丘の上のマリア Ⅱ 裁判

裁判
　当局は、初動捜査の二人の刑事を左遷するだけでは安心出来ず。公安までも
が動いた。
　紗智子の殺害当日、マリアを買春していた渡辺の商事会社に押しかけて社長
と渡辺を脅した。
「渡辺さん、私たちはあなたが街娼を使って不当に商談を成立させた事で逮捕
も出来、御社を告訴弾劾する事も出来ます。・・・あの夜のことは忘れて下さ
い。署での事情聴取の事実は抹殺されました。良いですか、あなたは永久にあ
の夜の事は忘れて下さい。そうすれば、貴男と御社は無事に生き延びられま
す」
　もちろん渡辺は条件を飲む以外に方法が無かった。
　更に、公安は駄目を押した。マリアそのものの存在を葬り去った。事件の四
日前、不法滞在とスパイ容疑で某国に強制送還されたとデマで事件当日にマリ
アが日本にいなかったと事にしてしまった。
　彼等がこれ程にして守らねば成らなかったのは何だろうか？　加藤家の名誉
である。紗智子の母、加藤友恵には紗智子の裏の顔が我慢出来なかったのだ。
彼女は政財界に絶大な影響力を持ち、警視庁に圧力を掛ける能力を持ってい
た。
　
　そして、20002年（平成14年）4月14日、東京地方裁判所で、現場から第三者
の体毛が見つかったことなどを「解明できない疑問点」として挙げ「第三者が
犯行時に現場にいた可能性も否定できず、立証不十分」として、無罪判決が言
い渡された。しかし、4月18日に検察側が控訴し、なんと裁判官全員の首をす
げ替え、万全の体制で最高裁に臨んだ。

同年12月22日、東京高等裁判所では、「犯行直前に被告人が事件現場にいた
こと（鑑定により現場に残された使用済みコンドームに付着した精液と現場に
残された体毛が被告人のものと一致）と、事件直後に金を工面できたこと」な
どいくつかの状況証拠を理由に有罪とし、無期懲役判決を言い渡した。その判
決公判で、逆転有罪判決を言い渡されたネスタは、「神様、ぼくはやってな
い」と叫んだという。

　2004年（平成16年）10月20日に、最高裁判所第三小法廷で上告が棄却され、
無期懲役の有罪判決が確定した。

　2016年12月18日　　　　Gorou