第九十三首
世の中は つねにもがもな 渚こぐ
あまの小舟の 綱手かなしも
鎌倉右大臣
源実朝 (1192-1219) 鎌倉幕府を築いた源頼朝の二男。三代将軍となるが、甥の公暁に暗殺された。
部位 羈旅 出典新勅撰集
主題
漁師のさまを見て、世の無常を嘆く哀感
歌意
変わりやすい世の中ではあるが、ずっと平和であってほしいことだ。この海辺は平穏で、渚を漕ぎ出す小舟が引き綱を引いている光景が、しみじみと愛しく心にしみることだ。
「常にもがもな」「もが」は願望の助詞。「も」「な」と詠嘆の助詞。
由比が浜あたりでの実際の景色をしっかりと心にとらえて、「常にもがもな」という強い詠嘆と願望をおのずからに吐露した歌であって、深く無常への哀感をたたえている。
世の中は常に変らぬものであってほしいものだなあ。 その綱手を引くさまの、おもしろくも、またうらがなしくも感慨深く心が動かされることよ。
万葉集の歌人として真淵・子規に称揚された。『新勅撰集』以下に九十一首入集。