ひたすら霧の中を歩く:丹沢塔ノ岳(第19回)
(単独山行)
2008年4月12日(土)
■登るのは今日しかない
この所,天気が思わしくない日が続く。天気予報によれば,今日(4月12日)の日中は晴れるものの,夕方から天気は下り坂,そして日曜日から雨の日が続くという。それならば,塔ノ岳に登るのは今日しかない。例により,登山道具一式を詰め込んであるリュックを背負って,5時10分に家を出る。
4月も中旬になると,夜が明けるのが大分早くなり,こんな早朝でも,辺りはもう十分に明るくなっている。何時もの通り,大船から藤沢に出る。そこからナントカキップで,小田急を経由して,7時12分頃,渋沢に到着する。
渋沢7時17分発大倉行きのバスは,増便されているにもかかわらず,沢山の登山客で超満員である。どうやら団体客も沢山乗っている。
天気予報では,もう,とっくに晴れてきても良いのに,バスの車窓から外を見ると,ポツポツと小雨が降っているようである。時々,傘をさしている歩行者を見掛ける。当たらない天気予報が恨めしくなる。
■登山道は混雑
7時30分頃,バスは大倉に到着する。大倉は沢山の登山客で混雑している。私も登山の準備のために,飲食店脇の待合室に入る。待合室には,ときどき登山道で姿を見掛ける年輩の男性が支度をしている。私は,この男性に軽く会釈,「こんにちは」と挨拶をする。
間もなく準備を終えた私は,この男性が歩き出してから10分ほど遅れて,7時45分,大倉を歩き出す。
今朝,鎌倉周辺では曇ってはいたものの雨は全く降っていなかった。でも,大倉周辺では,つい先ほどまで,かなりの雨が降っていたらしくて,道路はビシャビシャにぬれている。また,何時もなら前方にクッキリと見えている山稜も,今日は深い霧の中である。
歩き出してから直ぐに,今日の私の体調は,必ずしも良くないことを実感する。何となく足が重く,どうも気分が高揚してこない。まあ,こんな調子ならば,無理をせずに,ユックリ登ろうと決める。
■湿度が高く雲の中,何も見えない
それでも,いくら遅いとはいえ,普段,山に登っていない方々よりは速く歩けるのは当然である。同じバスに乗っていた登山客を次々に追い越しながら,8時05分に観音茶屋,8時19分に見晴茶屋を通過する。この辺りから同じバスに乗り合わせた一般の登山客は少なくなる。
登山道は湿度が高く,深い霧に覆われている。辺りを見回しても,ほとんど視界が利かない。それに無風状態で,高めの気温である。かなりユックリしたペースで歩いていても,すぐに体中から汗が吹き出してくる。私は腹式呼吸に留意して,あまり汗をかかないように自重しながら,登山道を登り続ける。
8時35分に一本松を通過する。ここでご常連のNさんに追いつく。Nさんは,大学が私と同門なので,日頃から,特に親しくさせて頂いている。久々にお会いしたので,一緒に登ろうかとも思ったが,それでは返って迷惑になるかもしれない。そこで,
「今日は,今日は,先に行かせて貰います・・・」
と挨拶しながら,先に行かせて貰う。
■韋駄天のような男性に追い抜かれる
堀山の尾根道は,昨日来の雨のためか,かなり泥濘になっている。歩く度に泥で足が取られて歩きにくい。尾根道の周辺は深い霧に覆われている。多分,雲の中に入っているのだろう。直ぐ近くの丹沢の山々はおろか,つい数十メートル先も良く見えない。何も見えない尾根道はつまらない。どんどんと先へ進むしかない。
8時52分に駒止茶屋を通過する。ここで,何時の間にか,後から近付いてきた50才代の男性に,凄い勢いで,追い抜かれる。彼に,
「随分速いですね・・・山頂までどのくらいで登るんですか」
と伺ってみる。
「そうですね・・・大体2時間ぐらいでしょうか・・・」
現在の私は,多分,2時間25分前後の速度で登っている。やっぱり,韋駄天のように急坂を登らないと2時間を切るのは難しいんだなと実感する。
<霧の萱場平>
■三角髭の紳士
9時03分に堀山ノ家を通過する。尾根道を,余所見もしないで,ドンドン歩いたためか,前回登ったときよりも,大倉から堀山ノ家までのラップタイムが,5分ほど縮まっている。これは少しオーバーペースかなと反省し,ややペースを落として登り続ける。
深い霧の中を登っていると,前方の霧の中に登山者の姿が,白黒のシルエットのように見え出すが,近付くに連れて,服装や着ている物の色がハッキリ見えてくる。濡れていて滑りそうな木の階段を慎重に登り続けて,9時20分に戸沢分岐に到着する。前回のラップタイムより3分速い。この程度の速度ならば,まあ良かろうと,同じペースで登り続ける。
花立山荘まで,階段をあと10数メートルのところで,上から降りてきたご常連の三角髭紳士とすれ違う。
「やあ・・今日は。今日は,お互いに何時ものペースのようですね・・」
と笑いながらすれ違う。三角髭の紳士は,今日も大倉尾根を2時間程度で登ったようである。凄い人だなと感心する。
■同年輩のご常連に慰められる
9時42分に花立山荘を通過する。辺りには,相変わらず濃い霧が立ち込めている。花立場のコルの手前で,大倉バス停の待合室でお会いしたご常連が降りてくる。余りの早さに,私はビックリする。
「おや・・・随分,お早いですね」
すると紳士は,
「うん,・・まあ,・・私は雨でない限り,毎日登っているから・・・今年になって,90回ほど登ってますよ。今日も,山頂まで,大体2時間ぐらいかな・・ところで,貴方は週に2回ぐらい登っているんですか・・?」
「はい,まあそんな所です。今年は,今日が19回目。私はどんなに速くても2時間15分程度,普段は2時間25分前後掛かっちゃいます・・・」
「でも,失礼ですが,・・・お幾つですか。私は××歳ですが・・」
「私は昭和×年生まれ・・・お宅より3才年上ですね・・」
「そうでしたか・・・2時間20分台なら,大したものですよ。お互いに頑張りましょう・・」
と言って,私を慰める。
同年輩の方が,これほど元気に歩かれるのは,何よりも励みになるし,とても頼もしく,嬉しいことである。
■尊仏山荘にて
9時56分に金冷シを通過する。さすがにここまで来ると,気温も下がって,少し寒くなる。前回登ったときには,この辺りまで来ると残雪があったが,今日はすっかり溶けて,雪はなくなっている。僅かに北側の斜面に雪の痕跡が残っているだけである。ただ,その分,登山道は泥濘が激しく,で歩きにくくなっている。
10時10分に塔ノ岳山頂に到着する。
山頂も,一面の濃い霧に覆われていて,ほとんど視界がない。土曜日とあって,かなり沢山の登山客が山頂で休憩を取っているようである。風はほとんど吹いていない。
何時もならば,山頂からの景色をデジカメで撮るが,霧の写真を撮っても仕方がないので,すぐに尊仏山荘に入る。
今日の小屋番は,Oさん。私は定番のお茶を所望する。
山荘の温度計によると,10時過ぎの塔ノ岳の気温は+8.0℃。今日は随分と暖かい。
山荘には土曜日のご常連が数名,もう屯している。カメラマン氏も健在である。やがて,カメラマン氏は,立派なカメラを抱えて丹沢方面に出掛けていく。
名前は知らないが,ご年輩のご常連がお二人居られる。入口近くには土曜日に必ず座っている男性客が,今日もご健在である。
今週初めに続いた寒い日のことが話題になる。そういえば,前回,4月9日に登ったときに,やたらに寒くて,手がかじかみそうになったことを思い出す。あの例の手足丸出しで登り下りしている方も,余りの寒さに往生していたとのことである。
営業部長は,今日も姿を見せない。
小屋番のOさんが,ウエスタンミュージックをカセットから流している。
<塔ノ岳山頂は霧の中>
■尊仏山荘のHさんとすれ違う
10時34分に尊仏山荘から下山を開始する。山荘を出た途端に,外気が随分と寒く感じる。ウインドウブレーカーを出して着ようかとも思ったが,花立山荘まで下れば暖かくなるのが分かっているので,暫くの間は,我慢することにする。今日は,ゆっくり下山して,大倉発13時11分のバスに乗るつもりである。
金冷シ手前で,下から登ってくる尊仏山荘のオーナー,Hさんとすれ違う。
「今日は,折角登ってきたのに,今日は何も見えませんでした。また来週早々,天気を見て登ってきます」
とHさんに,話しかける。
Hさんの直ぐ前を登っていた女性が,私がHさんに話しかけたのを,自分に話しかけられたと勘違いして,
「あら,そうでしたか。今日は残念ですね・・・」
と私に返事をする。見知ぬ女性が苦手な私は,ドギマギと慌てる。
また,下り続ける。直ぐその後,一本松付近で追い越させて頂いたNさんが登ってくる。
「やあ・・先に降りてきました・・・またお会いしましょう」
と言いながらすれ違う。こんな他愛のない会話でも,ご常連と交わせるのが嬉しい。
10時45分,金冷シを通過する。馬の背,花立場を通過する間も,登ってくる登山者と絶えずすれ違う。
■山のマナーを知らないM6
10時56分,花立山荘に到着する。数十名の年輩登山客の集団が広場を埋めている。神奈川県では比較的有名な登山グループM6の方々のようである。
花立山荘からの長い階段を下り終えて,11時17分に戸沢分岐を通過する。狭い階段を下り終えて,ガレ場に差し掛かる。すると,下から50~60人の大団体が,隙間もなく連なったまま登ってくる。私が脇で待避しているのに,一向に道を譲る気配もなく,ダラダラ,ダラダラと,次から次へと登ってくる。足止めをされたまま待っていると,先ほど尊仏山荘で一緒になったお二人の方が,私の後に追いついている。お二人の内の1人が,
「こんなにダラダラ長いと困るよ・・・いくつかに分けなきゃ。バカ尾根だから未だ良いが,表尾根だったら大変だよ・・」
と愚痴を言う。私も同感!
「途中で,私達を通してください・・」
と私が集団にもの申す・・・が,誰がリーダーか分からないまま,次から次へと登ってくる。頭に来るが仕方がないので待ち続ける。M6は有名な団体なのに,登山の基本的なマナーがなっていない。気の弱い私は,自分の頭の中だけで憤慨している。
■ご常連に追い越される
私はそれほどゆっくりした速度で下山している訳でもないのに,ご常連のお二人に追いつかれてしまい,ビックリする。
「どうぞお先へ・・・」
と私はお二人に道を譲る。
「俺たち,堀山ノ家で,食事するつもりなんで,後からで良いですよ」
と言うが,私のために引っかかっているのでは,私が辛いので,先に行って貰う。
11時32分に,堀山ノ家を通過する。先ほどのお二人はベンチに腰掛けて,昼食を摂っている。
堀山の直ぐ下で,先日の大風を受けて倒れていた桜の木は,私が登ったときはそのままだっが,丁度今,堀山ノ家の管理人によって,取り除かれた所である。チェインソーで切断された幹から,真新しい木の香りが漂ってくる。
堀山ノ家を通過すると,気温も随分と暖かくなる。それに,上空を覆う雲も大分薄くなり始めて,何となく春の太陽を肌で感じられるようになる。
堀山の尾根道を通過して,駒止茶屋付近の急坂を慎重に下る。
11時56分に一本松を通過して,長い下り坂に差し掛かる。この時,先ほど堀山ノ家で休んでいた,お二人に再び追い越される。ユックリとはいえ,私もそれなりの速度で下り続けている。それなのに,もう追い越されるとは・・・
「ご常連とはいえ,上には上がいるものだな~ぁ・・・」
とつくづく実感させられる。
<山麓はもう春:丹沢ベースから望む>
※標高の高い所は雲の中
■青空市
この辺りから,急いで下山すれば,大倉発12時40分のバスに間に合うかもしれないと思った。でも,今日は,登り下りともに,ご常連客の俊足に圧倒されてしまい,意気消沈。到底,急ぐ気になれない。むしろ何だか気が抜けて,疲れがドッと出てきたような気分になる。
その後は,ダラダラ,ドタドタと惰性で歩いて,12時49分,大倉に到着する。
折から,今日は土曜日とあって,バス停後の広場では青空市が開かれている。泥だらけの靴を洗ってから,青空市を見物。出来心で夏みかんが5~6個入った袋を150円で購入する。
13時11分発渋沢駅行のバスに乗車する。私を2回追い抜いたお二人のご常連も,同じバスに乗ってくる。帰りのバスも,ほぼ席が埋まるぐらい混雑していた。
ああ,疲れた。
[ラップタイム]
7:45 大倉歩き出し
7:50 登山口
7:58 丹沢ベース
8:05 観音茶屋
8:08 分岐
8:17 雑事場ノ平
8:19 見晴茶屋
8:35 一本松
8:52 駒止茶屋
8:56 堀山
9:03 堀山ノ家
9:20 戸沢分岐
9:22 萱場平
9:42 花立山荘
9:56 金冷シ
10:10 塔ノ岳山頂 着
====================
10:34 塔ノ岳山頂 発(+8.0℃)
10:45 金冷シ
10:56 花立山荘
11:15 萱場平
11:17 戸沢分岐
11:32 堀山ノ家
11:35 堀山
11:42 駒止茶屋
11:56 一本松
12:10 見晴茶屋
12:12 雑事場ノ平
12:21 分岐
12:25 観音茶屋
12:33 丹沢ベース
12:42 登山口
12:49 大倉 着
[山行記録]
■登攀・下降高度 1201m
■水平移動距離 6.5km
■登攀所要時間
大倉発 7:45
塔ノ岳山頂着 10:10
(所要時間) 2時間25分(2.42h)
登攀速度 1,201m/2.42h=496.3m/h
■下降所要時間
塔ノ岳山頂発 10;35
大倉発 12:49
(所要時間) 2時間15分(2.25h)
下降速度 1,201m/2.25h=533.8m/h
(おわり)
(単独山行)
2008年4月12日(土)
■登るのは今日しかない
この所,天気が思わしくない日が続く。天気予報によれば,今日(4月12日)の日中は晴れるものの,夕方から天気は下り坂,そして日曜日から雨の日が続くという。それならば,塔ノ岳に登るのは今日しかない。例により,登山道具一式を詰め込んであるリュックを背負って,5時10分に家を出る。
4月も中旬になると,夜が明けるのが大分早くなり,こんな早朝でも,辺りはもう十分に明るくなっている。何時もの通り,大船から藤沢に出る。そこからナントカキップで,小田急を経由して,7時12分頃,渋沢に到着する。
渋沢7時17分発大倉行きのバスは,増便されているにもかかわらず,沢山の登山客で超満員である。どうやら団体客も沢山乗っている。
天気予報では,もう,とっくに晴れてきても良いのに,バスの車窓から外を見ると,ポツポツと小雨が降っているようである。時々,傘をさしている歩行者を見掛ける。当たらない天気予報が恨めしくなる。
■登山道は混雑
7時30分頃,バスは大倉に到着する。大倉は沢山の登山客で混雑している。私も登山の準備のために,飲食店脇の待合室に入る。待合室には,ときどき登山道で姿を見掛ける年輩の男性が支度をしている。私は,この男性に軽く会釈,「こんにちは」と挨拶をする。
間もなく準備を終えた私は,この男性が歩き出してから10分ほど遅れて,7時45分,大倉を歩き出す。
今朝,鎌倉周辺では曇ってはいたものの雨は全く降っていなかった。でも,大倉周辺では,つい先ほどまで,かなりの雨が降っていたらしくて,道路はビシャビシャにぬれている。また,何時もなら前方にクッキリと見えている山稜も,今日は深い霧の中である。
歩き出してから直ぐに,今日の私の体調は,必ずしも良くないことを実感する。何となく足が重く,どうも気分が高揚してこない。まあ,こんな調子ならば,無理をせずに,ユックリ登ろうと決める。
■湿度が高く雲の中,何も見えない
それでも,いくら遅いとはいえ,普段,山に登っていない方々よりは速く歩けるのは当然である。同じバスに乗っていた登山客を次々に追い越しながら,8時05分に観音茶屋,8時19分に見晴茶屋を通過する。この辺りから同じバスに乗り合わせた一般の登山客は少なくなる。
登山道は湿度が高く,深い霧に覆われている。辺りを見回しても,ほとんど視界が利かない。それに無風状態で,高めの気温である。かなりユックリしたペースで歩いていても,すぐに体中から汗が吹き出してくる。私は腹式呼吸に留意して,あまり汗をかかないように自重しながら,登山道を登り続ける。
8時35分に一本松を通過する。ここでご常連のNさんに追いつく。Nさんは,大学が私と同門なので,日頃から,特に親しくさせて頂いている。久々にお会いしたので,一緒に登ろうかとも思ったが,それでは返って迷惑になるかもしれない。そこで,
「今日は,今日は,先に行かせて貰います・・・」
と挨拶しながら,先に行かせて貰う。
■韋駄天のような男性に追い抜かれる
堀山の尾根道は,昨日来の雨のためか,かなり泥濘になっている。歩く度に泥で足が取られて歩きにくい。尾根道の周辺は深い霧に覆われている。多分,雲の中に入っているのだろう。直ぐ近くの丹沢の山々はおろか,つい数十メートル先も良く見えない。何も見えない尾根道はつまらない。どんどんと先へ進むしかない。
8時52分に駒止茶屋を通過する。ここで,何時の間にか,後から近付いてきた50才代の男性に,凄い勢いで,追い抜かれる。彼に,
「随分速いですね・・・山頂までどのくらいで登るんですか」
と伺ってみる。
「そうですね・・・大体2時間ぐらいでしょうか・・・」
現在の私は,多分,2時間25分前後の速度で登っている。やっぱり,韋駄天のように急坂を登らないと2時間を切るのは難しいんだなと実感する。
<霧の萱場平>
■三角髭の紳士
9時03分に堀山ノ家を通過する。尾根道を,余所見もしないで,ドンドン歩いたためか,前回登ったときよりも,大倉から堀山ノ家までのラップタイムが,5分ほど縮まっている。これは少しオーバーペースかなと反省し,ややペースを落として登り続ける。
深い霧の中を登っていると,前方の霧の中に登山者の姿が,白黒のシルエットのように見え出すが,近付くに連れて,服装や着ている物の色がハッキリ見えてくる。濡れていて滑りそうな木の階段を慎重に登り続けて,9時20分に戸沢分岐に到着する。前回のラップタイムより3分速い。この程度の速度ならば,まあ良かろうと,同じペースで登り続ける。
花立山荘まで,階段をあと10数メートルのところで,上から降りてきたご常連の三角髭紳士とすれ違う。
「やあ・・今日は。今日は,お互いに何時ものペースのようですね・・」
と笑いながらすれ違う。三角髭の紳士は,今日も大倉尾根を2時間程度で登ったようである。凄い人だなと感心する。
■同年輩のご常連に慰められる
9時42分に花立山荘を通過する。辺りには,相変わらず濃い霧が立ち込めている。花立場のコルの手前で,大倉バス停の待合室でお会いしたご常連が降りてくる。余りの早さに,私はビックリする。
「おや・・・随分,お早いですね」
すると紳士は,
「うん,・・まあ,・・私は雨でない限り,毎日登っているから・・・今年になって,90回ほど登ってますよ。今日も,山頂まで,大体2時間ぐらいかな・・ところで,貴方は週に2回ぐらい登っているんですか・・?」
「はい,まあそんな所です。今年は,今日が19回目。私はどんなに速くても2時間15分程度,普段は2時間25分前後掛かっちゃいます・・・」
「でも,失礼ですが,・・・お幾つですか。私は××歳ですが・・」
「私は昭和×年生まれ・・・お宅より3才年上ですね・・」
「そうでしたか・・・2時間20分台なら,大したものですよ。お互いに頑張りましょう・・」
と言って,私を慰める。
同年輩の方が,これほど元気に歩かれるのは,何よりも励みになるし,とても頼もしく,嬉しいことである。
■尊仏山荘にて
9時56分に金冷シを通過する。さすがにここまで来ると,気温も下がって,少し寒くなる。前回登ったときには,この辺りまで来ると残雪があったが,今日はすっかり溶けて,雪はなくなっている。僅かに北側の斜面に雪の痕跡が残っているだけである。ただ,その分,登山道は泥濘が激しく,で歩きにくくなっている。
10時10分に塔ノ岳山頂に到着する。
山頂も,一面の濃い霧に覆われていて,ほとんど視界がない。土曜日とあって,かなり沢山の登山客が山頂で休憩を取っているようである。風はほとんど吹いていない。
何時もならば,山頂からの景色をデジカメで撮るが,霧の写真を撮っても仕方がないので,すぐに尊仏山荘に入る。
今日の小屋番は,Oさん。私は定番のお茶を所望する。
山荘の温度計によると,10時過ぎの塔ノ岳の気温は+8.0℃。今日は随分と暖かい。
山荘には土曜日のご常連が数名,もう屯している。カメラマン氏も健在である。やがて,カメラマン氏は,立派なカメラを抱えて丹沢方面に出掛けていく。
名前は知らないが,ご年輩のご常連がお二人居られる。入口近くには土曜日に必ず座っている男性客が,今日もご健在である。
今週初めに続いた寒い日のことが話題になる。そういえば,前回,4月9日に登ったときに,やたらに寒くて,手がかじかみそうになったことを思い出す。あの例の手足丸出しで登り下りしている方も,余りの寒さに往生していたとのことである。
営業部長は,今日も姿を見せない。
小屋番のOさんが,ウエスタンミュージックをカセットから流している。
<塔ノ岳山頂は霧の中>
■尊仏山荘のHさんとすれ違う
10時34分に尊仏山荘から下山を開始する。山荘を出た途端に,外気が随分と寒く感じる。ウインドウブレーカーを出して着ようかとも思ったが,花立山荘まで下れば暖かくなるのが分かっているので,暫くの間は,我慢することにする。今日は,ゆっくり下山して,大倉発13時11分のバスに乗るつもりである。
金冷シ手前で,下から登ってくる尊仏山荘のオーナー,Hさんとすれ違う。
「今日は,折角登ってきたのに,今日は何も見えませんでした。また来週早々,天気を見て登ってきます」
とHさんに,話しかける。
Hさんの直ぐ前を登っていた女性が,私がHさんに話しかけたのを,自分に話しかけられたと勘違いして,
「あら,そうでしたか。今日は残念ですね・・・」
と私に返事をする。見知ぬ女性が苦手な私は,ドギマギと慌てる。
また,下り続ける。直ぐその後,一本松付近で追い越させて頂いたNさんが登ってくる。
「やあ・・先に降りてきました・・・またお会いしましょう」
と言いながらすれ違う。こんな他愛のない会話でも,ご常連と交わせるのが嬉しい。
10時45分,金冷シを通過する。馬の背,花立場を通過する間も,登ってくる登山者と絶えずすれ違う。
■山のマナーを知らないM6
10時56分,花立山荘に到着する。数十名の年輩登山客の集団が広場を埋めている。神奈川県では比較的有名な登山グループM6の方々のようである。
花立山荘からの長い階段を下り終えて,11時17分に戸沢分岐を通過する。狭い階段を下り終えて,ガレ場に差し掛かる。すると,下から50~60人の大団体が,隙間もなく連なったまま登ってくる。私が脇で待避しているのに,一向に道を譲る気配もなく,ダラダラ,ダラダラと,次から次へと登ってくる。足止めをされたまま待っていると,先ほど尊仏山荘で一緒になったお二人の方が,私の後に追いついている。お二人の内の1人が,
「こんなにダラダラ長いと困るよ・・・いくつかに分けなきゃ。バカ尾根だから未だ良いが,表尾根だったら大変だよ・・」
と愚痴を言う。私も同感!
「途中で,私達を通してください・・」
と私が集団にもの申す・・・が,誰がリーダーか分からないまま,次から次へと登ってくる。頭に来るが仕方がないので待ち続ける。M6は有名な団体なのに,登山の基本的なマナーがなっていない。気の弱い私は,自分の頭の中だけで憤慨している。
■ご常連に追い越される
私はそれほどゆっくりした速度で下山している訳でもないのに,ご常連のお二人に追いつかれてしまい,ビックリする。
「どうぞお先へ・・・」
と私はお二人に道を譲る。
「俺たち,堀山ノ家で,食事するつもりなんで,後からで良いですよ」
と言うが,私のために引っかかっているのでは,私が辛いので,先に行って貰う。
11時32分に,堀山ノ家を通過する。先ほどのお二人はベンチに腰掛けて,昼食を摂っている。
堀山の直ぐ下で,先日の大風を受けて倒れていた桜の木は,私が登ったときはそのままだっが,丁度今,堀山ノ家の管理人によって,取り除かれた所である。チェインソーで切断された幹から,真新しい木の香りが漂ってくる。
堀山ノ家を通過すると,気温も随分と暖かくなる。それに,上空を覆う雲も大分薄くなり始めて,何となく春の太陽を肌で感じられるようになる。
堀山の尾根道を通過して,駒止茶屋付近の急坂を慎重に下る。
11時56分に一本松を通過して,長い下り坂に差し掛かる。この時,先ほど堀山ノ家で休んでいた,お二人に再び追い越される。ユックリとはいえ,私もそれなりの速度で下り続けている。それなのに,もう追い越されるとは・・・
「ご常連とはいえ,上には上がいるものだな~ぁ・・・」
とつくづく実感させられる。
<山麓はもう春:丹沢ベースから望む>
※標高の高い所は雲の中
■青空市
この辺りから,急いで下山すれば,大倉発12時40分のバスに間に合うかもしれないと思った。でも,今日は,登り下りともに,ご常連客の俊足に圧倒されてしまい,意気消沈。到底,急ぐ気になれない。むしろ何だか気が抜けて,疲れがドッと出てきたような気分になる。
その後は,ダラダラ,ドタドタと惰性で歩いて,12時49分,大倉に到着する。
折から,今日は土曜日とあって,バス停後の広場では青空市が開かれている。泥だらけの靴を洗ってから,青空市を見物。出来心で夏みかんが5~6個入った袋を150円で購入する。
13時11分発渋沢駅行のバスに乗車する。私を2回追い抜いたお二人のご常連も,同じバスに乗ってくる。帰りのバスも,ほぼ席が埋まるぐらい混雑していた。
ああ,疲れた。
[ラップタイム]
7:45 大倉歩き出し
7:50 登山口
7:58 丹沢ベース
8:05 観音茶屋
8:08 分岐
8:17 雑事場ノ平
8:19 見晴茶屋
8:35 一本松
8:52 駒止茶屋
8:56 堀山
9:03 堀山ノ家
9:20 戸沢分岐
9:22 萱場平
9:42 花立山荘
9:56 金冷シ
10:10 塔ノ岳山頂 着
====================
10:34 塔ノ岳山頂 発(+8.0℃)
10:45 金冷シ
10:56 花立山荘
11:15 萱場平
11:17 戸沢分岐
11:32 堀山ノ家
11:35 堀山
11:42 駒止茶屋
11:56 一本松
12:10 見晴茶屋
12:12 雑事場ノ平
12:21 分岐
12:25 観音茶屋
12:33 丹沢ベース
12:42 登山口
12:49 大倉 着
[山行記録]
■登攀・下降高度 1201m
■水平移動距離 6.5km
■登攀所要時間
大倉発 7:45
塔ノ岳山頂着 10:10
(所要時間) 2時間25分(2.42h)
登攀速度 1,201m/2.42h=496.3m/h
■下降所要時間
塔ノ岳山頂発 10;35
大倉発 12:49
(所要時間) 2時間15分(2.25h)
下降速度 1,201m/2.25h=533.8m/h
(おわり)