春の小諸を散策する
(単独散策)
2008年3月10日(月)
■長野新幹線で軽井沢へ
所用があって,故郷の小諸を,3ヶ月ぶりに訪れた。
生憎の天候で,朝から時々小雨が降っている。
9時30分頃,大船駅を出発,東京から長野新幹線に乗車する。途中の停車駅は上野,大宮,軽井沢。11時26分,軽井沢駅に到着する。雨上がりの軽井沢駅周辺は,浅い霧に覆われている。標高1000メートル弱の軽井沢は,さすがに寒い。
霧の向こうに,周辺の山が,うっすらと見えている。山肌には残雪がある。
しなの鉄道に乗り換えて,小諸に向かう・・・が,しなの鉄道の電車は,1時間に1本程度しか走っていない。しかも,新幹線との接続も,余り良くなく,50分も待たなければならない。
時間の潰しようもなく,暫くの間,軽井沢駅前周辺をウロウロと歩き回る。今はシーズンオフのためか,人影も疎らである。その内に,雨がポツポツと落ちてくる。仕方なく,駅舎に戻り,構内のレストランに入って時間を過ごす。
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<人影まばらな軽井沢駅>
■碓氷峠の電気機関車
少々早めにしなの鉄道のホームに入る。ホームには,もう電車が停まっている。乗降口を手で開けて,列車に乗り込む。まだ,乗客は誰も居ない。車内に入ると,暖房が利いていて,ホッとした気分になる。
今日は曇り空なので,車窓から浅間山は見えないだろうと思いながらも,万一を期待して,進行方向右側のボックス席に座る。
すぐ目の前には,旧信越本線の上りホームがある。そこには,懐かしいアプト式の電気機関車が数台展示されている。余りに懐かしいので,無理な姿勢をしながら数枚の写真を撮る。
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<アプト式電気機関車>
私は,昔,昔,新制高校を卒業して直ぐに東北地方にある某国立大学に進学した。新学期が始まる4月早々,私は生まれて初めて,自分の家を離れ,この碓氷峠を越えて,下宿のある仙台まで向かった。あの時も,今展示されているのと同じ電気機関車に牽かれて,26個のトンネルを潜った。下り坂に向かって列車の先頭に2輌(3輌かも知れない),末尾に1輌の電気機関車が連結されていた。
発車時刻になると,先頭の電気機関車から順に,「ピー,ピー,ポー」と汽笛を鳴らして動き出した。途中,ほとんど乗降客の居ない熊ノ平駅に停車した。アプト式のラックレールに歯車をかみ合わせながら,ユックリ,ユックリと列車は進む。
やがて横川駅に到着する。駅弁売りの声が勇ましく聞こえてくる。ここで電気機関車は切り離され,蒸気機関車のD50かD51が連結される。横川から先は,アプト式に比較するともの凄い速度で,高崎を目指して下っていく。
小諸を出発して,浅間山を眺めながら軽井沢まで進む間は,穏やかな気分で居られるが,軽井沢を過ぎて,トンネルを潜り始めると,途端に,暫くの間,故郷を離れて暮らす寂しい気持に押しつぶされそうになる。そんな経験を,この電気機関車とともに何回味わったことか・・・・電気機関車を眺めながら,そんな青春の一時を思い出すと,体中が甘酸っぱくなってしまう。
■浅間山は雲の中
12時15分発小諸行列車が軽井沢を発車する。発車時間間際に男女の高校生,数名がドヤドヤと電車に乗り込んでくる。途端に辺りが騒がしくなる。3両編成。私が乗っている車輌には乗客数名。高校生の他に,一般乗客は私と,もう1人の男性2人だけ。
晴れていれば,車窓から見えるはずの浅間山は雲に覆われていて全く見えない。残念。
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<地面から沸き上がる春の息吹>
中軽井沢(昔の追分駅),沓掛,御代田・・・と,列車が進むに連れて,懐かしさが込み上げてくる。僅か3ヶ月前に小諸を訪れているのに・・・
12時39分に小諸駅に到着する。
駅周辺は,相変わらず人気が殆どない。閑散としている。
仕事で約束している時間は,15時30分である。まだ,十分に時間がある。久々の生まれ故郷である。どこへ行こうかと迷うが,結局,懐古園を一回りすることにする。
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<閑散とした小諸駅前広場>
■懐古園を一回り
長くて無機質な形をした跨線橋を渡って,懐古園側に出る。
あまり言いたくはないが,この跨線橋,辺りの景観を台無しにしているような気がしてならない・・・勿論,私の勝手な個人的印象だが。もう少し控えめに,目立たないように作ったら良いのにと残念である。
跨線橋を渡ったすぐ側にある小諸義塾の校舎を訪れる。洒落た小さな建物である。私の祖父も,この小諸義塾に,多少,関わりがあったので,とても興味深く見学する。この建物の何処かで,祖父も歩き回っていたに相違ない。一体,この建物のどの辺りに座っていたのだろう,どの辺りの窓から外を眺めていたのだろう・・・そんなことを想像していると,瞬く間に時間が過ぎてしまう。
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<小諸義塾>
三ノ門を潜って,懐古園に入る。窓口で入場料を払って,園内に入る。今回は,動物園の方から入って,園内を一回りしようと思う。動物園には全く人気がない。入場者は,どうやら私1人だけのようである。
小さな檻の中で,クマが木を枕にして,仰向けになって居眠りをしている。
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<三ノ門>
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<白鶴橋> <冬枯れの千曲川>
■蒸気機関車C11
白鶴橋を渡って,馬場に入る。富士見台に立ち寄るが,あいにくの天気で,富士山は全く見えない。馬場から,「想像の森」の散策路を辿って,千曲川近くまで降りて見る。冬枯れの木立の間から,千曲川が見下ろせる。
再び馬場に戻り,藤村詩碑,水ノ手展望台を訪れる。
続いて,酔月橋を渡って,鹿島神宮,郷土博物館,小山敬三美術館などを訪れる。その間,結局,観光客とは全く会わず,終始,私一人であった。
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<藤村詩碑>
小山敬三美術館では,あの素晴らしい浅間山の絵を鑑賞する。力強い絵を見て,改めて深い感銘を受ける(この絵の感想は,このブログで以前,書いている)。
寅さん会館の脇から,懐古園を出て,鹿島参道を北上して,小諸駅に向かう。途中の駐車場から三ノ門に出る。駐車場の片隅に展示されている蒸気機関車C11を眺める。C11は小海線で活躍していた蒸気機関車である。私の耳の中には,「シュゥ~,シュゥ~・・」という排気の音が,今でもこびり付いている。
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<蒸気機関車C11>
■北国街道
14時頃,一旦,小諸駅に戻る。待合室のベンチに座って小休止する。数名の客が小さな待合室の真ん中の石油ストーブで暖を取っている。
数分休憩を取った後,小諸駅を出発して,北国街道沿いに,上田の方へ歩き出す。沢山の自動車が走っている。一面の麦畑の中,未舗装の1車線の国道だった頃のことを懐かしく思い出しながら歩き続ける。
幼少の頃,小諸市内から2キロメートルほど離れた西原という所に住んでいた親戚の家によく遊びに行った・・・あの頃は,この街道を通る自動車など滅多になかった。砂埃を上げながら自動車が走ってくると,数百メートル手前から,
「自動車が来るぞ・・・」
と叫びながら,通り過ぎるのを見送っていた。たった50~60年の間に随分と変わったものである。
そういえば,昨年訪れたパプアニューギニアのハイランと地方は,あの頃の日本と良く似ていた。
■佐久平
西原の手前で,ちょっとした用件を済ませた私は,16時過ぎに小諸駅に戻る。
小諸16時35分発小海線の列車で佐久平に向かう。長閑な車窓を楽しむ。所が佐久平駅に近くなると,一見無秩序に思えるほど沢山のビルが立ち並び始める。この光景を見た途端に,私の感傷旅行は終わりになり,現実に引き戻される。
長野新幹線佐久平17時12分発の列車に乗車する。軽井沢から沢山の観光客が乗車する。途端に車内が賑やかになる。20時前に,無事,帰宅する。
(おわり)
(単独散策)
2008年3月10日(月)
■長野新幹線で軽井沢へ
所用があって,故郷の小諸を,3ヶ月ぶりに訪れた。
生憎の天候で,朝から時々小雨が降っている。
9時30分頃,大船駅を出発,東京から長野新幹線に乗車する。途中の停車駅は上野,大宮,軽井沢。11時26分,軽井沢駅に到着する。雨上がりの軽井沢駅周辺は,浅い霧に覆われている。標高1000メートル弱の軽井沢は,さすがに寒い。
霧の向こうに,周辺の山が,うっすらと見えている。山肌には残雪がある。
しなの鉄道に乗り換えて,小諸に向かう・・・が,しなの鉄道の電車は,1時間に1本程度しか走っていない。しかも,新幹線との接続も,余り良くなく,50分も待たなければならない。
時間の潰しようもなく,暫くの間,軽井沢駅前周辺をウロウロと歩き回る。今はシーズンオフのためか,人影も疎らである。その内に,雨がポツポツと落ちてくる。仕方なく,駅舎に戻り,構内のレストランに入って時間を過ごす。
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<人影まばらな軽井沢駅>
■碓氷峠の電気機関車
少々早めにしなの鉄道のホームに入る。ホームには,もう電車が停まっている。乗降口を手で開けて,列車に乗り込む。まだ,乗客は誰も居ない。車内に入ると,暖房が利いていて,ホッとした気分になる。
今日は曇り空なので,車窓から浅間山は見えないだろうと思いながらも,万一を期待して,進行方向右側のボックス席に座る。
すぐ目の前には,旧信越本線の上りホームがある。そこには,懐かしいアプト式の電気機関車が数台展示されている。余りに懐かしいので,無理な姿勢をしながら数枚の写真を撮る。
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<アプト式電気機関車>
私は,昔,昔,新制高校を卒業して直ぐに東北地方にある某国立大学に進学した。新学期が始まる4月早々,私は生まれて初めて,自分の家を離れ,この碓氷峠を越えて,下宿のある仙台まで向かった。あの時も,今展示されているのと同じ電気機関車に牽かれて,26個のトンネルを潜った。下り坂に向かって列車の先頭に2輌(3輌かも知れない),末尾に1輌の電気機関車が連結されていた。
発車時刻になると,先頭の電気機関車から順に,「ピー,ピー,ポー」と汽笛を鳴らして動き出した。途中,ほとんど乗降客の居ない熊ノ平駅に停車した。アプト式のラックレールに歯車をかみ合わせながら,ユックリ,ユックリと列車は進む。
やがて横川駅に到着する。駅弁売りの声が勇ましく聞こえてくる。ここで電気機関車は切り離され,蒸気機関車のD50かD51が連結される。横川から先は,アプト式に比較するともの凄い速度で,高崎を目指して下っていく。
小諸を出発して,浅間山を眺めながら軽井沢まで進む間は,穏やかな気分で居られるが,軽井沢を過ぎて,トンネルを潜り始めると,途端に,暫くの間,故郷を離れて暮らす寂しい気持に押しつぶされそうになる。そんな経験を,この電気機関車とともに何回味わったことか・・・・電気機関車を眺めながら,そんな青春の一時を思い出すと,体中が甘酸っぱくなってしまう。
■浅間山は雲の中
12時15分発小諸行列車が軽井沢を発車する。発車時間間際に男女の高校生,数名がドヤドヤと電車に乗り込んでくる。途端に辺りが騒がしくなる。3両編成。私が乗っている車輌には乗客数名。高校生の他に,一般乗客は私と,もう1人の男性2人だけ。
晴れていれば,車窓から見えるはずの浅間山は雲に覆われていて全く見えない。残念。
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<地面から沸き上がる春の息吹>
中軽井沢(昔の追分駅),沓掛,御代田・・・と,列車が進むに連れて,懐かしさが込み上げてくる。僅か3ヶ月前に小諸を訪れているのに・・・
12時39分に小諸駅に到着する。
駅周辺は,相変わらず人気が殆どない。閑散としている。
仕事で約束している時間は,15時30分である。まだ,十分に時間がある。久々の生まれ故郷である。どこへ行こうかと迷うが,結局,懐古園を一回りすることにする。
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<閑散とした小諸駅前広場>
■懐古園を一回り
長くて無機質な形をした跨線橋を渡って,懐古園側に出る。
あまり言いたくはないが,この跨線橋,辺りの景観を台無しにしているような気がしてならない・・・勿論,私の勝手な個人的印象だが。もう少し控えめに,目立たないように作ったら良いのにと残念である。
跨線橋を渡ったすぐ側にある小諸義塾の校舎を訪れる。洒落た小さな建物である。私の祖父も,この小諸義塾に,多少,関わりがあったので,とても興味深く見学する。この建物の何処かで,祖父も歩き回っていたに相違ない。一体,この建物のどの辺りに座っていたのだろう,どの辺りの窓から外を眺めていたのだろう・・・そんなことを想像していると,瞬く間に時間が過ぎてしまう。
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<小諸義塾>
三ノ門を潜って,懐古園に入る。窓口で入場料を払って,園内に入る。今回は,動物園の方から入って,園内を一回りしようと思う。動物園には全く人気がない。入場者は,どうやら私1人だけのようである。
小さな檻の中で,クマが木を枕にして,仰向けになって居眠りをしている。
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<三ノ門>
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<白鶴橋> <冬枯れの千曲川>
■蒸気機関車C11
白鶴橋を渡って,馬場に入る。富士見台に立ち寄るが,あいにくの天気で,富士山は全く見えない。馬場から,「想像の森」の散策路を辿って,千曲川近くまで降りて見る。冬枯れの木立の間から,千曲川が見下ろせる。
再び馬場に戻り,藤村詩碑,水ノ手展望台を訪れる。
続いて,酔月橋を渡って,鹿島神宮,郷土博物館,小山敬三美術館などを訪れる。その間,結局,観光客とは全く会わず,終始,私一人であった。
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<藤村詩碑>
小山敬三美術館では,あの素晴らしい浅間山の絵を鑑賞する。力強い絵を見て,改めて深い感銘を受ける(この絵の感想は,このブログで以前,書いている)。
寅さん会館の脇から,懐古園を出て,鹿島参道を北上して,小諸駅に向かう。途中の駐車場から三ノ門に出る。駐車場の片隅に展示されている蒸気機関車C11を眺める。C11は小海線で活躍していた蒸気機関車である。私の耳の中には,「シュゥ~,シュゥ~・・」という排気の音が,今でもこびり付いている。
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<蒸気機関車C11>
■北国街道
14時頃,一旦,小諸駅に戻る。待合室のベンチに座って小休止する。数名の客が小さな待合室の真ん中の石油ストーブで暖を取っている。
数分休憩を取った後,小諸駅を出発して,北国街道沿いに,上田の方へ歩き出す。沢山の自動車が走っている。一面の麦畑の中,未舗装の1車線の国道だった頃のことを懐かしく思い出しながら歩き続ける。
幼少の頃,小諸市内から2キロメートルほど離れた西原という所に住んでいた親戚の家によく遊びに行った・・・あの頃は,この街道を通る自動車など滅多になかった。砂埃を上げながら自動車が走ってくると,数百メートル手前から,
「自動車が来るぞ・・・」
と叫びながら,通り過ぎるのを見送っていた。たった50~60年の間に随分と変わったものである。
そういえば,昨年訪れたパプアニューギニアのハイランと地方は,あの頃の日本と良く似ていた。
■佐久平
西原の手前で,ちょっとした用件を済ませた私は,16時過ぎに小諸駅に戻る。
小諸16時35分発小海線の列車で佐久平に向かう。長閑な車窓を楽しむ。所が佐久平駅に近くなると,一見無秩序に思えるほど沢山のビルが立ち並び始める。この光景を見た途端に,私の感傷旅行は終わりになり,現実に引き戻される。
長野新幹線佐久平17時12分発の列車に乗車する。軽井沢から沢山の観光客が乗車する。途端に車内が賑やかになる。20時前に,無事,帰宅する。
(おわり)