第七十一章 知病(強知の病)
知りて、知らずというは 上 なり。
知らずして、知るというは 病 なり。
夫唯(ただひと)り 病 を病む。是を以て病まず。
聖人の病まざることは、其の 病 を病むを以て、是を以て病
まず。
知らないことを、知っているように言ったり、知っているように装ったりすることの多いのは、古から今日に至るまで変らないようであるが、これは、自分を物識だと思われたいたいとか、知らないと恥だとか、知らないと軽視されるとか、何れも強い競争心から起こっていることである。しかし、このことは、人を欺き、自分をも欺くことであって、いつかは偽がわかり、信用を失うことになるのは免れ難いことである。
誰でも悪いことだと知りながら、知らないことを知っているように装うのであるから、これは万人に共通にある、心の病とも言うべきものである。
以上に述べたように、知らずして、知っているように装うことは病だと分り、この病を避けるように注意を怠らぬようにするならば、病にかかるおそれはないのである。
聖人は、病を最もよく知っている人であって、常に慈の心をもって人に接しているのであるから、人が知らないこと、人がひけめを感じるようなことは、決して知っているようには思わせないようにするのである。