忘憂之物

男はいかに丸くとも、角を持たねばならぬ
             渋沢栄一

民主党は「原則的」にお断りするのが原則である。

2012年11月09日 | 過去記事



蓮池薫氏の「拉致と決断」が発売日に10万部を突破。その後、3万ずつの増刷が6回。つまり、順調に売れている。発売日から数日、私も注文しようと思っていたら、仕事場の女性職員さんが「ちよたろさん、コレもう読みましたか?」と言いながら持ってきた。

周囲のオバサン職員らが「なになにどうしたの?」と集まる。本を手にとってぱらぱらとめくり、なんか難しそう、面白くなさそう、とかやりだす。本を持ってきた女性職員さんは40代後半で、休日には福祉関連の学校で教壇にも立つような人。職場内の人間では私が「話せる」貴重な存在の元管理職だった。その人は呆れた顔を隠さず、ったく、あんたらね、ということで「自分とか、自分の子供とかが拉致されたと考えてごらんなさい、難しいとか面白くないとか言ってられないと思うけど?」と一刺し。周囲のオバヘル(おばさんヘルパー)は沈黙して、その「せんせい」のレクチャーを受けていた。

時代は変わりつつある、と思っていたが、想像以上に早く動いている。右も左もなく、こういう普通の女性、普通の主婦、普通のお母さんが蓮池氏の著作を購入する。北朝鮮の邪悪に憤り、それから恐怖している。日本の安全保障に疑問を持つ、ということはとくに軍事的な意味合いだけではなく、その外交姿勢など「国家としての在り方」にまで及ぶ。左巻き活動家の戯言に対してだけではなく、日本の政治家による「日本はその昔、とても悪かった。だから文句は言えない」に疑念が湧きあがる。それを根拠としての弱腰外交、その結果としての拉致という構図が見えてくるからだ。それらはいったい本当なのか、となる。

そして「勉強」されてしまう。「知られて」しまう。「知って」しまえば通じない。

ならばもう「バラマキ」とかで選挙はやれない。安全保障や外交も選挙の争点になる。どこの誰でも「高速道路が無料になる」よりも「拉致された日本人を奪還する」ほうが先だとわかる。子供手当なんかいらないから尖閣諸島を護りなさい、ガソリンの値段が倍になってもいいから竹島を取り返しなさい、高校無償化はお断りしますから北方領土をなんとかしなさい、赤字国債刷ってもいいから拉致被害者を奪還しなさい、と有権者が求めるとき、政治家はついてこられるようにしておくべきだ。油断していると追い抜かされる。

北朝鮮による「拉致攻撃」の基本的な説明を終えた「せんせい」は「わたしも難しいことはわからないのに偉そうに言っちゃいました」と小さく笑って舌を出した。それからこっそりと「ちよたろさん、今日は夜勤でしょう。まだ読んでないなら置いておきます」ということで、缶コーヒーもつけてくれた。妻が知ったら激怒する。


蓮池氏がいた「招待所」の指導員(監視員)が変わる。新しい指導員は骨の髄まで毒された主体思想の持ち主だった。本気で将軍様のいない他国は哀れなモノ、それに比べて我が共和国は水道がじゃーじゃー出る、テレビがランラン歌うのである、と感涙するほどのアレだった。蓮池氏は「原則主義者」と書いている。

蓮池氏は日記を書かされる。その日記は検閲されて「思想教育」の成果を確認される。

ある日、その指導員から「おまえは日本にいるとき、泥棒は何回ほどやったのか」と質問される。蓮池氏が泥棒なんかしない、と反論すると「資本主義社会は泥棒だらけ、みんなが泥棒なのだろう?」と馬鹿にして笑う。蓮池氏が「北朝鮮に泥棒はいないのか?」と問い返すと「いるわけがない」と尤もらしく、誇らしげに答える。蓮池氏はそれを日記に書いた。共和主義は素晴らしいと真摯に学んでいるのに、いまの指導員は自分を泥棒だと言った、これでは信頼関係が保てない、とかやると、その指導員が慌ててやってきた。

具合が悪いのだ。洗脳しようとしているのに嫌われてどうする、となる。北朝鮮は完全な管理社会、こんなことが上に知れたら邪魔臭いことになる、せっかく得た指導員という立場、こんなことで将軍様に対する忠誠心を疑われたら困る。だから指導員は「消せ」と言ってくる。しかし、蓮池氏は「インクで書いたから消せない」と突っぱねる。

「じゃあ、破いてくれ」「嫌です」―――押し問答を繰り返す。指導員が折れる。「悪かった。もう日本や日本人を侮蔑するようなことは言わないから」。蓮池氏は「落とし所か」と察してノートを破る。

<原則的な人は意外にも「原則的」な反発に脆かった>(113P)


民主党の「原則的」といえばイオン岡田。これも「原理主義者」とか言われる。菅政権のときの民主党代議士会、イオン岡田は幹事長だった。民主党は無残な地方選惨敗を繰り返していたが、そのとき1回生の山本剛正衆院議員が「幹事長はいつまでそこに座っているんだよ!」叫んだ。顔色を変えたイオンは「誰だ!いま言ったのは!」と素を晒すも、山本議員はすぐに「オレだ!」と立ち上がった。イオン岡田は黙ってしまった。

それから村上史好衆院議員が「野球でもサッカーでも成績が振るわなければ監督、コーチが代わる。執行部は勇気ある決断を」と公然と退陣を求めた。会場には拍手が起った。でもイオン岡田は「誰だ!いま拍手したのは!」と怒鳴らず<結果が伴わなかったのは申し訳ない。執行部の力不足だ>と萎れて枯れた。<原則的な人は意外にも「原則的」な反発に脆かった>だった。

いま、イオン岡田は副総理。今月6日のTBSでは安倍総裁に対して<安倍さんは言うことがよく変わる。国会が始まったときは『解散の日を決めないと審議に応じない』とはっきり言われた>と放った。これを「皮肉った」とか書いたのは朝日新聞。「皮肉」を辞書で引いたほうがいい。べつに「皮」と「肉」のことではないとわかる。

無理を頼んでそれが通ると「通してくれた相手」を「通さないと言ったくせに」と詰る。相手の度量、懐の深さに甘えて無理難題、引っ掻きまわして開き直る。なにがなんでも相手が悪い、なにがどうあれ相手が間違っている、とするのは支那朝鮮マインドだ。

朝鮮半島の上半分は拉致を認めても「日本が約束を守らない」とか言う。要するに「カネをくれないじゃないか、コメもくれないじゃないか」と威張る。下半分は通貨スワップでも「やらないと日本が困るんじゃないか」と真上から案じて見せる。そもそも2008年、リーマンショックによる韓国の外貨流動性問題、いわゆる「韓国通貨危機」があったから、限度額を30億ドルから200億ドルに増額したことは忘却の彼方、なかったことになる。つまり、キムチがどう赤く染まろうとも「困るのは韓国」だと世界中が知っている。

イオン岡田は「近いうち解散」についても<谷垣禎一前総裁は総裁選の再選が苦しい状況。自民党の中から突き上げられ、野田さんは情のある人なので少し手を差し伸べた。そういうなかで出てきた言葉だ>とテレビで言った。これは「鈍感」とか「堅物」ではなく、実に支那朝鮮的マインドだ。悪い意味での「自分本位」でもなく、単に客観性が皆無なのだ。

それからイオン岡田の外相時代。良いか悪いかはともかく、日本の外務省は「拉致問題解決には6カ国協議の再開が不可欠」という方針だった。しかし、岡田は「早期再開は難しい」と支那に言った。なぜか。「韓国民の北朝鮮への反発が強まっているから」だった。

一読、意味がわからない。たしかにこの頃、2010年10月の南北朝鮮はキナ臭かった。11月には「延坪島砲撃事件」が発生、軍人2名、民間人2名の死者も出した。韓国人が北朝鮮に「反発する」のは自明の理である。韓国の外務大臣ならわかる。しかしながら、イオン岡田は日本の外務大臣だった。ならば普通、そこは拉致被害者と家族、多くの日本国民のため「早期再開」を支那に求めるべきだった。韓国が反発するかもしれないが、どうかひとつ、拉致被害者のために一肌脱いではくれまいか、と頼むのが外務大臣の仕事だった。

いま、民主党の鬼門「田中」がまた巷を騒がせている。来春開校予定の3大学をめぐる認可・不認可騒動だ。石原慎太郎氏を「暴走老人」と罵り笑い、自分が「暴走大臣」と呼ばれたら「個人攻撃」呼ばわりする無神経さはアレだが、このオバハンは「直前になって引っ繰り返し混乱させた」とかで責められている。野田の人事センスというか、どうしようもない任命責任は言うに及ばず、さっさと切ってしまえばよろしいのであるが、この<直前になって引っ繰り返し混乱させた>は民主党政権の得意技、そして鳩山由紀夫が初代である。それも規模が違う。比べると、田中のオバハンのコレは可愛いモノだ。

元々からして阿呆なんだから、ごめんなさい、で辞めて消えればいい。それからもう2度と、人様の前に出なければいい。それより、このオバハンは平成15年、新潟県の佐渡島での演説の際、北朝鮮の拉致問題に触れて<子供さんたちの国籍は何ですか。北朝鮮じゃないんですか。(帰国は)難しいとはっきり言わないとダメですよ>と怒鳴った。つまり、蓮池氏が残してきた子供は北朝鮮国籍、日本が「返せ」とやるのはどうか、と人前、日本国民の前でやったわけだ。しかし翌年、2度目の小泉訪朝で蓮池夫妻の子供は返ってきた。当たり前だ。子供は日本人なんだから。

両親のどちらかが日本国籍なら、その子供は日本国籍になる。だから私の前妻との子供らは「日本国籍」である。元妻が日本人だったからだ。いまの倅も娘も日本人。妻が日本人だからだ。これは国籍法からして常識の範疇だ。これを元外相が知らない。だから大きな声と下品なドヤ顔で<子供さんたちの国籍は何ですか。北朝鮮じゃないんですか>とやれる。こんなオバハンが意味もわからず、許可と認可の差異もわからず、好き勝手なことを言って混乱させるくらい想定の範囲内だった。つまり、何も考えていないのである。

しかし、軍事同盟を揺るがす「ちゃぶ台返し」はエライ目に遭う。担当大臣が辞めても済まない。鳩山の「最低でも県外」は沖縄左翼の息を吹き返させ、大いに支那共産党に資する反米デモ、反オスプレイデモを繰り広げている。「民主党の田中」をぜんぶ足しても間に合わないほどの大問題だ。

それからまた、イオン岡田が出てくる。在日米軍と自衛隊の合同で実施が予定されていた「離島奪還・上陸訓練」を中止したのがソレだ。「中国様が大変なとき、なんてことするんだ」というのが理由だが、これは「中国を刺激する」とか「日中関係に配慮」に換言される。また、コレを援護射撃するように10月には「在日米兵の日本人女性暴行事件」が発生、今月は泥酔した米兵の不法侵入、中学生への「殴打事件」があった。田中さんちのアレな娘さんの「ちゃぶ台返し」に「なぜ、いまなのか?」と疑問に思うなら、こちらの方がタイミングばっちり、だからいまなのか、と得心することもできる。

蓮池氏のいう「原則的な人」というのは「融通の利かない」とも解せる。つまり、柔軟な判断が出来ない。具体的な提案が出来ない。客観性がないから説得力もない。つまり、民主党のことだとわかる。それから「原則的な人は原則的な反発に弱い」から、罷免を恐れた田中さんちのアレな娘は渋々ながらも頭を下げた。イオン岡田は幹事長のとき、1年生議員の「原則的な反発」に虚勢を張れなかった。韓国も北朝鮮の「無慈悲な反発」は怖くないけど「原則的な反発」は怖い。北朝鮮はアメリカの「原則的」に恐れをなし、先走って小泉政権の話に喰らいついた。支那は安倍政権時代、安倍内閣の「原則的外交」に茫然となった。だから「安倍だけは何とかしろ」と北京から朝日新聞に指示も出した。




真夜中の老人施設。「拉致と決断」を読み終えた私は、貸してくれた「せんせい」のレターケースにお礼の手紙を添えて返した。それからそっと小川榮太郎氏の『約束の日 安倍晋三試論』も入れておいた。違うフロアの女の子がくれた「エクレア」も添えてメモをつけた。「ありがとうございました。よろしければどうぞ一読ください。差し上げます」

これは「原則的」には妻に叱られる行為だが、日本の将来のために「原則的」によろしいことだと思うから、そこは「原則的」にお許し願いたいところである。



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