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ドイツ人経営学者が日本企業再興を確信、日本悲観論に「NO」2023.05.10Forbes JAPAN 編集部

2023-05-14 15:10:33 | 連絡
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文=高以良潤子 編集=石井節子
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『再興 THE KAISHA 日本のビジネス・リインベンション』(ウリケ・シェーデ著、日本経済新聞出版刊) 
 
4月中旬に来日した米大手投資会社バークシャー・ハサウェイの会長兼最高経営責任者(CEO)で、世界的な投資家のウォーレン・バフェット氏がさらに日本株を買う可能性を示唆した。
日本のメディアの論調はここ数年日本の将来を憂えるものが多かっただけに、意外に感じた人も多かったのではないだろうか。  
世界における日本の存在感は縮小し続けており、アジアといえば中国を思い浮かべる欧米人が多いだろう。
しかし、過去30年以上にわたって日本と関わりつづけ、日本企業の動向や変化を追い続けてきた外国人の一人、ドイツ人のウリケ・シェーデ氏は、日本の将来を必ずしも悲観的なものとして捉えていない。同氏の著書『再興 THE KAISHA』(原書のタイトルは『The Business Reinvention of Japan』)は、日本でうまくいっていることにフォーカスし、日本の持つ強みを活かした新しい日本企業のあり方について提言する本だ。
〇「ゆっくりな変化」とそのメリット
著者は、日本社会や日本企業を取り巻く文化的な事象に着目し、なぜ日本における変化がなかなか進まず、ゆっくりなのかについて説明している。
日本における変化、例えば、男女の格差に着目してみよう。
筆者が学生だった1990年代と比べて20年以上経った現在も、少しは改善したものの大きくは変わっていないことは、ジェンダー・ギャップ指数が世界で底の方に低迷していることからも明らかだ。
 変化に伴う混乱やネガティブな影響を最小限にするために、変化のスピードが非常にゆっくりで、「外から見ていると、日本の変革ペースの遅さにはイライラさせられ、停滞していると誤解したり、無能だとすら思ってしまう」のだ。
このように日本における変化は、時にスローすぎて何も変わっていないように思えることがある。
だが、著者によると「ゆっくりだからといって停滞しているわけではない」という。
 「変化がゆっくり」であることは、それだけなら、シリコンバレーなどで急速に進むイノベーションなどと比べると、マイナスの印象かもしれない。
しかし、本書では、「ゆっくりな変化」の長所が著者の観察眼によって明らかにされている。
「『遅い』のは安定と引き換えに日本が支払っている代償である。
秩序を保ちながら新システムに移行することで、社会にもたらす打撃が緩和され、少数の人だけが多くの人を犠牲にして勝つことは認められなくなる」のだ。
 変化は、どんなものであれ混乱や秩序の破壊などの痛みを伴うものであるが、日本は、秩序をできるだけ保った上で変化を進めるために、ペースがスローになることを社会として(結果的に)選好してきている、という主張である。 
〇タイトな文化の「恩恵」
混乱を避けること、秩序を重んじそれに則って行動すること──それらは私たちにとっては当たり前すぎて注意を払ってこなかったことかもしれない。
しかし著者は、世界的にも大きく報じられた、2011年の東日本大震災の際の人々の行動を引き合いに出し、その際の「日本国民の対応や社会的行動は、危機に直面したときのタイトな文化の恩恵を示す好例である」としている。
具体的には、震災が起こったときに東京にいた著者によると、「何もかもが揺れても、叫び声を上げる人はいなかった。
地下鉄が止まったので、みんな静かに家まで歩き始めた。
(中略)ひどい交通渋滞が起こり、バスもなかなかやってこない。
それでも、乗客はバス停前に整然と並び、列に割り込んでくる人は誰もいない。
略奪や盗難もなく(地下鉄の駅を含めて)、この苦難に際して泣き叫ぶことも、大騒ぎすることもなかった。
この国を揺るがす大きな脅威の瞬間に、市民は習慣となっている行動をとり、静かに振る舞い他人に迷惑をかけないという規範を遵守したのである」。
大きな災害が起こった時に人々が混乱すればさらなる二次災害を生みかねないが、文字通りどんな状況にあっても秩序を重んじる文化が行き渡っていることが、災害時の混乱を大きくしないことに寄与したという。
そして、日本の文化そのものが、「有事の時の負のインパクトを軽減することに重きを置いた運営になっている」と結論づけている。
〇「タイト・ルーズ理論」とは
この日本の文化を著者は、「タイトな文化」という名前で呼んでいる。
著者は、日本に「町中のそこここに、スポーツクラブ、オフィスビル、学校、レストラン、トイレ、駅、バス停などでも注意書きがいくつもいくつも存在する」ことを取り上げ、「公序良俗や他人に迷惑をかけないことをここまで気にかける理由はどこにあるのだろうか」と問いつつも、それこそがタイトな文化の表れであるとしている。 
 つまり、災害時や有事のみならず、毎日の生活において、一つ一つの行動に決まった規範が存在することを意味する。
駅で電車を待つ時の並び方、制服のスカートの丈、ゴミの出し方、靴を脱ぐ場所と揃え方、お辞儀の角度……。「タイトな文化は日本に見られるように、何が『正しい』行動とされるかについて強い規範があり、逸脱者を排斥する強いメカニズムが働くのが特徴だ。
対照的に、米国のようなルーズな文化では、許容されることの定義ははるかに広く、コンプライアンス違反についてもそれほど咎められない」 
この下敷きになっているのが「タイト・ルーズ理論」で、「社会的な行動規範の強さと、規範を逸脱する行為に対する寛容さをもとに、国ごとの違いを浮き彫りにする」ものだという。 
 ビジネスにおいても、このタイトな文化は大きく影響する。
「タイトな文化とルーズな文化という概念(正しい行動についての共通の合意)は、なぜ日本人経営者がそうした行動を取るのかを理解するのに役立つ。変革マネジメントのスピード、内容、進捗状況も明らかに異なる」
また、毎日のビジネスシーンにもタイトな文化は深く浸透している。
「日本のビジネス規範の内容は、3つの中核的な行動命題によって表現できる。
(1)礼儀正しく思いやりを持つこと。
(2)適切に行動すること。
(3)迷惑をかけない、つまり、混乱を招く意思決定をしないこと、だ
社会全体、あるいは、特定の企業内で礼儀正しく、適切で、正常と見做されるものから逸脱すると、混乱や不確実性を引き起こし、米国とは全く異なる形で制裁を受け、個人のキャリアを狂わすこともある。
会議に遅れたり、髪を染めたり、派手な入れ墨があったり事前に根回し抜きに唐突に決定事項が発表されたりするのは、カリフォルニアのオフィスでは日常茶飯事かもしれないが、日本では許されない行為である」このように、商習慣ももちろん、タイトな文化にがっちり結びついているのだ。
〇危機をベースに規範コード化。だからバブル崩壊からも回復した
では、なぜ日本には「タイトな文化」が顕著に見られるのだろうか。著者は、「タイトな文化の根本メカニズム」を、以下のように説明している。
「規範には実用的な理由がある。
重要な目的に役立つから存在し持続するのだ。(中略)どのくらい社会秩序が必要とされるかは、外部の脅威にさらされる程度や、資源の制約によって、国や地域ごとに異なる。
自然災害(例、地震、旱魃、飢饉)や地理的な脅威(戦争、病気)に繰り返しさらされる場所では、自助努力も交えながら、混乱を避け、有事に生存率を高める安全予防策や社会連帯のメカニズムをつくる可能性が高い。
こうしたメカニズムは時間とともに、日常生活の中で許容可能な行動へとコード化されていく。年間で約1500回の地震が発生する日本では、このような深く根付いた連帯行動がいかに有益であるかを示す事例が多い」
また著者は、バブル崩壊で受けた痛手を考慮する上で、日本がいかに粘り強い回復を示してきたかを説明。
「過去20年間で日本についての最も注目すべき点は、長く続く根深い危機と企業再構築の必要性に直面しながら、日本の社会基盤がレジリエンス(再起力、回復力)を示してきたことだ。1991年のバブル崩壊は、見方によっては米国の大恐慌の3倍の深刻さだったとされる。
ところが驚くべきことに、日本では社会的、政治的な不安、攻撃的なポピュリズムの対等、貧困や犯罪の大発生などは見られず、不平等の拡大もかなり限定的だった。これは、社会危機に直面したときに日本は、経済成長よりも安定を、株価指標よりもゆっくりとした調整を、一部の人の利益よりも多くの人々の繁栄を優先させたからだ
要するに、タイトな文化を下敷きに、最悪の混乱を免れ、ゆっくりだけれども着実に回復することにある意味「成功」してきた、と筆者は指摘している。
〇AGCの場合──「ゆっくりだけれど、変えられる
日本はこのままではダメだ、変化やイノベーションが起きない、未来は明るくない、といった論調=本駄目論を日本のメディアではよく耳にする。
しかし、「変化のゆっくりさ」が自分たちの行動様式に紐づいていること、また、それがプラスの面も持っているということ、さらに、ゆっくりな行動や変化をとることによって自分たちは何を担保しているのか、などについてはあまり語られてこなかった。 
何が正しいかということを常にコミュニティ内で定義した上で正しい行動を団体としてとる行動様式=「タイトな文化」に基づいて、24時間365日、自分たちが行動や意思決定を行なっているということに、私たちは無自覚なことが多い。
また、ほぼ無自覚で、そうした行動様式は疑いや改善の目を向ける対象ではないため、それがもたらしてきた恩恵にも気付きにくい。
本書は、外国人の目線から、私たちの行動の大元に横たわるタイトな文化を解説し、また、文化は(なかなか)変えられるものではないが、その文化は維持しながらも変化を(ゆっくりだが)起こしていける、と説いている。
 AGC、かつて旭硝子と呼ばれていた企業などが、その具体的な企業の事例として紹介されている。
2015年に新たにAGCの社長に就任した島村琢哉氏は、数ある課題の中でも、社内の行動様式が何よりも問題だと認識。
「人々は間違いを恐れ、直接尋ねられてもろくに意見を言わなかった。ほとんどの部長たちはイニシアティブを取ることに及び腰で、中には定年退職して年金をもらうまでの時間稼ぎを願っているように見える者もいた」
そこで、同社長と経営幹部は、企業風土や社内慣行を活性化させるため、複数の方策を用いて変化を起こしていった。
全社員にメールを送り、ミドルマネジャーとの対話セッションを行い、エンジニアを繋ぎ止めるための社内ハッカソンを実施、部長の意識変革のための合宿研修を行うなど、行動様式を変えるための一連のイニシアティブを展開。
さらに、「若手社員とのタウンホール・ミーティングの時間も確保した。
これを4年間定期的に実施していくと、若い社員の頭脳流出は減速していった」。
また、組織の変革に反対する人には牽引する立場から外れてもらうなど厳しい選択を行い、組織全体に古い慣行を容認しない体制へと転換していったという。
その成果として、2013年度に6%、2014年に4.2%に低下していた営業利益率が、「2019年度には営業利益は16%に増加し、同社は独自の集合ニッチ戦略を構築するために、さまざまな新しい特殊ガラスおよび化学品を開発するようになっていた」のだ。  
〇「トップ主導」+「ゆっくりと」で行動変革は叶う
著者によると、AGCの例にあるように、タイトな文化を持つ日本企業でも、「社内の行動様式は変えることができる。タイトな文化の中でカルチャーの変革を導くためには、社内参加型や全社横断など体型的な手段やイベントが必要となる。また、行動様式を変えるにはトップ発のリーダーシップが必要であり、日本では珍しいとはいえ、それは確かに存在する」という。
さらに、タイトな文化にはアドバンテージもあるという。
「タイトな文化には、変革マネジメントにおいて明らかなメリットもある。
最も重要なのが、ひとたび意思決定が下され、みんなの同意を取り付ければ、変革が速やかに行われることだ」 
つまり、タイトな文化でイノベーションや変化を進めるにはトップ主導で、かつゆっくりとしたスピードで行う必要がある。
そして、ゆっくり進めてきた変化が一旦浸透すると、組織内での変革は速やかに進むのだという。
これが、外国人の視点による、日本における変化を成功させる方程式である。
本書を読了後、筆者は、「ゆっくりだけれども変化は可能」と考えると、日本の将来にそこまで悲観的でなくいられる気分になった。
一方で、ゆっくりだと、変化を待っているとあっという間に10年、20年が過ぎ去り、私自身は定年を迎えてしまうので、不遇な立場にいる人や、旧式のシステムにあおりを食っている人たちに、長い間理不尽さや我慢を強いることになるとともに、割りを食う世代が出てきてしまう、とも感じた。





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