第五十一首
かくとだに えやはいぶきの さしも草
さしも知らじな もゆる思ひを
藤原実方朝臣
(?-998) 貞信公の曾孫。光源氏のモデルとする説も。陸奥守として任地で没す。中古三十六歌仙の一人。
部位 恋 出典 後拾遺集
主題
胸にあまる切ない恋心を相手に訴えようとする心
歌意
こんなに恋い慕っているということだけでもあなたに伝えたいのですが、伝えられない。あなたは知らないでしょう。伊吹山のさしも草のように燃え上がる私の思いを。
技巧的な歌が多いこの時代の歌の中でも特に目立っていて、この技巧の多い
よみぶりを認めるかどうかでその評価が大きく変わる。
こんなふうだとだけでも。「だに」は副助詞。「えやは言ふ」(いうことができようか、できない)に、地名の尹吹きをかける。
定時の子。叔父済時の養子となる。円融・花山両院の寵を受け、当時の宮廷に華やいでいたが、行成と争って陸奥守に左遷され、任地で没。
家集に数種の『実方集』があり、実方の歌が没後もまもなく人々の間によまれ、集められていったことを示す。
『拾遺集』以下に六十四首。『新古今』に十二首。