忘憂之物

男はいかに丸くとも、角を持たねばならぬ
             渋沢栄一

長いモノと長芋はどう違うか

2011年03月04日 | 過去記事
「長いモノと長芋はどう違うか」



90代のお婆ちゃん。学校の先生だったらしく、認知症になっても敬語で文句を言う(笑)。居室を覗くと両手を並べて指を動かしているときがある。オルガンだ。歌ってくれるのは動揺だ。目の前には子供達が見えているのかもしれない。この仕事をやっていて良かったと思えるワンシーンだ。

心洗われた私がニコヤカに近づいて話しかけようとすると、なんと、お尻が丸出しだった。そして、もちろん、アレな感じになっている。さて、仕事だ。私の心を洗ってくれたお返しに、この先生のお尻を洗わねばならない。ついでに「Pトイレ」もだ。

私は「必要なモノ」を持って走る。すると、寮母室(介護員さんの事務所)から、どしたん?と冷めた感じで声をかけられた。「古株A」だ。年の頃は50代前半か。この施設に20年以上いるらしい。私が爽やかに「はい!イベントです!」というと笑いながら「ごくろうさんw」と言ってくれた。「イベント」とは、いわゆる「大変なとき」のことだ。私が流行らせた。それに「古株A&B」は私には優しいのだ。狙われているかもしれない。

そこに先輩の中年男性が通りかかった。さっそくにも「古株A」は呼び止める。

「千代太郎さんは右肩がアレやから!ちょっと手伝ってあげて!」

その中年男性職員も仕事中だったが、長いモノには巻かれろ、が座右の銘という彼は「はいっ!」と軽快な返事をした。私も気を使って「すいません、すいま」と謝った。

しかし、居室に入るなり、そのイベント状態を確認してブチ切れ出した。曰く「なんでもかんでも人にさせやがって!」とのことだ。もちろん、そうは言いながらも仕事はするのだが、私は更に気を使ってもう一度謝った。すいません、すいま。

いや、いいんやけどね、と言ってくれたが、怒声交じりの愚痴はその後も続いた。心配した私が「聞こえますよ?」と言ったら、聞こえたほうがええねん!と怒っていた。ならば、本人の前で言えばいいのに、と思ったが思うだけにした。

この男性は数ヶ月いる。たいして面白くないオッサンだが、話し相手くらいにはなるから仲良くしている。利用者さんに話しかけるとときは「オカマ口調」になる。ガラの悪いオッサンが「はぁい♪お口あけましょうぉねぇ~♪」とかやるから笑える。「ボクね、介護の仕事やってると思われないんですよ♪」と言いながら、ガラと趣味の悪いジャージとかで来る。先日は久しぶりに「龍」の刺繍を見た。私が「ヤクザヘルパー」というと、違う!任侠ヘルパー!と怒っていた。そういうドラマがあるらしい。

このオッサンにも子供はいて、上が5年生で下が2年生の姉妹だ。「かわいいでしょう?」と問うと、うん、と、少しはにかんでから金のネックレスを触っていた。しかし、余計なお世話だが、これから学費も大変だし、給料も安いのにどうするんだろう・・・と不思議に思った。無論、我が家も共働きだが、そもそも状況が違う。我が家は実質的に「子育て」は終了しているからだ。なんとか倅の大学進学の金をどうにかできただけで、借金もローンもないし、私はもう死んでもいいはずだ。余生は夫婦二人と犬2匹、平和に暮らしていければ文句はない。我ら夫婦は既に「じいさん&ばあさん」にクラスチェンジしている。

まあ、せっかくオッサン二人になれたんだから、ということで、私も愚痴ってみた。利用者さんが使う「カップ」についてだ。

「アレって200mlなんです?それとも150ml?」

高齢者にとって水分補給は大切だ。だから、どの施設でもそうだが、各利用者さんが「どれだけ水分を摂ったか」は記録される。もちろん、私が働いている施設も同じで、水分の補給は大事な仕事の一環である、とも教えられた。そして、その「カップ」なのだが、コレが「200ml」の日と「150ml」の日がある。不思議なことだが、コレが同じカップなのだ。

「ヤクザヘルパー」は笑いながら座右の銘を披露した。

「長いモノには巻かれろ、やねw」

つまり「古株A」は「200」だと言い張る。「古株B」は「150」だと言いふらす。だから、他の職員は「Aがいれば200」で「Bなら150」と記録している。「揉めるのが嫌」とのことだ。いや、これは本当の話だ(笑)。なんとも馬鹿らしいが、実にこれだけのことだ。しかしながら、利用者さんにとっては馬鹿らしくなくて、年寄りは大した量が飲めないから「50mlの誤差」は決して小さくない。これも介護学校で習った。足りなければ工夫して飲んでもらわねばならぬ日もある。

ここで素朴な疑問がある。そう。「AとBがいる場合は?」である。しかし、ここで分業制が効果を発揮する。また、互いに暗黙の了解があって「AとBは干渉し合わない」という性質がある。私が観察している範囲でも、頻繁に雑談はするが、絶対に議論はしない。「オバハン特有のアレ」である。喫茶店でどちらも支払いをしたがる、というアレと酷似する。

このような「非効率」が蔓延するから、大した仕事量でもないのに、みんな疲れている。4日間もシフトが続くなら「体がもたない」とか平然と言う。さりげなく問うてみると、やはり、そういう人は他の仕事の経験がほとんどない。だから、何がおかしいのか?すらわからない。そして、そのうち興味も薄れていく。「自分の仕事」だけを終わらせれば問題ないと、誰かに文句言われぬためだけに神経を使う。疲れて当然だ。

私を含む「新人さん」も辟易している。既に数名が辞めた。介護主任はミーティングで「新人さんには優しく教えてあげてください。自分の子供だと思って」と失礼なことを言っていた。無論、そんなことで離職率が下がるわけもなく、何年もこういう状況を許してきたのだろう、その素っ頓狂さは、ある意味で新鮮だった。

勤務は「6交代制」だ。ちらっと書いたが、例えば「事務所のポットにお湯を入れるのは誰の仕事か?」ということを真面目にやる。仕事が終わった私がお湯を入れようとすると、なんと、止められて叱られた。「それは遅番の仕事!」とのことだ。ちょっとテーブルを拭くと叱られる。「それは中番の仕事!」とのことだ。まあ、一事が万事この調子で、なんでも「気付いてやる」と叱られるのだが、それも誰かの匙加減で、それじゃあ、と放っておくと「ボーっとしているならやれ」と言われる日もある。「はぁ~なんで気付かないかな?」と呆れられるのだ。「あんなんだから会社を首になったんじゃ?」と酷い悪口も耳にする。「オトコは使えない。何で採用するのかわからない」とかも聞く。私は首になってないぞ(泣)。

1年間、ずっとこの調子で人格が崩壊したと思しき男性職員は、目の前でお茶をこぼした利用者さんに対応できない。つまり、拭いてよいのか、今拭くべきか、後で拭くべきか、誰かに頼むべきか、放っておくべきか、なに番の仕事か、などが咄嗟にわからない。また、21歳の彼は自覚していないが、明らかに吃音障害になっている。コレが元からなのか、この1年でなったのかはわからないが、客観的に見て相当なストレスだと思う。


私はよく「野球」に喩えて話をするが、要するに「介護学校」で習ったのは「バットとボール」などの用具の説明と「野球入門」程度のルールだ。もちろん、そこにはいろんな人がいるから、足が速いだけ、遠投が得意、打撃力はすごい、とかいる。しかし、みんな自覚が無い。まだ、わからない。そこで試合に出る。最初は練習試合だ。

普通、野球には監督がいる。専門のコーチもいる。「バットを振ったことがある」という程度の選手にも指導する。内角高めがきたらこう、外角は無理に引っ張るな、などとアドバイスがある。それはすべからく、その選手を「戦力」にするがためだ。しかし、だ。「グローブって初めてつけましたよw」と喜んでいる選手に、なんでベースカバー入らないの?と詰めても仕方がない。サインを教えていないのにベンチから「送りバント」のサインを出して、選手が三振すると溜息をつきながら「真面目にやってくださいね?」とやるのは、指示や指導ではなく虐めだ。

「みんなピッチャーがしたい」ということで、古い選手は交代で投げる。適正も何もなく、喧嘩にならぬよう各ポジションをローテーションさせる。しかし、威張る奴はどこでも威張って、外野から代打を出したり、エンドランのサインを出したりする。監督もコーチも「辞められたら困るし」とのことで愛想笑いでお茶を濁す。新人選手はいよいよわからなくなる。ライトが携帯電話していてボールがきたら、レフトにいても「それくらい取れよな」と言われる。サード強襲、痛烈な打球がきてカバーに入ると、サードに舌打ちされる。もちろん、イレギュラーして取れなければ、なんで後ろにいないのか?と責められる。

夕方16:30頃になると、17:00まで勤務のパートが堂々と事務所でお菓子を喰っている。現場責任者も施設の長も何も言わない。言えない。おまけに、その「お菓子類」は職員らが月に千円取られている。「みんなで飲むだろう」というインスタントコーヒーを買うだけなら300円でもお釣りがくる。男性職員はチョコレートやらポテトチップスやらを喰わない。つまり、彼女ら「古株セクト」が勤務時間に喰うお茶菓子代を支払わされている。職員は10人以上いるから、集まった金は毎月1万円を超えている。安モノのインスタントコーヒーを3本買っても5000円もしない。というか、月に3本も飲まないらしい。残りの数千円以上と思われる金を誰が管理しているのかも知らないし、ナイロン袋にお菓子を入れて持ち帰るパートも見た。コレは噂だが「古株セクトの飲み会」に回されているというのも、あながち冗談ではなさそうだ。つまり、好き勝手やっている。

私は「そちら側」に誘われる。「甘いモノがダメなんです」と言えば、今度はなんとも親切に「ブラックやったよね?」とコーヒーを入れてくれることもある。先日は「カクテルとか作れるの?」と問われて驚いた。私は前職を面接と、先ほどのオッサンにしか言っていない。「まあまあ、お茶でも飲みなさいよ」と言ってくれるが、私はそれをやんわり断って他の職員さんと同じように仕事をするから、もうすぐ嫌われるだろう。他の職員さんは何も言わない。見て見ぬふりをする者、何も感じなくなった者、いずれにしても例外なく、例の座右の銘を言う。





長いモノには巻かれろ――――





私は計量カップを手にして、そこに水を入れてから言った。

「これって200mlなんですね。ヤクルトは65、ゼリーは50、全部、さっき計りました」

そこには「古株A&B」が揃っていた。次の日から「カップは200」で統一された。

さて、私を巻くならもっと長いの持ってこい。

2 コメント

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Unknown (takasamurai)
2011-03-09 00:49:54
意図的に高めの釣り球を投げさせるみたいな手法相変わらず見事ですね!

ちなみに私は速攻で巻かれます。
そこの居心地が精神的・倫理的に許容範囲ならそのまま。

しかし、気分が悪かったら巻かれた後に「大したことない」と判断し次第それを目の前で思いっきり引きちぎるのが好きなせいで敵が多くてしんどいです。
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Unknown (久代千代太郎)
2011-03-13 10:11:54
>鷹っちゃん

>ちなみに私は速攻で巻かれます。
そこの居心地が精神的・倫理的に許容範囲ならそのまま。

しかし、気分が悪かったら巻かれた後に「大したことない」と判断し次第それを目の前で思いっきり引きちぎるのが好き



わかるわぁ~~~~wwwww


なんかぞっとしたよwwwwwww




最初から「好戦的な目」だったもんなぁ~~w

「目つき」は化けれるけど「目の色」は変えられないもんだな。そして、それは「わかる者にはわかる」んだな。私の「違和感」は正解だったよw


でも、やっぱ、こっちの鷹っちゃんが好きだなw

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