＜高山駅「飛騨べんとう」＞
趣味三昧；駅弁回顧録：昭和5?年高山駅「飛騨べんとう」
２０１２年９月１１日（火）
※駅弁回顧録のつづき
昭和5?年（197？年）9月19日
この駅弁を購入したときのことは，今でも鮮明に覚えているが，いつ頃のことだったのか思い出せない．駅弁包装紙の日付スタンプを見ても，肝心の「年」が入って居ない．多分，昭和50年代初めの頃だったと思う．
毎度，同じような書き出しになってしまうが，その頃，私は第一線の管理職．人生の中で一番脂がのっていた頃かも知れない．
私は金沢・富山地区の営業所強化のために出張していた．仕事が終えてその日は出張先で1泊．翌朝，終日汽車に揺られて帰京した．当時は飛行機を利用するなんて考えられない時代．夜行列車で移動するか，終日，列車に揺られて移動するかのどちらかしかなかった．
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私は少々時間が掛かるが，高山本線と東海道本線を利用して帰ることにした．なぜそんなコースを選んだかの理由は至極簡単．高山駅の駅弁の包装紙が欲しかったからである．
どんな列車だったか？
ボックス席が並ぶ普通の客車に乗っていたのを覚えているので，蒸気機関車で機関車を牽引していたに違いない．
勿論，客車には冷房など全くない．列車は空いていたので，ボックス席を1人で占領して，車窓から流れ込む涼しい風に当たりながら旅を楽しむ．ただ，風向きにより石炭の燃えかすが，ピチピチと顔に当たるのが辛い．燃えかすがうっかり眼に入ると往生する．それさえ我慢できれば，旅は実に快適である．
富山を出発した列車は，稲刈り寸前の稲穂が一面に広がる富山平野をばく進する．列車は線路の両側の稲穂をザワザワとかき分けるようにしてまっしぐらに南を目指す．車窓からは少し生暖かい風が吹き込んでくるので気持ちがよい．ただ，列車が駅に到着すると風は止んで，急に蒸し暑くなる．
こんなことを繰り返している内に，列車はやがて富山県と岐阜県の県境に近づく．見渡す限りの水田は，何時の間にか終わっていて，列車は山間の川に沿った登り坂を走っている．トンネルに入る．機関車の煙を避けるために慌てて窓を閉める．煙の臭いが車内に充満する．トンネルをでると，一刻も早く車内の煙を外に出すために窓を開ける．今度は鉄橋を渡る．樹木がこんもりと繁茂する山の斜面から無数の昆虫が舞い上がる．
蛇行する川に沿って，トンネルと鉄橋を繰り返しながら列車は進む．このときの美しい光景が，40年ほど経った今でも鮮明に思い出す．
列車は高山駅に到着する．私はここで途中下車．どの程度待ち時間があったが正確には覚えていないが，多分，1時間ほどだったかと思う．私は大急ぎで高山駅周辺の街をデタラメに歩いて，再び駅に戻る．そして．この包装紙の駅弁を購入した．
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改めて，この駅弁の包装紙を眺める．金亀館という弁当屋が作った弁当のようである．値段は800円．あの頃の弁当の値段としては，かなり高級な弁当のように思えるが，残念ながら中身がどんなものだったか全く覚えていない．当時の私は，多分，駅弁の中身には殆ど興味が無く，ひたすら包装紙ばかり集めていたようである．
包装紙のデザインは合掌造りの家．包装紙の左隅の但し書きを見ると，どうやら地元の中学生が彫ったものらしい．すばらしい包装紙である．
あれから幾星霜．私はもうとっくに現役を退いた．
あれ以降，私は二度と高山を訪れていない．あのとき，今度はユックリ合掌作りの家でも見物に来ようかなと思っていたのに，まだ，その機会がない．
「ひょっとすると，二度と高山を訪れることなしに，帰りのキップのない旅に出てしまうのかな・・」
私は何となく不安になる．
（つづく）
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