第四十八首
風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ
くだけて物を 思ふころかな
源重之 男
(?-1000) 清和天皇の曾孫。相模権守など地方官を歴任し、旅の歌を多く残した。三十六歌仙の一人。
部位 恋 出典 詞花集
主題
つれない女性のために思い悩む片思いのやるせなさ
歌意
風が激しいので、岩にぶちあたって砕け散る波のように、あなたの冷たさに私の心も砕けるくらいに思い悩む今日この頃だなあ。
岩にうちあたる波が、ひとりでに砕けるように、あの女(人)は平気でいるのに、私だけが心もくだけるばかり思い悩んでいるこのごろであることよ。
令泉院の東宮時代に奉った百首歌の中、恋十種の第三首目である。この百首は、形式の整った最初の百首歌として貴重なものだが、それだけに非常に技巧に意を用いた歌が多い。この歌も、譬揄的な序を用いて、片思いのやるせない歌を巧みに歌っている。
陸奥へは二度以上下向、実方の陸奥守赴任にも随ったと見え、実方の死後まで陸奥のとどまり、そのまま没したようである。
家集に『重之集』『拾遺集』以下に六十六首入集。