今回のレポートは、去る2023年7月8日~9日にかけて参加したネオ・ソクラティック・ダイアローグ(略称 NSD)の後半、コンテンツ編です。
NSD全般およびメソッドやプロセスについては、こちらのブログをご覧ください。
【結論】
まずは、今回のNSDのお題となった”信頼とは何か?”という問いに対する答えの定式化(全員が合意した記述)について、結論を先に記述します。
※参加者に共有されているドキュメントから主催者の許可のもと掲載
====引用ここから====
{問いに対する答えの定式化}
信頼が生じるには、相手が私の価値観を認識しているかどうかにかかわらず、私の価値観に共鳴した相手の行動を、私が量的に数えたと仮定して、その量が私の基準値をこえる必要がある。
「価値観」とは、「好き嫌い」、「良し悪しの判断基準」であり、「~像」や「~観」であり、「~すべき」、「当然~である」と思うことである。具体的には、「~を大事にする」、「~の責任を取る」などの項目がある。
信頼が生じた後に、私の価値観に反する行動がとられたとしても、信頼がなくなるというわけではない。それは、基準値を超えているという状態があるからである。ただし、基準値を下回るようなマイナスの行動があれば、信頼できなくなる。なお、自分の基準値や受け取る行動の量も変動し、それによって信頼度合いもまた変わる。
====引用ここまで====
この結論は、NSDの最後に出たものですが、ここに至るまでに2日間のダイアローグ(対話)が行われているわけです。そのすべてをトレースして記述するのは不可能ですので、今回のブログでは、筆者が興味をもったトピックに絞って図解入りで解説を試みたいと思います。
【対話のトピックとなったこと】
「信頼とは何か?」の問いを探求していくために、ある一人から提供される信頼と関係するエピソードから、答えに関係するエッセンスを抽出していくことになります。これをNSDでは「事例の詳述と、相互の質問による具体化・洗練化」と呼んでいますが、そこでトピックになった事項は、以下のようなものでした(青字)。
言行一致とは何か
リスペクト、敬うこと、尊重、尊敬と何が違うのか?
相手を大事にすることと信頼・信用との関係性
”信用”と”信頼”の違い
大事にすることの内実
信頼の強度
信頼が生じるまで
信頼が生じたあと
閾値という言葉
責任・逃げない・覚悟について
価値観とは何か
【図解にしてみた事項】
1日目の対話終了後、および2日目の対話の最中に、自分の中でのもやもやしたものを一度、図式化してみようと思いました。それらの図解を示しつつ、簡単に解説したいと思います。なお、ここの図解については、筆者の独断で作成したものであり、参加メンバーの正式な全体合意をはかっているものではありませんが、参加メンバーには会場でも示させていただきました。
(1)相互の信頼関係についての整理
信頼という言葉は、製品やサービスについて使われる場合もありますが、今回の対話では主に人間関係についての信頼の話が大半を占めていました。ここでAさん、Bさんの2名の間の信頼関係について整理したものが以下の図です。
・AがBを信頼し、BもAを信頼する⇒相互信頼の関係。
・AはBを信頼するが、BはAを信頼していない⇒一方的不信の関係。例としては「上司は部下を信頼して仕事を頼むが、部下は上司のことを信頼はしていない」ケースなど
・AはBを信頼しないが、BはAを信頼している⇒一方的な憧れの関係。例としては「上司は部下を信頼していないから仕事を頼んだりしないが、部下は上司を憧れの存在として信頼している」
・AはBを信頼しないし、BもAを信頼しない⇒相互不信
(2)大事にすること(原因)と信頼(結果)の関係の整理
対話において、大事にすることと信頼醸成との関連は、重要であるという認識が生まれたのですが、その原因と結果の矢印については精度をあげて探求する必要がありました。そこで改めて図解したものが以下になります。
・AはBを大事にするから(原因)、BはAを信頼する{ありえる}
・AはBを大事にするが、BはAを信頼しない{ありえる}例:虐待を受けている子どもは、親代わりの大人をなかなか信頼しない。(信頼醸成には時間がかかる)
・AはBを大事にしないが、BはAを信頼する{通常はありえない}
・AはBを大事にしないから、結果、BはAを信頼しない{ありえる}
(3)信用と信頼の言葉の違いの整理
対話の中で、信用と信頼はどう違うのだろうという疑問が出ました。似ている言葉の違いを鮮明にすることにより、信頼という言葉の本質がよりくっきりすることがあります。
・信用は、部分的なものであるが、信頼は全体的なものである。
例:Aさんの金銭管理については”信用”するが、交友関係については疑問符がつく(→人柄含めた全体としての信頼を置いてはいない)
(4)尊重、尊敬、リスペクトの言葉の違いの整理
これらの言葉は、あまり意識なく区別なく使ったりしているが、慎重に考えると若干ニュアンスが違うように思われます。
・「尊重する」は、わりと対象相手とは対等関係な立場で、「大事にする」という言葉をより丁寧に表現したもの。
・「リスペクト」は、若干、対象相手を上に置いた立場で、「大事にする」に「敬う」の概念が加わったもの。
・「尊敬」は、対象相手が明確に上で、「敬う」という言葉をより丁寧に表現したもの。
(5)信頼醸成・信頼継続のプロセス
ある意味、これが信頼の定義の理解に関わる重要な確信であると思ったので、図解してみました。なお、以下では、図解には入っていない議論の要素も加えています。
・信頼は、突如として出現するのではなく、人は相手から大事にされると実感する機会が複数あり、信頼の強度を表す曲線が徐々にあがっていく。人によって信頼の閾値(基準値)は違い、その閾値を超えると、「信頼してもよい」という状態になり、信頼する期間ともいうべき時期に入る。
・大事にするというのは、「イコール、表面的に丁寧に扱われる」ということではない。頻繁に声掛けを受けることを大事と感じる人もいれば、あえて声掛けは控えてもらう方が伸び伸び自分のペースでできる安心を得る人もいる。共通しているのは、その対象者に対する思いやり言動・行動があるかどうかということ。
・「大事にする」には、リーダー的立場の責任・逃げない姿勢・覚悟などといったものが含まれる。
・しばらく会っていないというような状態にあっても、いったんできた信頼は、そう簡単には崩れない。ただし、信頼を失墜する行為などがあれば、その閾値未満になってしまうため、再び信頼を取り戻すには、時間がかかる(程度によっては信頼回復が無理なケースもある)
・信頼の閾値(基準値)は、人によって異なる。短時間や軽度の大事にされる行為によってわりと容易に相手を信頼する場合もあれば、かなり疑り深くて長時間の見極めがないと相手を信頼できないというケースもある。
・信頼の閾値(基準値)は、同一人物でも本人の心身のコンディションによっても左右される。ただし、その上下の変動がどのようなメカニズムで生じるかについては、さらに深い探求が必要となり、今回の対話セッション時間内では解明できないであろう。
(6)価値観の共鳴について
親子や上司・部下のように直接相手との接触がある場合は、大事にする(原因)⇒信頼(結果)の関係がわかりやすいですが、より拡張して考えると、一度も直接接触が無い人でも信頼をおける人と判断する場合があります。これは、自分が持っている価値観との共鳴が背後にありそうだという対話がありました。
また、「信頼とは何か?」を追求するサブテーマとして、「価値観とは何か?」という対話も行われ、冒頭の”「価値観」とは、「好き嫌い」、「良し悪しの判断基準」であり、「~像」や「~観」であり、「~すべき」、「当然~である」と思うことである。具体的には、「~を大事にする」、「~の責任を取る」などの項目がある。”という項目が加わっています。
【最後に ・・・ 本質を探究する面白さ】
NSDを体験してみて、本質を探究する面白さを再度味わえた感じがあります。1つのテーマについて、2日間まるまるを対話による探求に充てる経験は、初体験でした。頭も体も疲れるのですが、終わった後の開放感や達成感がありました。
また、不思議なのですが、誰もが日常使っている言葉には、表面的に詳しく議論しているわけではないにも関わらず、目に見えない暗黙の了解のような共通了解している事柄があり、それをまったく正確ではないにしろ追求して言語化・明確化していくことにより、ものの本質が見えてくるのが興味深かったです。
この場を借りて主催者、講師、参加の皆様に改めてお礼を申し上げます。
ありがとうございました!