという漠然とした思いがありましたが、それが脳科学的にも証明される段階に来ているなぁという実感で裏打ちされました。
・子どもは子どもで日々、いろいろな刺激を受けて成長していくけれど、大人にとって必要なスタンスは、「安全基地になる」ということがとても印象に残りました。大人目線で言えば、「この自分の行動は、子どもの安全基地につながっているか」という思いを常にリマインドしながら、自分に問いかけ続けたとき、子どもの成長にとっても好影響を及ぼすことができるのだなぁということが今回の最大の学びでした。
・今後も脳についての知見と子どもの成長の関係については、知見が進んでいくことでしょうから、注目していきたいと思いました。