万葉の古代から知られている「ナンバンギセル」。「道の辺の尾花がしたの思ひ草今さらになど物か思はむ(巻第 14 - 2270)」。ススキの根元に寄生するナンバンギセルを、下を向いて咲いているので「思い草」と読んだらしい。南蛮のキセルという現在の呼び名と比較して、なんと上品なことだろう。たしかに南蛮渡来のキセルに似てはいるのだが。「うつむきて誰を思ふや思草 」(鷹羽狩行)。
(2020-10 東京都)
ナンバンギセル
学名:Aeginetia indica
和名:ナンバンギセル その他の名前:オモイグサ
科名 / 属名:ハマウツボ科 / ナンバンギセル属
ナンバンギセルは、古くは『万葉集』にも登場する一年草の寄生植物です。日本の野外では主にススキに寄生しますが、ほかのイネ科の植物やミョウガやギボウシ、ユッカなどにも寄生し、陸稲やサトウキビの栽培地帯では大害草として嫌われます。
草姿は喫煙具のパイプを立てたような形をしています。萼の先端は鋭くとがり、花は長さ2~3cmで赤紫色、先端はあまり開きません。日本に生えるものは茎が赤茶色か、薄黄色の地に赤茶色の細かな縞状の模様が入ります。茎が黄色で真っ白な花が咲く白花や、茎は黄色で花弁の先端部分のみが赤紫色を帯びる口紅咲きもあります。
変種のヒメナンバンギセル(Aeginetia indica var. sekimotoana)はやや小型で花の先端が青紫色を帯びます。北関東だけに分布し、スゲの仲間のクロヒナスゲにのみ寄生します。
基本データ
園芸分類 山野草,草花
形態 一年草 原産地 東アジアから東南アジア、南アジアの亜熱帯から温帯
草丈/樹高 10cm前後(南の地域では30~50cmに達することがある)
開花期 8月~10月
花色 紫,白
耐寒性 弱い 耐暑性 普通
特性・用途 盆栽向き
思草 の例句
うつむきて誰を思ふや思草 鷹羽狩行
もう種の取られてありし思ひ草 右城暮石 散歩圏
ハブ頭あげて屋久島きせる草 百合山羽公 樂土以後
冬に入る芒の中の思ひ草 後藤比奈夫
台風になんばんぎせる無事なりし 右城暮石 散歩圏
唖々と鴉南蛮煙管珠を抱き 佐藤鬼房
思ひ草出て居らずやと通るたび 右城暮石 散歩圏
思ひ草寄生の芒弱り来し 右城暮石 散歩圏
思ひ草次第細りに三年目 右城暮石 天水
思ひ草胃なし男に返り咲く 佐藤鬼房
思草いろをはじめのいろはうた 森澄雄
思草鉢に咲きしともたらせり 松崎鉄之介
月光に探さうなんばんぎせるかな 岡井省二 鯛の鯛
杳(とほ)きわが南蛮煙管飢餓童子 佐藤鬼房
横向いてゐるのが不思議思ひ草 後藤比奈夫
異草にまぎれてかなし思草 富安風生
窓越しになんばんぎせる生えしと声 松崎鉄之介
良寛に似るとも見てし思草 右城暮石 句集外 昭和六十一年
野の日すつきりとなんばんぎせるかな 岡井省二 山色
鷹の羽の薄に侍女の思ひ草 阿波野青畝
鹿来てもなんばんぎせる瞳へざる 阿波野青畝
黒き種南蛮煙管にもありし 右城暮石 一芸