忘憂之物

男はいかに丸くとも、角を持たねばならぬ
             渋沢栄一

もとの濁りの・・・

2011年06月19日 | 過去記事

菅内閣の拉致問題への対策が無策だとして、拉致被害者の家族や「救う会」などの支援団体が抗議文書を出した、と報じられたのは今月の10日である。抗議文書の中身はとくに平成21年に新設された「情報室」に対する機能強化を求める内容となっている。ざっくり書くと「どの政権でもいいから、ともかく、ちゃんとしてくれ」という悲鳴だ。文書では「大人社会のルールで判断すれば、成果を出さない組織は仕事のできないアマチュアの組織だ」と痛烈に批判しているが、たしかに要求の各項目を見れば、拉致被害者家族でなくとも泣けてくるほどの情けなさだ。とりあえず、報じられたものは3つある。


①:職員が自費で情報収集を行うことがないよう必要な予算を与える
②:情報室の縦割り行政からの脱却
③:具体的な目標を期限を切って国民に提示し、成果が上がらなかった場合は情報室長を更迭する


未だにこんなレベルの抗議を受けているのが、日本という国の現状である。また、この「怒りの熱」が冷めぬ2日後に、この総理大臣は「拉致されて大変いい経験をした」と拉致被害者家族の神経を逆なでするような軽口を叩く。どこまでも緊張感のない無能総理である。


http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110612/plc11061219480010-n1.htm
<「拉致」は適切でなかった 首相>

<菅直人首相は、12日に官邸で開いた自然エネルギーに関する「総理・有識者オープン懇談会」で、かつて沖縄県の石垣島で飛行場建設反対運動を視察した際の話に触れ、「運動している人に3日ほど拉致されて、大変いい経験をした」と発言した。しかし、直後に「拉致という言葉を使ったが、適切でなかった」と訂正した>



「アマチュア組織」なのは菅直人を本部長とする拉致問題対策本部だけではなく、民主党政権そのものが素人集団だと自明である。仕分けもされていないのに、職員が自腹で情報収集を行わねばならない「国の対策本部」とはなんなのか。コレに予算をつけるのに、どこの野党が反対するというのか。このような政権など屁の役にも立たぬとしれている。

比して、2006年10月の参院予算委員会で、荒木和博氏が代表を務める「特定失踪者問題調査会」が行っていた北朝鮮向けの短波ラジオ放送「しおかぜ」の支援を国がすべき、という方針を打ち出したのは安倍政権だった。中心となって動いたのは菅(かん)ではなく菅(すが)であった。菅義偉元総務大臣だ。

つまり「しおかぜ」は民間団体が運営していた。韓国への脱北者の多くが韓国のラジオ放送を盗み聞きしていた事実を重要視し、北朝鮮にいる日本人拉致被害者が希望を捨てず、いつか祖国の地を踏めるという心の支えが必要であるとして、毎月、百数十万円の費用を何とか捻出しながら、北朝鮮によるジャミング(妨害電波)に周波数を変更しながら、どうにか運営していた。その「しおかぜ」をようやく安倍政権が「国家が支援すべき」という画期的、且つ、常識的な「政府の判断」を下したのだった。

国際短波放送でやる、となれば、当然NHKの出番だ。当時の菅総務相は即、NHKに「拉致問題を重点的に取り上げるよう」という命令を出した。これは放送法にも定められている正当な「命令」である。もちろん、費用は国が支払う。「みなさまのNHK」は「みなさま」から頂いた受信料で「みなさま」のために拉致問題を世界に発信するだけのお仕事を依頼されたに過ぎない。しかも、かかった費用は国がくれる。しかし、だ。

なんと、NHKや日本新聞協会は「菅総務大臣によるNHKへの放送実施命令は、放送法に基づいたものとはいえ、報道の自由の観点から看過できるものではない」との談話を出した。NHKはどこの「みなさま」から受信料を盗り、どこの「みなさま」相手に尻尾を振りたいのかよくわかる話であった。そしてもちろん、これを全面的にバックアップしたのが、当時、狂気の安倍政権叩きに明け暮れていた朝日新聞であった。

早速にも「総務省 NHKに放送命令」と題し、「『特定報道』異例の命令」と受けて、散々「報道の自由への侵害」やら「政治の報道への介入」とおどろおどろしく書き連ね、いつものように御用聞きの大学教授に「政府による放送内容への介入は放送法の理念に反する」という出鱈目を語らせたりした。もちろん、福島瑞穂も「NHKの自主性、自律性を損なうことがあってはならない」と馬鹿をやって、鳩山由紀夫も「行き過ぎると中身に政府が介入することになり大変恐ろしい話だ」と朝日新聞の背中を押した。

もちろん、現総理も黙っていない。当時は党の代表だったが、菅直人はちゃんと「戦前の大本営発表は全部重要だった。重要だから命令するという論理は報道の自由を全く認識していない暴挙だ。メディアの皆さんも怒り方が足らない」と頭の悪い腐ったコメントを吐いている。そしていま、拉致被害者家族から抗議を受けてすぐ「わたしも拉致されちゃいましてw」と冗談を吐けるのである。こんな人物に何を期待するのか。今更だが、こんな人物らがこの国の舵取りを行い、今もまだ、行っているということに寒気を覚える。

また、メディアもそうなら教育も同じく、先月には政府の拉致対策本部が全国の教委に対し「拉致問題教育を取り上げよ」と指示を出したらしい。菅直人もようやく、カンガンスから足を洗ったのかと心配になったが、この主旨はやはり「人権教育の一環」とのことだ。なんとも情けない。「拉致問題」とは拉致攻撃のことであり、これは「人権侵害」である以前に主権侵害であるという認識から改めるべきだ。

しかも、全国の教委には麻生政権の時、既にアニメ「めぐみ」のDVDを配布し、同様に「拉致問題を教育の場で取り上げること」として閣議決定している。しかしながら、学校によっては指示を無視するところが多く、その実用性に疑念があったわけだ。どんな連中が日本の学校で教鞭を振るっているのかわかるというものだが、国旗や国歌だけでも従わないのに、とても「心の祖国」の犯罪などマトモに取り上げるとは思えないのである。

そこで今回、腐れ日教組の変態教師が喰いつきやすいよう「人権教育・啓発に関する基本計画」に拉致問題の項目を追加するという手段に出たわけだが、これも現場の教育でどのように伝えられているのかと思うと安心はできない。井筒のように「まずは戦後補償からやろが!」という阿呆も少なくないからだ。

それにしても、だ。

10代で拉致された被害者の日本人は、いま、もう40代半ばを過ぎている。それでいま、この国の政府、対策本部やらは、その被害者家族から未だに「予算を与えろ」とか「具体的な目標を切れ」というレベルの抗議を受けている。奪還する、どころか「情報すら集まらない」と嘆いている。領民を取り返せない国が、どうして領土を取り返し、なぜに領海領空侵犯に憤ることができようか。つまり「菅政権が東北の被災民を見捨てた」とは驚くべきことではない。「適切な対応をせず多くの住民を被曝させた」と騒ぐのはお門違いもいいところだ。

これらは「拉致被害者を奪還する!」と公言する候補者を落選させ、年金問題やら子供手当やらで「国民の生活が第一!」とカネをばらまくという詐話師を当選させた当然の帰結である。菅直人は「拉致されちゃいましてw」とも言うが、東北の震災の一報を受けて「これであと2年出来る」とも言える人間なのである。何を今さら、なのだ。

そういえば、あの悪名高い中井洽という政治家もいた。この男は「拉致問題担当相」だった。冗談みたいな話だが、以前、霞が関の官庁街を訪れた子供らから「拉致問題で自分らに何が出来るか?」という質問を受け「めぐみさんは仕事帰りに拉致された」と堂々たる事実誤認を述べて周囲を唖然とさせた。拉致の担当大臣が拉致の残酷さを象徴する「めぐみさん拉致事件」を覚えてすらいない。さすがは秋篠宮殿下に「早く座れ」という男である。朝鮮ホステスに議員宿舎の鍵を渡す男なのである。

上から下までこのレベルなのである。「その気」などないのである。菅直人も国会の場で信じられぬ自覚を欠いた発言をする。ちょっとしたら官僚のペーパーなしでは答弁すらできない政治主導を発揮している。震災関連法案がいくつ通ったかも知らない、北方領土が日本の領土であるという根拠も「紙」を読まなければならない、竹島については「韓国が不法占拠している」とさえ言うことをしない、震災で犠牲になった人数、避難民の数すら知らない、わからない、聞いていないのオンパレードだ。ついでに在日韓国人からの献金もやっぱり「外国籍だとは知らなかった」でスル―しようともしている。


鳩山由紀夫もそうだったが、この一連の「お粗末総理」の出現による日本政治の低迷、混乱は、本人らの無能を差し引いても酷い有様だと言わざるを得ない。つまり、トップとは「いつかは入れ替わる」わけであるから、何かの弾みでこういう馬鹿が続けてトップに座ることもあり得るし、過去、そういうことは日本にも当然ながらあったわけだ。しかし、トップには「NO2」という存在が付き従い、あるいは、その組織における有能者がそれをフォローすることで難を逃れてきた。民主党はそれを「トロイカ+1」とかでやろうとしていたわけだが、実際に蓋を開けてみれば醜悪な「共食い」が繰り広げられているだけだった。寄せ集めの団体は所詮、いつまで経っても寄せ集め、烏合の衆に過ぎなかったとしれた。そしてやはり、この点が最悪だった。

少し前、NHKで徳川第11代の征夷大将軍、徳川家斉をやっていた。NHKらしく「オットセイ将軍」と面白おかしくやっていた。たしかに45人の愛人に51人の子を産ませた、という逸話は「家斉はオットセイのペニスの粉末を飲んでいた」という壮健な将軍を想像させるが、家斉は1~2年でひいひい苦しむ最近の日本の総理と違って50年も将軍職を務めている。言うまでもなく、徳川将軍の中では最長記録保持者だ。また、NHKでは紹介されていなかったが、家斉には松平定信という老中筆頭がいた。これは家斉が直々任命した。NHKは「50年も将軍をやった元気な家斉」としかやらないが、もう少しだけ「ちゃんとした視聴者」のレベルに合わせて、詳しくやったほうがいい。元気なだけで文化文政の豪華絢爛な時代は築けない。

家斉の父親、治済は「尊号一件」で定信を敵視したが、息子の家斉は優秀で英名とされる定信を頼った。世間は宿敵の実子、徳川家斉に仕える松平定信に注目、いまなら週刊誌やらワイドショーが煽り記事を書くところだ。しかし、定信は世間の期待を裏切り「徳川本家の臣下」としての役目に没頭する。定信は何事においても家斉に伺い、細々したことでも決断させる、という容赦ない接し方をした。それは「国政の頂点」にいる家斉を教育するためでもあった。帝王学だ。

定信は「どうすればいいのか、教えてくれ」と根をあげる将軍・家斉に平然と「一晩くらい寝ずに考えて決めてください」と言い放っている。定信は「自分が将軍になっていたかもしれないのに」というスケベ心を出さず、世間が思うように家斉の足を引っ張ることはせず、天下太平の世のために尽力したのだろう。

民主党にも松平定信がいないかと探してみたが、どうやら定信のやった「寛政の改革」の劣化コピーらしき倹約政治の声はあれど、高らかに唄った詐欺・バラマキのマニフェストは引っ込めて、負担は全て国民に背負わせるつもりのようである。江戸城内や各藩主から予算を削り過ぎて嫌われた定信とはエライ違いだが、平成の世の日本人もそろそろ目覚めないとマジでヤバい。

そういえば、だ。庶民にまで倹約を強要した(贅沢禁止令)定信は、巷でこんな俳句を詠まれていた。



白河の 清きに魚も 住みかねて もとの濁りの 田沼恋しき(詠み人しらず)


「田沼」とは定信が失脚させた「田沼意次」のことだ。田沼は江戸幕府の懐を潤すために様々な経済政策を打ち出していたが、これらも定信にぜんぶ潰された。ロシアとの貿易も考えていたが、これも定信は鎖国強化で中止してしまう。北方探検隊に参加した武士は全員が逮捕されて一部が切腹、残りの者は島流しにされた。しかし、いま、日本の世論は「もとの濁りの自民恋しき」とはいかないようだ。どっちもどっちだ。


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