第五首
奥山に もみぢ踏み分け 鳴く鹿の
声聞く時ぞ 秋は悲しき
さるまるたゆふ
猿丸大夫
(生没年不詳)『古今集』真名序に名が記されている歌人。各地に伝承が残るが経歴は不明。三十六歌仙の一人。
部位 四季(秋) 出典 古今集
主題
暮れてゆく秋山の寂寥と哀感
歌意
遠く人里離れた奥山で、一面散り積もった紅葉の枯れ葉を踏み分けながら、恋の相手を求めて鳴く雄鹿の声を聞くときこそ、秋の悲しさはひとしお身にしみて感じられるものだ。
定家は、この歌を高く評価していたが、猿丸大夫という人は、まったく伝不詳で、『猿丸大夫集』という一つの古歌集の名前と結びついて、しだいに歌人像が作られていったようです。定家も『古今集』では「よみ人しらず』の歌であることを知った上で、だいたい『百人一首』は、秀歌例の一つとして、人よりも歌を重視し、定家がこの歌を猿丸大夫作と認めていなかったであろうということから、『百人一首』の定家撰を疑う説はとらない。