(3) ロシア産原油の産地偽装問題
3.ではロシア産原油を輸送するタンカーは、第三者に船舶の位置情報が分かるトランスポンダー(船舶自動識別装置)をオフにし、ロシア産原油輸送を隠す石油タンカーも増加していることに触れた。実際、制裁措置が海運及び関連産業に向けられることによって、貿易制裁に違反して取引される貨物は増加傾向にあると言われている(繰り返しになるが、現時点でロシア産石油禁輸は一次制裁であり、対象は制裁を発動している米英加豪の各自然人のみである)。
イランやベネズエラ制裁の発動後もこれら国々産の原油が制裁を回避して、輸出されていることが明らかになっている。制裁回避に利用される手法には船舶、貨物、地理的位置や航行活動を特定する情報を混乱させたり、隠蔽したりすることで、監視や摘発から逃れようとするものである。それらは次の4つの方法と言われている。
- 船舶の位置を偽装し、船舶のデジタル識別情報を変更するために、船舶の自動船舶識別装置(AIS)を操作する。
- 実際の船舶の外観を変更する。
- 船舶や貨物に関する書類を改ざんする。
- 貨物が制裁対象国原産であることを隠蔽するために、船から船への積み替え(STS)を何度も行う。
また、船舶の安全と危機管理のためにAISを停止することは依然として合法であり、その船長に判断が委ねられている。
ロシア産原油についても、その産地を偽装するべく、次のような方法が行われているとの指摘が為されている。例えば、取引の基本条件を「売り手が販売する商品がロシア産ではなく、ロシアで積み込まれたりロシア連邦から輸送されたりしたものではないこと」とした上で、ロシア産の定義を「ロシア連邦で生産された場合、あるいは体積の50%以上がロシアで生産された材料で構成されている場合」と変更していると言う。つまり、荷となる原油の49.99%がロシア産であったとしても50.01%が他の国や地域から産出されたものであれば、ロシア産ではないという扱いになる。これは、石油トレーダーの間では「ラトビア・ブレンド」と呼ばれているもので、具体的にはバルト海プリモルスク港からラトビアのベンツピルス港へ原油を輸送し、そこでブレンドを行っていると噂されている。
ブレンド作業はラトビアやオランダ、公海上で瀬取り・洋上積替えを行い、安く仕入れたロシア産原油と他原油をブレンドすることで産地を偽装するというものである。
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