ウイルヘルム山登頂記(16):山頂を目指して(3)
ウイルヘルム山の山頂に立つ
2007年2月10日(土)~17日(日)
第5日目 2007年2月14日(火)(つづき)
■トビアスの靴が壊れる
6時10分から,ほぼ平らなトラバース道を進む。
突然,ガイドのトビアスが履いている登山靴が不具合になる。右側の登山靴の底が,足先の方から剥離し始めて,パクパクしている。そこで暫時休憩を取り,登山靴を修理する。自転車のタイヤチューブを切って作ったゴムひもを使って,剥離しそうな底を縛り付ける。しかし,ほんの40~50メートルほど歩くと,ゴム紐が解けてしまう。仕方なく,また,ゴム紐で靴底を結び直す。
仲間が私より300メートルほど先を歩いているのが見えるが,とても追いつけない。ウイルヘルム山の山頂は,近くに見えているものの,いくら歩いてもなかなか近づかない。ザレた急坂のジグザグ道を登り詰める。
標高が高くなったためか,気温が下がって寒くなる。岩陰に霧が結露して,ところどころで白くなっている。トビアスが,
「見てご覧・・・寒いから氷になっている・・・これ日本語で何て言う・・・」
と私に質問する。私が,
「霜柱ですよ・・・もし木の枝に氷が付着したら霧氷っていいますよ・・・」
と答える。するとトビアスは,小声で何回も「ムヒョウ,ムヒョウ・・・」と繰り返す。
■万歳! ウイルヘルム山の山頂だ
漸くの思いで尾根を乗り越えて反対側の斜面を少し下る。再び頂上直下の急坂を登り詰める。首が痛くなるほど頭を曲げないと山頂辺りが見えない。
ここからは岩登りになる。岩場のレベルは初級程度だが,どこか槍ヶ岳に似ている。段差が大きくて登りづらい所もあるが,総じて,それ程難しい岩場ではない。でも,もう疲れ果てているので,岩場登りも楽ではない。それでも一歩,一歩登り詰めて,6時20分にようやくウイルヘルム山山頂(標高4508m)に到着する。
ケイが,私の所へ来て,大声で,
「ご苦労様でした。登頂おめでとう・・!」
と言いながら握手する。早速山頂をバックにして写真を撮る。
<ウイルヘルム山山頂:右からトビアスとH氏>
山頂は狭くて,ほんの数名しか腰を下ろすことができない。すぐに山頂から少し降りて岩陰で腰を下ろして休憩を取る。冷たい風が吹いてくる。リュックからフリースを取りだして着込むが,それでも寒い。もう,疲れ果てているので,山頂からの眺望を写真に撮るのも億劫である。座り込んだまま,ひたすら体力が回復するのを待つ。何か食べないと,下りでシャリバテになるなと思うが,何かを食べる気にならない。でも,無理矢理,チョコレートを頬張る。
私より20分ほど遅れて,2人の仲間が山頂に到着する。全員が揃ったところで,山頂をバックにして集合写真を撮る。
■下山開始
8時55分,下山を開始する。岩場を少し下ったところに,長さ数十メートルの洞穴が開いている。この洞穴を下ると,かなりの岩場をショートカットすることができる。私より先に下山を開始した数名の方々は,ガイドの指示で,この洞穴を利用して,一気にショートカットする。ところが,私の面倒を見てくれているトビアスは,オーソドックスに岩場を降りるように私を促す。私も洞穴を通過したかったが,面倒を見てくれるガイドの言うことに従うことしかできない。三点確保に留意しながら,後ろ向きになって,一歩一歩慎重に岩場を下る。
私が岩場を下りきった頃には,洞穴を潜った先頭グループとは,もう200~300メートルの差が付いている。一番ビリかすになった私は,先頭に追いつくことを,早々と諦めてしまう。こうなったらマイペースでユックリ下山しようと心に決める(実は私の後に,まだ数名の方がいることが,後で分かった)。
9時51分,標高4150メートル付近で休憩を取る。山頂から少し下っただけなのに,気温が随分と高くなっている。私は山頂で着込んだフリースを脱いでしまう。高山病予防薬のダイアモックスを服用した副作用のためか,やたらに喉が渇く。休憩を取るとすぐに水を飲み続けている。
<素晴らしい眺望の中のトビアス>
10時04分,重い腰を上げて,再び歩き出す。一寸した坂でも,空気が薄いためか,やたらと息が切れそうになる。少し登り坂になる。これが,結構,堪える。やっとの思いで登り返しを通過する。小さなアップダウンを繰り返しながら,少しずつ高度を下げていく。
■ウイルヘルム山固有の花,ブンガナワ
10時12分,見晴らしの良いところに到着する。ここで,そそくさと昼食を摂る。10時12分,再び下山を続ける。
下山しながら,辺りを見回すと,この辺りの植生がニュージーランドとほぼ同じなことに気が付く。そこで,私は,
「この辺りの植生は,ニュージーランドそっくりですね・・・」
とトビアスに話しかける。すると,彼は,傍らにあるシダのような植物を指さして,
「これはブンガナワ(Bunga nawa)って言うんだ。ここウイルヘルム山にしか自生していないよ・・」
と教えてくれる。11時03分から11時13分まで,花を見ながら休憩を取る。
再び下山し始める。滑りやすい泥の下りが連続する。登山道は,水の力で深く掘り込まれている。少し堀が深くなると,登山道脇の草つきを歩くように促される。その度に,藪こぎになる。これが結構疲れる。
また,彼の靴のつま先がパタパタし始める。臨時に休憩を取って,靴底をゴムひもで括り付ける。
(つづく)
ウイルヘルム山の山頂に立つ
2007年2月10日(土)~17日(日)
第5日目 2007年2月14日(火)(つづき)
■トビアスの靴が壊れる
6時10分から,ほぼ平らなトラバース道を進む。
突然,ガイドのトビアスが履いている登山靴が不具合になる。右側の登山靴の底が,足先の方から剥離し始めて,パクパクしている。そこで暫時休憩を取り,登山靴を修理する。自転車のタイヤチューブを切って作ったゴムひもを使って,剥離しそうな底を縛り付ける。しかし,ほんの40~50メートルほど歩くと,ゴム紐が解けてしまう。仕方なく,また,ゴム紐で靴底を結び直す。
仲間が私より300メートルほど先を歩いているのが見えるが,とても追いつけない。ウイルヘルム山の山頂は,近くに見えているものの,いくら歩いてもなかなか近づかない。ザレた急坂のジグザグ道を登り詰める。
標高が高くなったためか,気温が下がって寒くなる。岩陰に霧が結露して,ところどころで白くなっている。トビアスが,
「見てご覧・・・寒いから氷になっている・・・これ日本語で何て言う・・・」
と私に質問する。私が,
「霜柱ですよ・・・もし木の枝に氷が付着したら霧氷っていいますよ・・・」
と答える。するとトビアスは,小声で何回も「ムヒョウ,ムヒョウ・・・」と繰り返す。
■万歳! ウイルヘルム山の山頂だ
漸くの思いで尾根を乗り越えて反対側の斜面を少し下る。再び頂上直下の急坂を登り詰める。首が痛くなるほど頭を曲げないと山頂辺りが見えない。
ここからは岩登りになる。岩場のレベルは初級程度だが,どこか槍ヶ岳に似ている。段差が大きくて登りづらい所もあるが,総じて,それ程難しい岩場ではない。でも,もう疲れ果てているので,岩場登りも楽ではない。それでも一歩,一歩登り詰めて,6時20分にようやくウイルヘルム山山頂(標高4508m)に到着する。
ケイが,私の所へ来て,大声で,
「ご苦労様でした。登頂おめでとう・・!」
と言いながら握手する。早速山頂をバックにして写真を撮る。
<ウイルヘルム山山頂:右からトビアスとH氏>
山頂は狭くて,ほんの数名しか腰を下ろすことができない。すぐに山頂から少し降りて岩陰で腰を下ろして休憩を取る。冷たい風が吹いてくる。リュックからフリースを取りだして着込むが,それでも寒い。もう,疲れ果てているので,山頂からの眺望を写真に撮るのも億劫である。座り込んだまま,ひたすら体力が回復するのを待つ。何か食べないと,下りでシャリバテになるなと思うが,何かを食べる気にならない。でも,無理矢理,チョコレートを頬張る。
私より20分ほど遅れて,2人の仲間が山頂に到着する。全員が揃ったところで,山頂をバックにして集合写真を撮る。
■下山開始
8時55分,下山を開始する。岩場を少し下ったところに,長さ数十メートルの洞穴が開いている。この洞穴を下ると,かなりの岩場をショートカットすることができる。私より先に下山を開始した数名の方々は,ガイドの指示で,この洞穴を利用して,一気にショートカットする。ところが,私の面倒を見てくれているトビアスは,オーソドックスに岩場を降りるように私を促す。私も洞穴を通過したかったが,面倒を見てくれるガイドの言うことに従うことしかできない。三点確保に留意しながら,後ろ向きになって,一歩一歩慎重に岩場を下る。
私が岩場を下りきった頃には,洞穴を潜った先頭グループとは,もう200~300メートルの差が付いている。一番ビリかすになった私は,先頭に追いつくことを,早々と諦めてしまう。こうなったらマイペースでユックリ下山しようと心に決める(実は私の後に,まだ数名の方がいることが,後で分かった)。
9時51分,標高4150メートル付近で休憩を取る。山頂から少し下っただけなのに,気温が随分と高くなっている。私は山頂で着込んだフリースを脱いでしまう。高山病予防薬のダイアモックスを服用した副作用のためか,やたらに喉が渇く。休憩を取るとすぐに水を飲み続けている。
<素晴らしい眺望の中のトビアス>
10時04分,重い腰を上げて,再び歩き出す。一寸した坂でも,空気が薄いためか,やたらと息が切れそうになる。少し登り坂になる。これが,結構,堪える。やっとの思いで登り返しを通過する。小さなアップダウンを繰り返しながら,少しずつ高度を下げていく。
■ウイルヘルム山固有の花,ブンガナワ
10時12分,見晴らしの良いところに到着する。ここで,そそくさと昼食を摂る。10時12分,再び下山を続ける。
下山しながら,辺りを見回すと,この辺りの植生がニュージーランドとほぼ同じなことに気が付く。そこで,私は,
「この辺りの植生は,ニュージーランドそっくりですね・・・」
とトビアスに話しかける。すると,彼は,傍らにあるシダのような植物を指さして,
「これはブンガナワ(Bunga nawa)って言うんだ。ここウイルヘルム山にしか自生していないよ・・」
と教えてくれる。11時03分から11時13分まで,花を見ながら休憩を取る。
再び下山し始める。滑りやすい泥の下りが連続する。登山道は,水の力で深く掘り込まれている。少し堀が深くなると,登山道脇の草つきを歩くように促される。その度に,藪こぎになる。これが結構疲れる。
また,彼の靴のつま先がパタパタし始める。臨時に休憩を取って,靴底をゴムひもで括り付ける。
(つづく)