第七十二章 愛己(己を愛する)
民、威(そこ)なわるることを畏れざれば大威至る。
其の居る 所 を狭むること無かれ
其の生くる 所 を 厭(しいた) ぐること無かれ。
夫れ唯り厭げず。是を以て厭わず
是を以て、聖人は自ら知りて 自 ら見わさず。
自ら愛して 自 ら貴しとせず。
故に、彼を去てて此を取る。
聖人は、自分の身を何よりも大切にしているのであるが、第七章に、
聖人は、其の身を後にして身先んじ、其の身を外にして身存ず とあり、第十三章には、 身を以て天下をおさむることを愛すれば、乃ち以て天下を託すべし とあるように、人の望むような地位や、権勢には少しも執着心をもたないようにして、天から附与せられたことは厭うことなく、固く守るべきである。それが、道に適うことであるからである。
威を畏れざれば、の威は、天命のことを指す。
其の居る 所 を狭しとすること無く、の無は、勿れの意。居る所は、現在の立場とか、境遇とかを指す。
故に、自分の居住している所や、自分の地位や、自分の生活上のことには満足して、天与の分を固く守るようにすれば、天意に適うことになり、また、人からも信頼を受けることになって、その身は安泰となるのである。
自ら知りて自ら見はさずは、道について明るくても、自らそのようにあらわさないのである。