第三十八首
忘らるる 身をば思はず 誓ひてし
人のいのちの 惜しくもあるかな
右近
(生没年不詳) 十世紀中頃、醍醐天皇の中宮穏子に仕えた女房。右近の通称は父の官位から
部位 恋 出典 拾遺集
主題
愛を誓った相手が神罰で滅びゆくことを惜しむ恋心
歌意
あなたに忘れられる私のこの身がどうなろうともかまわない。それよりも神に誓った私との愛を破ったことで神罰が下り、あなたの命が失われることが悔しいのです。
ただあれほど神前にお誓いになったあなたのお命が、いかがと惜しまれてならないのです。かたく神仏に誓ってまで契りをした人から忘れられていゆく恋の破綻を、相手を恨むのではなく、かえってその人が神罰にほろびゆくことを惜しく思うといった、女の恋心の悲しさがよく出ている歌として、いかにも家が晩年に好んだ恋歌の典型といえる。
藤原敦忠、師輔、朝忠、および源順らと交際のあったことが、歌の詞書や『大和物語』から知られる。『後撰集』に五首。『拾遺集』に三首。『新勅撰集』に一首入集。