残暑に挑戦:塔ノ岳(第35回)
(単独山行)
2007年9月21日(金)
■残暑の中,バカ尾根に向かう
何時もの通りに4時頃起床する。まだ外は暗い。春分の日が近付くにつれて,この所,めっきり朝が遅くなった。早速,テレビで最新の天気予報を見る。今日も残暑が厳しいようである。
つい先日(9月18日),私は大倉尾根経由で,単独で,塔ノ岳に登った。そのときに,登山口から見晴茶屋付近まで,初めて塔ノ岳に登る男女2人とお付き合いしたとはいえ,山頂に到着するまでの所要時間が3時間10分も掛かってしまった。内心,自分の体力も随分落ちているのではないかと心配になっていた。
それなら,いっそのこと,残暑が厳しい間に,1~2回,塔ノ岳を往復して,自分の本当の体力を知っておきたい。私は,ソソクサと登山の準備をする・・・と,言っても,容量20リットルのザックに,何時も登山道具を入れたままになっているので,水,ノート,筆記用具,カメラを放り込めば,何時でも出発できるようになっている。
出掛ける前に,朝の行事として,まず電源を入れて,パソコンを立ち上げる。そして昨夜着信したメールに一通り目を通す。中には,塔ノ岳ご常連のKさんからメールもあった。Kさんのメールには,山旅スクール初参加の感想が書かれている。山旅スクールがKさんにもおおむね好評のようなので,スクールを紹介した私も「ホッ」とする。
何時もの通り,5時10分に家を出る。外はまだほんの少し明るくなり始めたばかりである。日中は暑くなるのだろうが,朝の空気はヒンヤリしていて心地がよい。
■丹沢・大山フリーパス
何時もなら,東海道本線で小田原まで行き,小田急線に乗り換えて渋沢に向かうのだが,今日は藤沢から「丹沢・大山フリーキップ」を使って渋沢に出ようと思う。大船から東海道本線で藤沢に到着する。少々勝手が分からなかったが,自動販売機でフリーキップを購入する。早朝のためか電車は案外空いている。相模大野で急行箱根湯本行に乗り換える。でも,やたらに停車駅が多くて,渋沢に到着するまでの所要時間は,小田原経由よりも20分ほども余計に掛かってしまった。フリーキップを使った方が数百円安くなるが,時間が掛かるし乗換の回数が1回多くなるので,どちらが得になるかは,なかなか微妙である。
大倉行きバスには,10名余りの登山客が乗っている。
「この暑いのに,良くまあ,バカ尾根を登るなぁ・・・」
と感心するが,そう言っている自分も,バカ尾根に登るんじゃないかと気が付いて,苦笑する。
■大倉を歩き出す
バスに乗り合わせた10人ばかりの登山客の内,3人は鍋割山に向かう。残りは塔ノ岳に登るようである。私は10分ばかりストレッチをして,足腰の準備を整える。例によって,登山開始は一番後になってしまう。
7時44分に大倉バス停(標高290m)を歩き出す。ジリジリと太陽が照りつける。今月初旬に光岳・聖岳に登頂したときに,日焼けしてしまった首筋が,太陽に照りつけられてヒリヒリする。気温が何度あるか良く分からないが,随分とユックリ歩いているのに,汗がダラダラと出だす。
7時48分,登山口(320m)を通過する。杉林に入ると,直射日光が当たらなくなるので,幾分楽になるが,全く風が通らないので,林の中に篭もっている熱気がむんむんと身体を包み込む。ミンミンゼミの啼き声が四方から聞こえてくるので,なおさら蒸し暑い気分になる。
■今日の目標は「基本に忠実に」
今日の私の目標は,「基本に忠実に歩く」に置いている。その結果,山頂までの所要時間がどの程度になるかが興味深い。今日は,できるだけ正確に自分の体力を測定するために,すれ違う登山者とは,会釈をする程度にして,長い会話はしないようにする。そして,山旅スクールで訓練を受けた歩行方法を忠実に守りながら登り続ける。
歩行を続ける際に留意した点は以下の通である。
1.腹式呼吸を意識的にする。
2.呼吸が乱れるような速度では歩かない。
3.心の中で「イチ,ニ,サン,イチ,ニ,サン」とリズムを取りながら歩く。
(注:二拍子にすると片側の足の負担が重くなる可能性がある。)
4.段差が小さくなるように,ステップをできるだけ小さくする。
5.できるだけ手を組んだまま歩く(勿論,危険な場所をのぞく)。
(注:バランスの取れた歩行ができないと,手を組んでいられなくなる。)
6.上体を真っ直ぐに保って,上下左右前後に揺れないように歩く。
7.両足の間隔を肩幅程度に保ち,歩幅を小さく一歩一歩丁寧に歩く。
8.足の裏が地面にフラットにフィッティングするように留意する。
9.後ろ足で地面を蹴らないように,身体の重心が何時もどちらかの足の上に
あるように留意する。
10.ネコのように音を立てずに歩く。
(注:丁寧に歩けば足音が殆どしなくなる。)
11.給水はこまめに行う。
12.なるべく定速度で,歩き続ける。
(注:私の場合は,同じペースで,山頂まで1ピッチ。)
■急坂を登る
以上のようなことを留意しながら,歩き続ける。蒸し暑さのために登り始めから一本杉辺りまでの歩行速度は随分と遅くなってしまう。8時53分に漸く駒止茶屋に到着する。何時もよりも10分程度遅いペースである。それでも,この辺りまでに,同じバスに乗り合わせていた登山客全員を追い越す。別に,競争をしているわけではないが・・・ 暫くの間,私の前後に,全く人が居なくなる。蒸し暑いが,登山道を囲む広葉樹林帯の爽やかな緑が,強い日差しを遮ってくれる。歩いている内に,何となく気分が高揚してくる。
「何でこんなに暑い日に,わざわざ汗を流しながら登って居るんだろう・・」
私は自分の意思で,今,登っているのに,歩きながら,こんな疑問を持つ。でも,暑くて苦しいのに,それ以上に,時折吹き抜ける風が心地よく,それに辺りの景色が美しいから,つらさより,登る魅力の方か遙かに大きい。だから,ついつい何回も登ってしまう。数えてみると,今回のバカ尾根は,今年になって35回目の登山である。
何となく,そんなことを考えながら登っていると,私の直ぐ前で,いきなり「ガサガサ」とただならない音がする。ビックリして前を見ると,綺麗な雌鹿が,山手から登山道を横切って,谷に向かって駆け下りて行く。そういえば,高度が増したためか,何時の間にか蝉の啼き声は全く聞こえなくなっている。
<尾根路の木の間から表尾根の山々が見える>
駒止茶屋からほんの少し登ると,堀山の家までの比較的なだらかな尾根路になる。尾根の両側には,林を通して,三ノ塔,鳥尾山などの表尾根と,尾根の反対側には富士山が見え出す。見通しが良くなると,汗ばんだ身体の周りをそよ風も吹き抜けて,随分と楽になる。何時ものことながら,この辺りの尾根路を歩くのが,とても楽しみである。涼しいときには,弾む気持を押さえるようにして,軽快に尾根路を進むのだが,今日は暑さのためか,何時もよりどうしても足取りが重いままである。
途中,何時もの通り,定点で富士山の写真を撮る。
<今日は尾根路から富士山が良く見える>
<萱場平付近から花立山荘のある尾根を望む>
9時09分に堀山ノ家(910m)を通過する。ここから花立山荘までが,大倉尾根最大の難所である。ところが,高度が上がったためか,あるいは湿気が幾分取れたためか,案外,楽な気分で登り続けられる。急な階段で,私よりも,30分前に大倉に到着したバスに乗っていた登山客数人を追い抜く。
自分でも驚くほど軽快に階段を登って,9時50分に花立山荘を,そして,10時05分に金冷しを通過する。
<花立山荘の上の尾根路から塔ノ岳山頂が見える>
最後の急坂の階段で,名前は知らないが,ご常連の方に追いつく。私の顔を見ると,真っ赤な顔をして,フウ,フウと汗をかきながら,
「いや~ぁ・・・暑い! 参った!」
と話しかけてくる。私は,
「もうすぐ山頂だと分かっていても,本当にシンドイところですよね・・・」
と相槌を打つ。そして,申し訳ないが,追い越させて頂く。
10時19分に,塔ノ岳山頂(1491m)に到着する。今日の私の印象は,
「暑い日にしては,案外,楽に登れたな・・・」
である。
山頂には数名の登山客が,ノンビリと休んでいる。今日の山頂からの眺めは,多少雲が多いものの,富士山,南アルプス,大山など大変素晴らしい。藍色がかった青空が眩しく光っている。蒸し暑いが,空はもうすっかり秋である。
<塔ノ岳からの眺望:今日は遠く南アルプスまで見える>
<塔ノ岳からの眺望:一番遠くは南アルプス。その手前は? 良く分からない>
今日の大倉から山頂までの所要時間は2時間35分だった。決して満足すべきラップタイムではないが,メチャ暑いこの時期としては,「まあ,,こんなものか・・・」と,無理矢理,自分で納得する。
午前10時30分現在,山頂の気温は18.8℃である。山麓の蒸し暑さに比較すると,まあまあ涼しいようである。
■尊仏山荘にて
山頂で一休みして,汗が引いてから,尊仏山荘に入る。今日の小屋番はHさん。
私が山荘入口の扉を開けると,どこからともなく現れた営業部長「花立ミー」氏が,私より先に入口をすり抜けて山荘の中に入る。そして私に挨拶もせずに,トコトコと2階に消えてしまう。私はミー氏の写真を撮りたかったが,直ぐに消えてしまい撮る間もない。でも,今日はミー氏に会えただけで私は満足である。
例によりお茶を所望する。そして,コンビニで購入したオニギリ2個で,少々早めの昼食を済ませる。
所で私は,写真家のT氏に,もし会えたら,いろいろ教えて貰いたいことがある。そこで,その材料として,最近,ブログに掲載した資料を持ってきた。でも,残念ながら,今日,T氏は登ってきていないようである。折角持参した資料なので,あの時,居合わせた小屋番のHさんに見て貰う。私が,Hさんに,
「この夏は,結構,いろいろな山に登ることができました・・」
と報告すると,Hさんは,
「行き過ぎですよ・・・」
と笑う。
「そうかなあ~,そんなに行っているかな」
と心の中で自問自答する。
丁度,そのころ,40台の男性が小屋に入ってくる。そして私のブログの話が尾を引く。彼が,
「今日,熊木沢出合から登ってきましたが,案外楽でした・・・」
と話し出す。私は,残念ながらこのルートは登ったことがないので,どんなルートか伺ってみる。これが切っ掛けになり,山の四方山話が始まる。彼が,
「槍ヶ岳に登ったことがありますか・・・」
と私に聞く。それを切っ掛けに,問われるままに槍ヶ岳,剣岳,穂高連峰など主だった山には登っていることを披露する。彼は「凄いですね」と畏怖の表情で私を見る。そのとき,以前,山の師匠から,
「ツアー旅行で,ガイドの後をタダ付いて歩くだけでも,100名山の幾つかを登ると,世間の人は,山のベテランと言うでしょう・・・でも,そんなの決してベテランではありません。ただ他人の後を付いていっただけでしょう・・あなた方,スクール生も直ぐに山のベテラン扱いを受けると思うが,飛んでもないこと。決して自惚れなさんな・・」
と叱責されたことを思い出す。全くその通りだと思う。
あらゆるリスクをガイドに任せたまま,ただ,ガイドの後を付いて行くだけの登山は,いくら回を重ねても,所詮,本当に登山が分かったことにはならない。登山学校で色々なことを習えば習うほど,このことを強く感じている。私はこの男性と会話しながら,あらためて自戒の念を強く持つ。
■ゆっくりと下山
10時57分に尊仏山荘を出発。下山を始める。
山頂で,この男性の記念写真を撮ってあげる。彼は熊木沢出合に戻るというので,ここでお別れする。私は,大倉発13時22分のバスに乗る予定である。まだ,十分に時間がある。私は,ほのかに秋色が見え始めた大倉尾根をユックリと下りつづける。
<花立山荘からの景色>
いつもながら,山頂から下山するときの満ち足りた気分は最高である。標高が低くなるにつれて,段々と蒸し暑くなってくる。ノンビリ,ノンビリと歩いて,予定通り,13時14分に大倉に到着する。
<樹木のことは分からないが,綺麗な花が咲いている>
渋沢発13時42分の電車で相模大野へ,そこで乗り換えて,藤沢に14時57分に到着する。さらに東海道本線に乗り換えて,15時26分,大船に到着する。小田原乗換で,東海道本線経由で帰るルートに比較して,20分ほど余計に時間が掛かるようである。
今回の山行で,自分の体力がどの程度か,およその見当が付いた。残暑が厳しい間に,もう一度,大倉尾根を往復して,自分の体力を確かめてみたいと思っている。
今回の大倉尾根往復は,本年通算35回目となる。
[山行記録]
※カッコ内は標高。ただし高度計で測定した値なので,数10メートル
の誤差がある可能性がある。
※上り下りとも,途中で休憩を取らずに1ピッチ。
7:44 大倉歩き出し(290m)
7:48 登山口(325m)
7:52 克童窯(350m)
7:57 丹沢ベース(390m)
8:04 観音茶屋(465m)
8:09 高原の家分岐(500m)
8:20 雑事場ノ平(595m)
8:22 見晴茶屋(605m)
8:38 一本松(745m)
8:53 駒止茶屋(855m)
9:02 堀山(910m)
9:09 堀山の家(925m)
9:26 戸沢分岐(1075m)
9:28 萱場平(1090m)
9:50 花立山荘(1260m)
10:05 金冷し(1330m)
10:19 塔ノ岳山頂 着(1465m)
10:57 〃 発(+18.8℃)
11:08 金冷し(1350m)
11:21 花立山荘(1285m)
11:40 萱場平(1115m)
11:42 戸沢分岐(1090m)
11:57 堀山の家(950m)
12:06 堀山(920m)
12:15 駒止茶屋(880m)
12:27 一本松(780m)
12:40 見晴茶屋(625m)
12:43 雑事場ノ平(610m)
12:51 高原の家分岐(535m)
12:55 観音茶屋(500m)
13:01 丹沢ベース(440m)
13:05 克亮童窯(395m)
13:08 登山口(360m)
13:14 大倉 着(310m)
[山行記録]
■登攀・下降高度
塔ノ岳山頂 1491(m)
大倉 290
(高度差 1201m)
■登攀所要時間
大倉発 7:44
塔ノ岳山頂着 10:19
(所要時間2時間35分(2.58h)
■登攀速度
1201(m)/2.58(h)=465.5(m/h)
■下降所要時間
塔ノ岳山頂発 10:52
大倉着 13:14
(所要時間 2時間17分(2.28h))
■下降速度
1201(m)/2.28(h)=526.8(m/h)
(おわり)
(単独山行)
2007年9月21日(金)
■残暑の中,バカ尾根に向かう
何時もの通りに4時頃起床する。まだ外は暗い。春分の日が近付くにつれて,この所,めっきり朝が遅くなった。早速,テレビで最新の天気予報を見る。今日も残暑が厳しいようである。
つい先日(9月18日),私は大倉尾根経由で,単独で,塔ノ岳に登った。そのときに,登山口から見晴茶屋付近まで,初めて塔ノ岳に登る男女2人とお付き合いしたとはいえ,山頂に到着するまでの所要時間が3時間10分も掛かってしまった。内心,自分の体力も随分落ちているのではないかと心配になっていた。
それなら,いっそのこと,残暑が厳しい間に,1~2回,塔ノ岳を往復して,自分の本当の体力を知っておきたい。私は,ソソクサと登山の準備をする・・・と,言っても,容量20リットルのザックに,何時も登山道具を入れたままになっているので,水,ノート,筆記用具,カメラを放り込めば,何時でも出発できるようになっている。
出掛ける前に,朝の行事として,まず電源を入れて,パソコンを立ち上げる。そして昨夜着信したメールに一通り目を通す。中には,塔ノ岳ご常連のKさんからメールもあった。Kさんのメールには,山旅スクール初参加の感想が書かれている。山旅スクールがKさんにもおおむね好評のようなので,スクールを紹介した私も「ホッ」とする。
何時もの通り,5時10分に家を出る。外はまだほんの少し明るくなり始めたばかりである。日中は暑くなるのだろうが,朝の空気はヒンヤリしていて心地がよい。
■丹沢・大山フリーパス
何時もなら,東海道本線で小田原まで行き,小田急線に乗り換えて渋沢に向かうのだが,今日は藤沢から「丹沢・大山フリーキップ」を使って渋沢に出ようと思う。大船から東海道本線で藤沢に到着する。少々勝手が分からなかったが,自動販売機でフリーキップを購入する。早朝のためか電車は案外空いている。相模大野で急行箱根湯本行に乗り換える。でも,やたらに停車駅が多くて,渋沢に到着するまでの所要時間は,小田原経由よりも20分ほども余計に掛かってしまった。フリーキップを使った方が数百円安くなるが,時間が掛かるし乗換の回数が1回多くなるので,どちらが得になるかは,なかなか微妙である。
大倉行きバスには,10名余りの登山客が乗っている。
「この暑いのに,良くまあ,バカ尾根を登るなぁ・・・」
と感心するが,そう言っている自分も,バカ尾根に登るんじゃないかと気が付いて,苦笑する。
■大倉を歩き出す
バスに乗り合わせた10人ばかりの登山客の内,3人は鍋割山に向かう。残りは塔ノ岳に登るようである。私は10分ばかりストレッチをして,足腰の準備を整える。例によって,登山開始は一番後になってしまう。
7時44分に大倉バス停(標高290m)を歩き出す。ジリジリと太陽が照りつける。今月初旬に光岳・聖岳に登頂したときに,日焼けしてしまった首筋が,太陽に照りつけられてヒリヒリする。気温が何度あるか良く分からないが,随分とユックリ歩いているのに,汗がダラダラと出だす。
7時48分,登山口(320m)を通過する。杉林に入ると,直射日光が当たらなくなるので,幾分楽になるが,全く風が通らないので,林の中に篭もっている熱気がむんむんと身体を包み込む。ミンミンゼミの啼き声が四方から聞こえてくるので,なおさら蒸し暑い気分になる。
■今日の目標は「基本に忠実に」
今日の私の目標は,「基本に忠実に歩く」に置いている。その結果,山頂までの所要時間がどの程度になるかが興味深い。今日は,できるだけ正確に自分の体力を測定するために,すれ違う登山者とは,会釈をする程度にして,長い会話はしないようにする。そして,山旅スクールで訓練を受けた歩行方法を忠実に守りながら登り続ける。
歩行を続ける際に留意した点は以下の通である。
1.腹式呼吸を意識的にする。
2.呼吸が乱れるような速度では歩かない。
3.心の中で「イチ,ニ,サン,イチ,ニ,サン」とリズムを取りながら歩く。
(注:二拍子にすると片側の足の負担が重くなる可能性がある。)
4.段差が小さくなるように,ステップをできるだけ小さくする。
5.できるだけ手を組んだまま歩く(勿論,危険な場所をのぞく)。
(注:バランスの取れた歩行ができないと,手を組んでいられなくなる。)
6.上体を真っ直ぐに保って,上下左右前後に揺れないように歩く。
7.両足の間隔を肩幅程度に保ち,歩幅を小さく一歩一歩丁寧に歩く。
8.足の裏が地面にフラットにフィッティングするように留意する。
9.後ろ足で地面を蹴らないように,身体の重心が何時もどちらかの足の上に
あるように留意する。
10.ネコのように音を立てずに歩く。
(注:丁寧に歩けば足音が殆どしなくなる。)
11.給水はこまめに行う。
12.なるべく定速度で,歩き続ける。
(注:私の場合は,同じペースで,山頂まで1ピッチ。)
■急坂を登る
以上のようなことを留意しながら,歩き続ける。蒸し暑さのために登り始めから一本杉辺りまでの歩行速度は随分と遅くなってしまう。8時53分に漸く駒止茶屋に到着する。何時もよりも10分程度遅いペースである。それでも,この辺りまでに,同じバスに乗り合わせていた登山客全員を追い越す。別に,競争をしているわけではないが・・・ 暫くの間,私の前後に,全く人が居なくなる。蒸し暑いが,登山道を囲む広葉樹林帯の爽やかな緑が,強い日差しを遮ってくれる。歩いている内に,何となく気分が高揚してくる。
「何でこんなに暑い日に,わざわざ汗を流しながら登って居るんだろう・・」
私は自分の意思で,今,登っているのに,歩きながら,こんな疑問を持つ。でも,暑くて苦しいのに,それ以上に,時折吹き抜ける風が心地よく,それに辺りの景色が美しいから,つらさより,登る魅力の方か遙かに大きい。だから,ついつい何回も登ってしまう。数えてみると,今回のバカ尾根は,今年になって35回目の登山である。
何となく,そんなことを考えながら登っていると,私の直ぐ前で,いきなり「ガサガサ」とただならない音がする。ビックリして前を見ると,綺麗な雌鹿が,山手から登山道を横切って,谷に向かって駆け下りて行く。そういえば,高度が増したためか,何時の間にか蝉の啼き声は全く聞こえなくなっている。
<尾根路の木の間から表尾根の山々が見える>
駒止茶屋からほんの少し登ると,堀山の家までの比較的なだらかな尾根路になる。尾根の両側には,林を通して,三ノ塔,鳥尾山などの表尾根と,尾根の反対側には富士山が見え出す。見通しが良くなると,汗ばんだ身体の周りをそよ風も吹き抜けて,随分と楽になる。何時ものことながら,この辺りの尾根路を歩くのが,とても楽しみである。涼しいときには,弾む気持を押さえるようにして,軽快に尾根路を進むのだが,今日は暑さのためか,何時もよりどうしても足取りが重いままである。
途中,何時もの通り,定点で富士山の写真を撮る。
<今日は尾根路から富士山が良く見える>
<萱場平付近から花立山荘のある尾根を望む>
9時09分に堀山ノ家(910m)を通過する。ここから花立山荘までが,大倉尾根最大の難所である。ところが,高度が上がったためか,あるいは湿気が幾分取れたためか,案外,楽な気分で登り続けられる。急な階段で,私よりも,30分前に大倉に到着したバスに乗っていた登山客数人を追い抜く。
自分でも驚くほど軽快に階段を登って,9時50分に花立山荘を,そして,10時05分に金冷しを通過する。
<花立山荘の上の尾根路から塔ノ岳山頂が見える>
最後の急坂の階段で,名前は知らないが,ご常連の方に追いつく。私の顔を見ると,真っ赤な顔をして,フウ,フウと汗をかきながら,
「いや~ぁ・・・暑い! 参った!」
と話しかけてくる。私は,
「もうすぐ山頂だと分かっていても,本当にシンドイところですよね・・・」
と相槌を打つ。そして,申し訳ないが,追い越させて頂く。
10時19分に,塔ノ岳山頂(1491m)に到着する。今日の私の印象は,
「暑い日にしては,案外,楽に登れたな・・・」
である。
山頂には数名の登山客が,ノンビリと休んでいる。今日の山頂からの眺めは,多少雲が多いものの,富士山,南アルプス,大山など大変素晴らしい。藍色がかった青空が眩しく光っている。蒸し暑いが,空はもうすっかり秋である。
<塔ノ岳からの眺望:今日は遠く南アルプスまで見える>
<塔ノ岳からの眺望:一番遠くは南アルプス。その手前は? 良く分からない>
今日の大倉から山頂までの所要時間は2時間35分だった。決して満足すべきラップタイムではないが,メチャ暑いこの時期としては,「まあ,,こんなものか・・・」と,無理矢理,自分で納得する。
午前10時30分現在,山頂の気温は18.8℃である。山麓の蒸し暑さに比較すると,まあまあ涼しいようである。
■尊仏山荘にて
山頂で一休みして,汗が引いてから,尊仏山荘に入る。今日の小屋番はHさん。
私が山荘入口の扉を開けると,どこからともなく現れた営業部長「花立ミー」氏が,私より先に入口をすり抜けて山荘の中に入る。そして私に挨拶もせずに,トコトコと2階に消えてしまう。私はミー氏の写真を撮りたかったが,直ぐに消えてしまい撮る間もない。でも,今日はミー氏に会えただけで私は満足である。
例によりお茶を所望する。そして,コンビニで購入したオニギリ2個で,少々早めの昼食を済ませる。
所で私は,写真家のT氏に,もし会えたら,いろいろ教えて貰いたいことがある。そこで,その材料として,最近,ブログに掲載した資料を持ってきた。でも,残念ながら,今日,T氏は登ってきていないようである。折角持参した資料なので,あの時,居合わせた小屋番のHさんに見て貰う。私が,Hさんに,
「この夏は,結構,いろいろな山に登ることができました・・」
と報告すると,Hさんは,
「行き過ぎですよ・・・」
と笑う。
「そうかなあ~,そんなに行っているかな」
と心の中で自問自答する。
丁度,そのころ,40台の男性が小屋に入ってくる。そして私のブログの話が尾を引く。彼が,
「今日,熊木沢出合から登ってきましたが,案外楽でした・・・」
と話し出す。私は,残念ながらこのルートは登ったことがないので,どんなルートか伺ってみる。これが切っ掛けになり,山の四方山話が始まる。彼が,
「槍ヶ岳に登ったことがありますか・・・」
と私に聞く。それを切っ掛けに,問われるままに槍ヶ岳,剣岳,穂高連峰など主だった山には登っていることを披露する。彼は「凄いですね」と畏怖の表情で私を見る。そのとき,以前,山の師匠から,
「ツアー旅行で,ガイドの後をタダ付いて歩くだけでも,100名山の幾つかを登ると,世間の人は,山のベテランと言うでしょう・・・でも,そんなの決してベテランではありません。ただ他人の後を付いていっただけでしょう・・あなた方,スクール生も直ぐに山のベテラン扱いを受けると思うが,飛んでもないこと。決して自惚れなさんな・・」
と叱責されたことを思い出す。全くその通りだと思う。
あらゆるリスクをガイドに任せたまま,ただ,ガイドの後を付いて行くだけの登山は,いくら回を重ねても,所詮,本当に登山が分かったことにはならない。登山学校で色々なことを習えば習うほど,このことを強く感じている。私はこの男性と会話しながら,あらためて自戒の念を強く持つ。
■ゆっくりと下山
10時57分に尊仏山荘を出発。下山を始める。
山頂で,この男性の記念写真を撮ってあげる。彼は熊木沢出合に戻るというので,ここでお別れする。私は,大倉発13時22分のバスに乗る予定である。まだ,十分に時間がある。私は,ほのかに秋色が見え始めた大倉尾根をユックリと下りつづける。
<花立山荘からの景色>
いつもながら,山頂から下山するときの満ち足りた気分は最高である。標高が低くなるにつれて,段々と蒸し暑くなってくる。ノンビリ,ノンビリと歩いて,予定通り,13時14分に大倉に到着する。
<樹木のことは分からないが,綺麗な花が咲いている>
渋沢発13時42分の電車で相模大野へ,そこで乗り換えて,藤沢に14時57分に到着する。さらに東海道本線に乗り換えて,15時26分,大船に到着する。小田原乗換で,東海道本線経由で帰るルートに比較して,20分ほど余計に時間が掛かるようである。
今回の山行で,自分の体力がどの程度か,およその見当が付いた。残暑が厳しい間に,もう一度,大倉尾根を往復して,自分の体力を確かめてみたいと思っている。
今回の大倉尾根往復は,本年通算35回目となる。
[山行記録]
※カッコ内は標高。ただし高度計で測定した値なので,数10メートル
の誤差がある可能性がある。
※上り下りとも,途中で休憩を取らずに1ピッチ。
7:44 大倉歩き出し(290m)
7:48 登山口(325m)
7:52 克童窯(350m)
7:57 丹沢ベース(390m)
8:04 観音茶屋(465m)
8:09 高原の家分岐(500m)
8:20 雑事場ノ平(595m)
8:22 見晴茶屋(605m)
8:38 一本松(745m)
8:53 駒止茶屋(855m)
9:02 堀山(910m)
9:09 堀山の家(925m)
9:26 戸沢分岐(1075m)
9:28 萱場平(1090m)
9:50 花立山荘(1260m)
10:05 金冷し(1330m)
10:19 塔ノ岳山頂 着(1465m)
10:57 〃 発(+18.8℃)
11:08 金冷し(1350m)
11:21 花立山荘(1285m)
11:40 萱場平(1115m)
11:42 戸沢分岐(1090m)
11:57 堀山の家(950m)
12:06 堀山(920m)
12:15 駒止茶屋(880m)
12:27 一本松(780m)
12:40 見晴茶屋(625m)
12:43 雑事場ノ平(610m)
12:51 高原の家分岐(535m)
12:55 観音茶屋(500m)
13:01 丹沢ベース(440m)
13:05 克亮童窯(395m)
13:08 登山口(360m)
13:14 大倉 着(310m)
[山行記録]
■登攀・下降高度
塔ノ岳山頂 1491(m)
大倉 290
(高度差 1201m)
■登攀所要時間
大倉発 7:44
塔ノ岳山頂着 10:19
(所要時間2時間35分(2.58h)
■登攀速度
1201(m)/2.58(h)=465.5(m/h)
■下降所要時間
塔ノ岳山頂発 10:52
大倉着 13:14
(所要時間 2時間17分(2.28h))
■下降速度
1201(m)/2.28(h)=526.8(m/h)
(おわり)