ウイルヘルム山登頂記(15):山頂を目指して(1)
夜中に登山を開始する
2007年2月10日(土)~17日(日)
第4日目 2007年2月13日(月)(つづき)
■食欲が湧かない夕食
ベースキャンプに到着した私達は,高所順応のためにピュンデ湖半周の軽ハイキングを行った。その後,暫くの間,休憩を取る。ツアーリーダーのケイが,明日のウイルヘルム登頂に持参する行動食を各自に配る。行動食はもともと自分が準備するものである。それを,ケイが準備してくれたので大変有り難い。
17時05分から夕食である。
ケイが持参したご飯,梅干し,漬け物,それにチーフクッカーが作ったスープというメニューである。やはり高所のためか,どうも食欲がない。私達の仲間には平地と同じように旺盛な食欲の方もいるので,羨ましい限りである。私も無理のない範囲で食べることにする。
夕食を撮りながら,隣に座ったオーストリアの2人,マーチンキッツベルガー(Martin Kitzberger)さんと雑談を楽しむ。彼は,是非,日本へ行ってみたいと言っている。
ケイから水分を十分にとりなさいと注意される。そこで少々無理をして紅茶コップ数杯分を飲み干す。
■仮眠を取るが眠れない
夕食後暫く仮眠することになる。
ベッドルームへ戻りシュラフに入り込むが,目が冴えてしまい全く眠くならない。少しは眠らなければダメだと焦るが,不覚にも紅茶を飲み過ぎたために,全く寝付けない。
小屋の立て付けが悪いためか,誰かが少し動くと,小屋が小刻みに揺れる。ますます眠れなくなる。
結局は一睡もできないまま,起床時間となる。
第5日目 2007年2月14日(火)
■暗闇中,ベースキャンプを出発
0時11分に起床する。
結局は,一睡もしないまま起きることになる。やたらに早い朝食を摂る。インスタント麺の「赤いキツネ」とゆで卵1個を食べるのがやっとである。
1時05分,ヘッドランプの光を頼りにベースキャンプを出発する。最初は昨日ハイキングしたピュンデ湖畔の道を辿る。泥だらけで,水たまりだらけの悪路が暫く続く。踏み外して水中へ「ドボン」にならないように注意しながら前進する。真っ暗で流れの強い小川の一本橋を渡る。
湖畔を半周したあたりから,急傾斜の登り坂になる。泥だらけで滑りやすい悪路の連続である。いきなりの急登で,しかも富士山に匹敵する高所なので,すぐに息苦しくなる。
2時10分,標高3480メートル地点で,8分間の休憩を取る。辺りが真っ暗なので,全く様子が分からないが,絶えず川が流れる音が聞こえてくる。3時24分に再び歩き出す。ケイの指示で,先頭を歩く方の速度が速いので,私が先頭になれと言われる。そこでチーフガイドのトビアスのすぐ後を私が歩くことになる。全員が一列になって再び登り続ける。
■川の音を聞きながら藪こぎ
3時46分に標高3775メートル地点に達する。丁度富士山の山頂とほぼ同じ高さである。ここで2度目の小休止。何処からともなく川の音が絶え間なく聞こえてくる。 3時54分に休憩を終えて再び歩き出す。暫くすると藪こぎのような状態になる。踏み跡が全くない急坂のヤブの中を,トビアスの指示で右,左へと藪こぎする。時には折角登ったのに少し戻って,隣の岩を登り返す。こんなことを続けている内に,私が苦闘している遙か右の尾根に仲間達のヘッドランプが1列になって移動しているのが見える。瞬く間に,私が苦闘している高度より上へ上へと移動していく。
すぐに,光の列の最後尾からも50メートルほどの高度差が付いてしまう。なぜ,私だけが別のルートを辿るのか良く分からないが,仲間と決定的な高度差がついてしまったので,大変気分が落胆する。
■一人だけ別の登山道を進む
4時57分,高度3900メートル地点,暗闇の中,1人で休憩を取る。高所なので低地とはちょっと違った疲労感がある。シャリバテになるのを心配して,食欲はないものの,小さなヨウカンを1個食べる。そして,5時10分,再び歩き出す。真っ暗闇の中,急傾斜の登り坂を喘ぎながら登る。ときどき結構な岩場に突き当たる。ガイドから3点確保するように指示がある。岩場はそれ程難しくないので,ほとんど気にならないが,登山学校で習った岩登りのやりかたとは,かなり違ったガイドの指示に戸惑う。まあ,郷に入ったら郷に従えで,素直にトビアスの言うことを聞く。
遠くに街の明かりがポツンと見えている。トビアスが,
「・・・あれは××という街の明かりだよ・・・」
と説明してくれるが,街の名前が頭に入らない。 いつの間にか,辺りがボンヤリと明るくなり始める。進行方向右手,つまり東側にゴツゴツと聳える山並みがシルエットになって明るくなり始めた空に聳えている。
<ゴツゴツとした稜線が見え始める>
前方に稜線が見え始める。トビアスが,
「・・あの稜線まで行けば,水平に近い稜線歩きになるよ・・・」
と私を勇気づける。
「リュックを持とうか・・」
とトビアスが言う。
「もう少し頑張ってみるよ・・・」
と答える。
■やっとトラバース道に入る
6時03分,漸く4020メートル地点に到着する。私がてっきり最後尾だと思っていたら,私から,まだかなり後に,2人の同行者がいることが分かる。私は自分がビリケツでないと分かると,何となく気分的に楽になる。この辺りから,岩稜が続くトラバース道になる。
「ここからは速く歩くよ・・・」
とトビアスが言う。
トラバース道とはいえ,小さな上り下りが結構ある。高いところなので,小さな登りでも結構堪える。でも,もうここまで来れば山頂に立てるのは,まず間違いない。気分的に楽になった私は,遅まきながら,リュックをトビアスに持って貰うことにする。少しでも楽をしたかったからである。
6時10分に歩き出す。稜線から10数メートル下のトラバース道を歩き続ける。
<ウイルヘルム山が見え出す>
すっかり夜が明けて明るくなる。前方には山頂に電波塔が建っているウイルヘルム山がこんもりと聳えている。槍ヶ岳に良く似た形をしている。
「あれは偽の山。本当のウイルヘルム山は,あの山の後だよ・・・」
とトビアスが説明する。ウイルヘルム山は,本当はかなり遠い所にあるようである。喘ぐように登り続けるが,なかなかウイルヘルム山は近付かない。
それでも歩き続けている内に,ウイルヘルム山が目の前に迫ってくる。先発のオーストリア人2人とすれ違う。
「・・・あと30分ぐらいだよ・・・頑張って・・・」
とマーチンが私を励ます。 (つづく)
夜中に登山を開始する
2007年2月10日(土)~17日(日)
第4日目 2007年2月13日(月)(つづき)
■食欲が湧かない夕食
ベースキャンプに到着した私達は,高所順応のためにピュンデ湖半周の軽ハイキングを行った。その後,暫くの間,休憩を取る。ツアーリーダーのケイが,明日のウイルヘルム登頂に持参する行動食を各自に配る。行動食はもともと自分が準備するものである。それを,ケイが準備してくれたので大変有り難い。
17時05分から夕食である。
ケイが持参したご飯,梅干し,漬け物,それにチーフクッカーが作ったスープというメニューである。やはり高所のためか,どうも食欲がない。私達の仲間には平地と同じように旺盛な食欲の方もいるので,羨ましい限りである。私も無理のない範囲で食べることにする。
夕食を撮りながら,隣に座ったオーストリアの2人,マーチンキッツベルガー(Martin Kitzberger)さんと雑談を楽しむ。彼は,是非,日本へ行ってみたいと言っている。
ケイから水分を十分にとりなさいと注意される。そこで少々無理をして紅茶コップ数杯分を飲み干す。
■仮眠を取るが眠れない
夕食後暫く仮眠することになる。
ベッドルームへ戻りシュラフに入り込むが,目が冴えてしまい全く眠くならない。少しは眠らなければダメだと焦るが,不覚にも紅茶を飲み過ぎたために,全く寝付けない。
小屋の立て付けが悪いためか,誰かが少し動くと,小屋が小刻みに揺れる。ますます眠れなくなる。
結局は一睡もできないまま,起床時間となる。
第5日目 2007年2月14日(火)
■暗闇中,ベースキャンプを出発
0時11分に起床する。
結局は,一睡もしないまま起きることになる。やたらに早い朝食を摂る。インスタント麺の「赤いキツネ」とゆで卵1個を食べるのがやっとである。
1時05分,ヘッドランプの光を頼りにベースキャンプを出発する。最初は昨日ハイキングしたピュンデ湖畔の道を辿る。泥だらけで,水たまりだらけの悪路が暫く続く。踏み外して水中へ「ドボン」にならないように注意しながら前進する。真っ暗で流れの強い小川の一本橋を渡る。
湖畔を半周したあたりから,急傾斜の登り坂になる。泥だらけで滑りやすい悪路の連続である。いきなりの急登で,しかも富士山に匹敵する高所なので,すぐに息苦しくなる。
2時10分,標高3480メートル地点で,8分間の休憩を取る。辺りが真っ暗なので,全く様子が分からないが,絶えず川が流れる音が聞こえてくる。3時24分に再び歩き出す。ケイの指示で,先頭を歩く方の速度が速いので,私が先頭になれと言われる。そこでチーフガイドのトビアスのすぐ後を私が歩くことになる。全員が一列になって再び登り続ける。
■川の音を聞きながら藪こぎ
3時46分に標高3775メートル地点に達する。丁度富士山の山頂とほぼ同じ高さである。ここで2度目の小休止。何処からともなく川の音が絶え間なく聞こえてくる。 3時54分に休憩を終えて再び歩き出す。暫くすると藪こぎのような状態になる。踏み跡が全くない急坂のヤブの中を,トビアスの指示で右,左へと藪こぎする。時には折角登ったのに少し戻って,隣の岩を登り返す。こんなことを続けている内に,私が苦闘している遙か右の尾根に仲間達のヘッドランプが1列になって移動しているのが見える。瞬く間に,私が苦闘している高度より上へ上へと移動していく。
すぐに,光の列の最後尾からも50メートルほどの高度差が付いてしまう。なぜ,私だけが別のルートを辿るのか良く分からないが,仲間と決定的な高度差がついてしまったので,大変気分が落胆する。
■一人だけ別の登山道を進む
4時57分,高度3900メートル地点,暗闇の中,1人で休憩を取る。高所なので低地とはちょっと違った疲労感がある。シャリバテになるのを心配して,食欲はないものの,小さなヨウカンを1個食べる。そして,5時10分,再び歩き出す。真っ暗闇の中,急傾斜の登り坂を喘ぎながら登る。ときどき結構な岩場に突き当たる。ガイドから3点確保するように指示がある。岩場はそれ程難しくないので,ほとんど気にならないが,登山学校で習った岩登りのやりかたとは,かなり違ったガイドの指示に戸惑う。まあ,郷に入ったら郷に従えで,素直にトビアスの言うことを聞く。
遠くに街の明かりがポツンと見えている。トビアスが,
「・・・あれは××という街の明かりだよ・・・」
と説明してくれるが,街の名前が頭に入らない。 いつの間にか,辺りがボンヤリと明るくなり始める。進行方向右手,つまり東側にゴツゴツと聳える山並みがシルエットになって明るくなり始めた空に聳えている。
<ゴツゴツとした稜線が見え始める>
前方に稜線が見え始める。トビアスが,
「・・あの稜線まで行けば,水平に近い稜線歩きになるよ・・・」
と私を勇気づける。
「リュックを持とうか・・」
とトビアスが言う。
「もう少し頑張ってみるよ・・・」
と答える。
■やっとトラバース道に入る
6時03分,漸く4020メートル地点に到着する。私がてっきり最後尾だと思っていたら,私から,まだかなり後に,2人の同行者がいることが分かる。私は自分がビリケツでないと分かると,何となく気分的に楽になる。この辺りから,岩稜が続くトラバース道になる。
「ここからは速く歩くよ・・・」
とトビアスが言う。
トラバース道とはいえ,小さな上り下りが結構ある。高いところなので,小さな登りでも結構堪える。でも,もうここまで来れば山頂に立てるのは,まず間違いない。気分的に楽になった私は,遅まきながら,リュックをトビアスに持って貰うことにする。少しでも楽をしたかったからである。
6時10分に歩き出す。稜線から10数メートル下のトラバース道を歩き続ける。
<ウイルヘルム山が見え出す>
すっかり夜が明けて明るくなる。前方には山頂に電波塔が建っているウイルヘルム山がこんもりと聳えている。槍ヶ岳に良く似た形をしている。
「あれは偽の山。本当のウイルヘルム山は,あの山の後だよ・・・」
とトビアスが説明する。ウイルヘルム山は,本当はかなり遠い所にあるようである。喘ぐように登り続けるが,なかなかウイルヘルム山は近付かない。
それでも歩き続けている内に,ウイルヘルム山が目の前に迫ってくる。先発のオーストリア人2人とすれ違う。
「・・・あと30分ぐらいだよ・・・頑張って・・・」
とマーチンが私を励ます。 (つづく)