<塔ノ岳山頂からの富士山>
新雪どっさりの丹沢:塔ノ岳(今年5回目)
(単独山行)
2010年2月4日(木)
■雪の丹沢に出掛ける
2月1日未明にかけて,関東地方にも大雪が降った.私は,前日から雪の丹沢へ行きたいなと思っていたが,朝寝坊をしてしまったり,雑務があったりで,結局,2月4日まで,塔ノ岳詣では実現しなかった.
4日,例によって真っ暗な5時10分に家を出発する.週明けから日本列島を,猛烈な寒気が覆っている.今朝は一段と寒いので,出かけるのに,どうしても気後れがしてしまう.しかし,登山用の着衣をまとって,リュックを背負った途端に,「行くぞ!」という気分になるから不思議である.
寒いためか,渋沢発大倉行1番バスに乗り合わせた乗客は数少ない.その中で韋駄天組のTさんとお仲間3人,それに重そうな荷物を背負ったカメラマンのMさんがバスの前方に座って,楽しそうに雑談をしている.
大倉でトイレに立ち寄る.たまたま私の隣で用足しをしているTさんに,
「・・1日の雪はどうでしたか?」
と伺う.
「いや~ぁ・・・物凄かったです.(積雪は)50~60センチもありましたよ.吹き溜まりでは1メートルくらい.腰まで雪に埋まってしまい往生しましたよ・・」
■山麓にも残雪
大倉も随分と寒い.でも無風である.私は少々迷ったが,ヤッケをリュックに入れて,長袖と薄手のチョッキ1枚の軽装になる.そしてスパッツを装着.さらに4本爪アイゼンをリュックの一番上に入れる.さらに,いつでも取り出せるようにサングラスをポケットに収める.これから先,雪道が予想されるので,平素全く使わなが,今日は慎重を期すために最初からストックを手に持つ.
軽くストレッチを済ませてから,7時05分に大倉を出発する.
歩き出してから,暫くの間は残雪もなく歩きやすい.何時もと全く同じペースで,克董窯,丹沢ベースを通過する.しかし,登山道に入ると,山麓にもかかわらず,日の当らない山腹には雪が残っている.そして,観音茶屋を過ぎた辺りから,融雪が泥と混じって凍りついた路面になる.
見晴山荘を過ぎて,急坂に差し掛かる.急な階段道に凍結した残雪がへばり付いている.とても滑りやすいので,何時もよりも大分時間を掛けて慎重に登り続ける.
<雪の中の見晴山荘>
■早々にアイゼン装着
標高が高まるにつれて,ますます残雪が増える.駒止茶屋直前の急坂付近で,一段と残雪が増える.凍てついた急坂は滑って登るのに苦労する.登山学校で習ったキックステップで,一歩一歩安全を確認しながら登り続ける.しかし,このキックステップ歩行は,通常の歩行よりかなり余分な体力が必要なので,疲労も増す.
8時15分に漸く駒止茶屋に到着する.大倉を歩き出してから,すでに1時間10分も経過している.残雪でやむを得ないとはいえ,極めて低速である.
やがて,堀山の尾根に入る.ここまで来れば少しは雪が減るのではないかと期待したが,残雪は増えるばかりである.この辺りは道幅が広い筈だが,誰かが残した踏み跡だけが細々と連なっている.私も,この踏み跡に沿って歩き続ける.途中,尾根道から富士山がとてもよく見えている.空には雲ひとつない.千載一遇のチャンスとばかり,私は富士山の写真を撮りまくる.
堀山から先は,緩やかだが下り道になる.私は安全を考えて,早々とアイゼンを装着する.
<堀山の家からの富士山>
■雪に埋まった階段道
8時40分,ようやく堀山の家を通過する.辺りには全く人気がない.山荘は雪の中で静まり返っている.小草平のベンチにうずたかく雪が積もっている.その先に聳えている大きな杉の木の間に真っ白な富士山が見えている.辺りの枯れ枝に沢山の雪が残っている.
いよいよ大倉尾根最大の難所,花立山荘までの長い登り道に差し掛かる.アイゼンの刃が時々岩とぶつかってガシガシと音を立てる.目の前,右手でちょろちょろと動くものを発見する.リスである.私はデジカメを取り出して,リスの写真を撮ろうとしたが,その瞬間,リスはどこかに消えてしまった.
やがて階段道になる・・・が,階段は雪に覆われていて,何処に階段があるのか分からない.ただのっぺらぼうの急坂になっている.階段がなくなると歩きやすいような,歩きにくいような奇妙な感じになる.
■雪の萱場平
9時丁度に,ようやく戸沢分岐に到着する.最近造られた木道も雪に隠れている.うっかりすると木道の間に足を落としそうになる.少々,危険.
萱場平も雪.このところの雪のために,この間の日曜日に見たときから工事は進んでいないようである.
<雪の萱場平>
■久々の雪の感触
萱場平から先の階段道は,完全に雪の中.私は久々の雪の感触を楽しみながらゆっくりと登っていく.雪国で生まれ育った私は,こんな雪道を歩いていると,少年時代をとても懐かしく思い出す.そんな感傷に浸りながら,一歩一歩雪を確かめるようにして登り続ける.
もう少しで「あと7分坂」に到着するころ,1人の女性に追い付く.私がアイゼンを付けているのを見て,
「・・あの,アイゼンを付けた方がよろしいでしょうか?」
と私に質問する.私は内心では,
「アイゼンを装着した方が良いと思ったからアイゼンを使っているんですよ」
と答えそうになるのを,ぐっと堪えて,
「どちらでも構わないと思いますよ.でも,私は安全を考えてアイゼンを履きましたよ・・」
と答える.女性は,早速,リュックからアイゼンを取り出して,装着し始める.
■花立山荘の富士
花立山荘前の「あと7分坂」も,完全に雪の中である.雪で階段がなくなると,段差を気にしなくてよいので,意外に登りやすい.結局,平素7分掛る階段を5分ほどで登り切る.
9時31分に花立山荘に到着する.大倉を出発してから2時間21分も掛っている.通常は,2時間をオーバーすることは余りないのに・・・・
人気のない山荘から富士山が綺麗に見えている.
<花立山荘からの富士山>
<花立場からの富士山と南アルプス>
■雪の中の一本道
山荘で休憩を取らずに登り続ける.途中で何回も立ち止まって,富士山,南アルプスの写真を撮る.そして.9時44分,ようやく花立場(花立山)を通過する.多少踏み固められている新雪は,歩く度にギシギシと音を立てる.この音がとても心地よい.
9時50分,金冷シを通過する.雪は一層深まる.
<金冷シ付近の溝のような踏み跡道>
■無心のシカ
登山道のすぐわきで1頭のシカが無心で枯れ草を食(は)んでいる.私が近づいても,チラリと視線を向けるだけで,一向に逃げようとしない.私はシカを驚かさないように注意をしながら,シカを写真に収める.
■韋駄天のTさん
山頂直下の急坂に差し掛かる.丁度そのとき,上から韋駄天のTさんとすれ違う.すれ違いざまに立ち話をする.
「2月1日(の雪)は,どんな状態でしたか?」
「いや~ぁ・・! それはもう大変でした.特に金冷シ手前の尾根は雪で盛り上がっていて,怖くて歩けませんでした.K村さんにラッセルしてもらって,漸く歩きました」 「そうでしたか・・この雪は根雪になりそうですね・・」
<山頂著家の雪の階段>
■輝く雪の殿堂
山頂直下の登山道は,樹氷に覆われている.
朝日が真横から樹氷に当たっている.キラキラと輝く樹氷は,それはもう見事.登山の疲労など一度に吹っ飛んでしまうほどの見事さである.日が昇れば,この樹氷も融けるだろうし,日光の当たり具合が違ってくるだろう.私は今のうちに十分見ておかないと,損をするような気分になって,ここで立ち止まる.そして,沢山の写真を撮りまくる.
風はないが気温は低そうである.首に巻いている汗ふき手ぬぐいが,凍結してゴワゴワになっている.
■凛とした大パノラマ
10時12分,ようやく塔ノ岳山頂に到着する.所要時間は,なんとまあ3時間07分.超遅速大記録である.山頂は大量の雪で覆われている.誰もいない.透明な空気を通して,雪に覆われた富士山,南アルプス,八ヶ岳の大パノラマが見渡せる.凄い風景である.私は感動しながら,厳冬期の大パノラマを見続ける.
「すばらしい,神々しい,何という壮大さだろう・・・」
私は,暫くの間,言葉を失いながら,大パノラマを見続ける.
パノラマの写真を撮ろうと思う.ところが,気温が低いために,デジカメのレンズカバーが半開きにしかならない.仕方なく,指でこじ開ける.こんなことをしているから,カメラが長持ちしないんだなと思いながら・・
<塔ノ岳山頂からの眺望>
■尊仏山荘
山頂は雪で埋まっている.至る所に吹き溜まりができている.尊仏山荘の入口まで,踏み跡が雪の中に溝のように細々と続いている.傍らの雪の中に,大きな雄シカがボンヤリとしている.この溝を辿って尊仏山荘に向かう.入口でアイゼンを外して中に入る.
山頂の気温はマイナス6.0℃.
今日の小屋番はNさん.ネコにとは中立の方である.もし,ネコ派のOさんだったら,ネコを呼びだして,雪とネコを重ねた写真を撮りたかったが,Nさんでは,そんな我儘は言い出せない.
先客は2人.同じバスに乗り合わせた方々である.お一人は私より先に大倉を出発していたが,もう一人の方には,堀山の家で追い越された.
Nさんは,もともと無口な方である.特段,何のお喋りもせず,私は300円也のお茶を飲み続ける.
山荘の携帯ラジオからは,国会中継が聞こえてくる.
<雪の覆われた尊仏山荘>
■ユックリと下山
私は,ユックリ下山して,大倉発13時22分のバスに乗りたい.そこで,10時38分,尊仏山荘を出発する.
何時の間にか雲が湧きあがっている.先ほどまで見えていた富士山は雲の中に消えている.
階段の下り口で,お馴染みの夫婦の登山家とすれ違う.お互いにエールを交換する. 山頂直下で,重い荷物を背負ったカメラマンのMさんとすれ違う.Mさんが,
「ネコの写真,撮れましたか・・」
と茶々を入れる.
萱場平では,木道取り付けの工事が再開されるらしく,数名の作業員が作業をしている.
戸沢分岐から雪に隠れた階段道を下り続ける.名前は分からないが,ご常連の男性とすれ違う.
「・・いや~ぁ・・・,(階段が雪に隠れてしまい)坂が急で大変ですよ・・」
と鼻をたらしながら嘆く.
急な下り坂では,十分に時間を掛けて慎重に下る.その間に,数名の方々に追い抜かれる.
見晴らし山荘でアイゼンを脱着する.
アイゼンを脱いでからは,物凄い速度で下り続けて,13時15分,予定通りに大倉に到着する.
[ラップタイム]
7:05 大倉歩き出し
7:25 観音茶屋
7:42 見晴茶屋
8:15 駒止茶屋
8:40 堀山の家
9:31 花立山荘
9:50 金冷シ
10:12 塔ノ岳山頂 着
===============================
10:38 塔ノ岳山頂 発(-6.0℃)
10:56 金冷シ
11:12 花立山荘
11:58 堀山の家
12:19 駒止茶屋
12:46 見晴茶屋
13:00 観音茶屋
13:15 大倉 着
[山行記録]
■水平距離 7.0km(片道)
■累積登攀下降高度 1269m
■登攀所要時間
大倉 発 7:05
塔ノ岳 着 10:12
(所要時間) 3時間07分(3.12h)
登攀速度 1269m/3.12h=406.7m/h
■下降所要時間
塔ノ岳 発 10:38
大倉 着 13:15
(所要時間) 2時間37分(2.62h)
下降速度 1269m/2.62h=484.4m/h
(おわり)
「丹沢の山旅」の前回の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/1fc510c053f2b30d64f310693f1baee1
「丹沢の山旅」の次回の記事
(なし)
新雪どっさりの丹沢:塔ノ岳(今年5回目)
(単独山行)
2010年2月4日(木)
■雪の丹沢に出掛ける
2月1日未明にかけて,関東地方にも大雪が降った.私は,前日から雪の丹沢へ行きたいなと思っていたが,朝寝坊をしてしまったり,雑務があったりで,結局,2月4日まで,塔ノ岳詣では実現しなかった.
4日,例によって真っ暗な5時10分に家を出発する.週明けから日本列島を,猛烈な寒気が覆っている.今朝は一段と寒いので,出かけるのに,どうしても気後れがしてしまう.しかし,登山用の着衣をまとって,リュックを背負った途端に,「行くぞ!」という気分になるから不思議である.
寒いためか,渋沢発大倉行1番バスに乗り合わせた乗客は数少ない.その中で韋駄天組のTさんとお仲間3人,それに重そうな荷物を背負ったカメラマンのMさんがバスの前方に座って,楽しそうに雑談をしている.
大倉でトイレに立ち寄る.たまたま私の隣で用足しをしているTさんに,
「・・1日の雪はどうでしたか?」
と伺う.
「いや~ぁ・・・物凄かったです.(積雪は)50~60センチもありましたよ.吹き溜まりでは1メートルくらい.腰まで雪に埋まってしまい往生しましたよ・・」
■山麓にも残雪
大倉も随分と寒い.でも無風である.私は少々迷ったが,ヤッケをリュックに入れて,長袖と薄手のチョッキ1枚の軽装になる.そしてスパッツを装着.さらに4本爪アイゼンをリュックの一番上に入れる.さらに,いつでも取り出せるようにサングラスをポケットに収める.これから先,雪道が予想されるので,平素全く使わなが,今日は慎重を期すために最初からストックを手に持つ.
軽くストレッチを済ませてから,7時05分に大倉を出発する.
歩き出してから,暫くの間は残雪もなく歩きやすい.何時もと全く同じペースで,克董窯,丹沢ベースを通過する.しかし,登山道に入ると,山麓にもかかわらず,日の当らない山腹には雪が残っている.そして,観音茶屋を過ぎた辺りから,融雪が泥と混じって凍りついた路面になる.
見晴山荘を過ぎて,急坂に差し掛かる.急な階段道に凍結した残雪がへばり付いている.とても滑りやすいので,何時もよりも大分時間を掛けて慎重に登り続ける.
<雪の中の見晴山荘>
■早々にアイゼン装着
標高が高まるにつれて,ますます残雪が増える.駒止茶屋直前の急坂付近で,一段と残雪が増える.凍てついた急坂は滑って登るのに苦労する.登山学校で習ったキックステップで,一歩一歩安全を確認しながら登り続ける.しかし,このキックステップ歩行は,通常の歩行よりかなり余分な体力が必要なので,疲労も増す.
8時15分に漸く駒止茶屋に到着する.大倉を歩き出してから,すでに1時間10分も経過している.残雪でやむを得ないとはいえ,極めて低速である.
やがて,堀山の尾根に入る.ここまで来れば少しは雪が減るのではないかと期待したが,残雪は増えるばかりである.この辺りは道幅が広い筈だが,誰かが残した踏み跡だけが細々と連なっている.私も,この踏み跡に沿って歩き続ける.途中,尾根道から富士山がとてもよく見えている.空には雲ひとつない.千載一遇のチャンスとばかり,私は富士山の写真を撮りまくる.
堀山から先は,緩やかだが下り道になる.私は安全を考えて,早々とアイゼンを装着する.
<堀山の家からの富士山>
■雪に埋まった階段道
8時40分,ようやく堀山の家を通過する.辺りには全く人気がない.山荘は雪の中で静まり返っている.小草平のベンチにうずたかく雪が積もっている.その先に聳えている大きな杉の木の間に真っ白な富士山が見えている.辺りの枯れ枝に沢山の雪が残っている.
いよいよ大倉尾根最大の難所,花立山荘までの長い登り道に差し掛かる.アイゼンの刃が時々岩とぶつかってガシガシと音を立てる.目の前,右手でちょろちょろと動くものを発見する.リスである.私はデジカメを取り出して,リスの写真を撮ろうとしたが,その瞬間,リスはどこかに消えてしまった.
やがて階段道になる・・・が,階段は雪に覆われていて,何処に階段があるのか分からない.ただのっぺらぼうの急坂になっている.階段がなくなると歩きやすいような,歩きにくいような奇妙な感じになる.
■雪の萱場平
9時丁度に,ようやく戸沢分岐に到着する.最近造られた木道も雪に隠れている.うっかりすると木道の間に足を落としそうになる.少々,危険.
萱場平も雪.このところの雪のために,この間の日曜日に見たときから工事は進んでいないようである.
<雪の萱場平>
■久々の雪の感触
萱場平から先の階段道は,完全に雪の中.私は久々の雪の感触を楽しみながらゆっくりと登っていく.雪国で生まれ育った私は,こんな雪道を歩いていると,少年時代をとても懐かしく思い出す.そんな感傷に浸りながら,一歩一歩雪を確かめるようにして登り続ける.
もう少しで「あと7分坂」に到着するころ,1人の女性に追い付く.私がアイゼンを付けているのを見て,
「・・あの,アイゼンを付けた方がよろしいでしょうか?」
と私に質問する.私は内心では,
「アイゼンを装着した方が良いと思ったからアイゼンを使っているんですよ」
と答えそうになるのを,ぐっと堪えて,
「どちらでも構わないと思いますよ.でも,私は安全を考えてアイゼンを履きましたよ・・」
と答える.女性は,早速,リュックからアイゼンを取り出して,装着し始める.
■花立山荘の富士
花立山荘前の「あと7分坂」も,完全に雪の中である.雪で階段がなくなると,段差を気にしなくてよいので,意外に登りやすい.結局,平素7分掛る階段を5分ほどで登り切る.
9時31分に花立山荘に到着する.大倉を出発してから2時間21分も掛っている.通常は,2時間をオーバーすることは余りないのに・・・・
人気のない山荘から富士山が綺麗に見えている.
<花立山荘からの富士山>
<花立場からの富士山と南アルプス>
■雪の中の一本道
山荘で休憩を取らずに登り続ける.途中で何回も立ち止まって,富士山,南アルプスの写真を撮る.そして.9時44分,ようやく花立場(花立山)を通過する.多少踏み固められている新雪は,歩く度にギシギシと音を立てる.この音がとても心地よい.
9時50分,金冷シを通過する.雪は一層深まる.
<金冷シ付近の溝のような踏み跡道>
■無心のシカ
登山道のすぐわきで1頭のシカが無心で枯れ草を食(は)んでいる.私が近づいても,チラリと視線を向けるだけで,一向に逃げようとしない.私はシカを驚かさないように注意をしながら,シカを写真に収める.
■韋駄天のTさん
山頂直下の急坂に差し掛かる.丁度そのとき,上から韋駄天のTさんとすれ違う.すれ違いざまに立ち話をする.
「2月1日(の雪)は,どんな状態でしたか?」
「いや~ぁ・・! それはもう大変でした.特に金冷シ手前の尾根は雪で盛り上がっていて,怖くて歩けませんでした.K村さんにラッセルしてもらって,漸く歩きました」 「そうでしたか・・この雪は根雪になりそうですね・・」
<山頂著家の雪の階段>
■輝く雪の殿堂
山頂直下の登山道は,樹氷に覆われている.
朝日が真横から樹氷に当たっている.キラキラと輝く樹氷は,それはもう見事.登山の疲労など一度に吹っ飛んでしまうほどの見事さである.日が昇れば,この樹氷も融けるだろうし,日光の当たり具合が違ってくるだろう.私は今のうちに十分見ておかないと,損をするような気分になって,ここで立ち止まる.そして,沢山の写真を撮りまくる.
風はないが気温は低そうである.首に巻いている汗ふき手ぬぐいが,凍結してゴワゴワになっている.
■凛とした大パノラマ
10時12分,ようやく塔ノ岳山頂に到着する.所要時間は,なんとまあ3時間07分.超遅速大記録である.山頂は大量の雪で覆われている.誰もいない.透明な空気を通して,雪に覆われた富士山,南アルプス,八ヶ岳の大パノラマが見渡せる.凄い風景である.私は感動しながら,厳冬期の大パノラマを見続ける.
「すばらしい,神々しい,何という壮大さだろう・・・」
私は,暫くの間,言葉を失いながら,大パノラマを見続ける.
パノラマの写真を撮ろうと思う.ところが,気温が低いために,デジカメのレンズカバーが半開きにしかならない.仕方なく,指でこじ開ける.こんなことをしているから,カメラが長持ちしないんだなと思いながら・・
<塔ノ岳山頂からの眺望>
■尊仏山荘
山頂は雪で埋まっている.至る所に吹き溜まりができている.尊仏山荘の入口まで,踏み跡が雪の中に溝のように細々と続いている.傍らの雪の中に,大きな雄シカがボンヤリとしている.この溝を辿って尊仏山荘に向かう.入口でアイゼンを外して中に入る.
山頂の気温はマイナス6.0℃.
今日の小屋番はNさん.ネコにとは中立の方である.もし,ネコ派のOさんだったら,ネコを呼びだして,雪とネコを重ねた写真を撮りたかったが,Nさんでは,そんな我儘は言い出せない.
先客は2人.同じバスに乗り合わせた方々である.お一人は私より先に大倉を出発していたが,もう一人の方には,堀山の家で追い越された.
Nさんは,もともと無口な方である.特段,何のお喋りもせず,私は300円也のお茶を飲み続ける.
山荘の携帯ラジオからは,国会中継が聞こえてくる.
<雪の覆われた尊仏山荘>
■ユックリと下山
私は,ユックリ下山して,大倉発13時22分のバスに乗りたい.そこで,10時38分,尊仏山荘を出発する.
何時の間にか雲が湧きあがっている.先ほどまで見えていた富士山は雲の中に消えている.
階段の下り口で,お馴染みの夫婦の登山家とすれ違う.お互いにエールを交換する. 山頂直下で,重い荷物を背負ったカメラマンのMさんとすれ違う.Mさんが,
「ネコの写真,撮れましたか・・」
と茶々を入れる.
萱場平では,木道取り付けの工事が再開されるらしく,数名の作業員が作業をしている.
戸沢分岐から雪に隠れた階段道を下り続ける.名前は分からないが,ご常連の男性とすれ違う.
「・・いや~ぁ・・・,(階段が雪に隠れてしまい)坂が急で大変ですよ・・」
と鼻をたらしながら嘆く.
急な下り坂では,十分に時間を掛けて慎重に下る.その間に,数名の方々に追い抜かれる.
見晴らし山荘でアイゼンを脱着する.
アイゼンを脱いでからは,物凄い速度で下り続けて,13時15分,予定通りに大倉に到着する.
[ラップタイム]
7:05 大倉歩き出し
7:25 観音茶屋
7:42 見晴茶屋
8:15 駒止茶屋
8:40 堀山の家
9:31 花立山荘
9:50 金冷シ
10:12 塔ノ岳山頂 着
===============================
10:38 塔ノ岳山頂 発(-6.0℃)
10:56 金冷シ
11:12 花立山荘
11:58 堀山の家
12:19 駒止茶屋
12:46 見晴茶屋
13:00 観音茶屋
13:15 大倉 着
[山行記録]
■水平距離 7.0km(片道)
■累積登攀下降高度 1269m
■登攀所要時間
大倉 発 7:05
塔ノ岳 着 10:12
(所要時間) 3時間07分(3.12h)
登攀速度 1269m/3.12h=406.7m/h
■下降所要時間
塔ノ岳 発 10:38
大倉 着 13:15
(所要時間) 2時間37分(2.62h)
下降速度 1269m/2.62h=484.4m/h
(おわり)
「丹沢の山旅」の前回の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/1fc510c053f2b30d64f310693f1baee1
「丹沢の山旅」の次回の記事
(なし)