人間の悪と善の葛藤を書くのが文学の大事な役目の一つでしょう。
でも、私の物語は価値観の追求も入っている。社会をより良くするためには、色々な方からのアプローチが必要であろうが、良い価値観の創造も大切と思う。
毎日のように、悪がニュースを騒がす。
この世界から、仮に一年くらいでも、今問題になっているパワハラや、セクハラや、悪口、嫌がらせが魔法のようになくなったとしたら、今問題になっている、いじめ、自殺、などのかなりの部分が改善されると思いませんか、パワハラも セクハラも 悪口も一緒に無くなったら、どれほど、住みやすい社会になるだろうと思う人が相当、日本にはいるはずです。
この間、新聞にSNSに「死にたい」と書き込む若者がものすごく多いという記事を目にしました。
何かおかしいと思いませんか。こんなに物が豊かで、教育レベルも高くなり、知識でも、ネット
の検索でかなりのことが分かる。
ジェト機は飛び、かっこいい車は走る。
こんなに便利な社会で、物が豊富な社会で、SNSを使って「死にたい」と言う若者が沢山いるとは全く悲しいことです。この間、そう言う社会の存在を証明するかのように、三十才に近い男がそういう悲しい思いをしている人を自宅におびき寄せ、九人近い人を殺したという事件がありました。そして、またその前後に似たような事件の続くこと。
確かに経済問題もあるのかもしれません。
しかし、この間の広告会社のエリ-ト女性社員が自殺したのは 給料はかなり良いのですから、そういうことではない。
それでは、どこに問題があるのか。
人間と人間の関係がおかしくなっているという考察も必要なのではないか。それが一番分かりやすい状態になるのは「ことば」です。道元は修行の中に、座禅と並んで、掃除すること、法華経を読むことを大事にしましたけれど、愛語も大切にしました。
教養のある人は人を傷つけるような形で、悪口や嫌がらせをしないものです。言葉がどれほど大切なものであるかを知っているからです。例えばヨハネ伝の最初には「言葉は神なりき」と書いてあります。道元は愛語を重視しました。良寛も同じです。和歌や優れた詩を知っている人も言葉の美しさや深さを知っています。
言葉を粗末にするような風潮が最近の日本の一部にある。
言葉を粗末にしてはいけません。
言葉を粗末にする発信源がもしも組織のリーダーであれ、中堅幹部であれ、そういう所から、降りてくるとすれば問題ですね。もちろん一般の市民が自発的にやるのも問題。
そういう発信源を遮断することを我々市民が率先して立ち上がることこそ、そうしたボランティア精神の人が増加することが、日本を良くすることになるのではありませんか。重要なのは大慈悲心と愛語です。
その先に、日本の平和があり、世界の平和が作られるのだと、私は思います。そういう中から、優れた文化が生まれるのだと思います。
北海道の災害は大変なことで、自然災害の怖さを感じます。死者が出たことはそのご家族の心を思えば、何と言って良いのか分からないほどの悲しみを覚えます。その中で、ボランティアの人々が駆けつけている、その人達を見ると希望を見ます。
言葉の問題でも、学校でも、職場でも、組織でも、何かの集団でも、正義のために立ち上がるボランティア精神が増加することが求められているのではないでしょうか。悪い言葉には迎合しない。
悪い言葉に迎合する奇妙な和の精神はこれから、明るい日本を築くのに必要としないということです。
10 文化交流
トミーが異星人に株主になってもらって、水耕栽培の株式会社をつくったことを我々はカルナから聞いていた。
我々はその頃、トミーの悪友勘太郎の紹介で、ある空き家を紹介されて、そこを仮住まいにしていた。
そのそばに、カルナとアリサの姉妹は友人のリミコと三人で、親元を離れ、別邸に住み、それぞれの仕事場に通っていた。
この別邸も勘太郎の紹介だったそうだ。
我々の家とカルナの間には、小さな広場があった。
この広場に、カフェーがあり、外にはさんさんと降り咲そそぐ日差しの中に洒落たテーブルと椅子があった。
ある時、我々はそこのカフェーでお茶を飲んでいると、そこに、カルナとアリサがやってきて、トミーの話が出た。
「全く、父上のやることを邪魔するようなことではありませんか」とアリサは困ったような表情をしていた。妹のアリサは姉のようなジャーナリスト風の理屈はないが、自由奔放な性格があるらしい。
「でも、水耕栽培というのは面白いアイデアではありませんか」とハルリラが言った。
「水耕栽培のキットはいいですよ。問題は異星人を株主とした会社をつくったという事実ですよ。」
「株式会社の法律ができたそうじゃありませんか」
「ルールがいいかげんですよ。それもよりによって、ギャンブル好きの異星人を株主にするなんて。おまけにカジノをつくるなんて」とアリサが言った。アリサは異星人のサイ族のギャンブル好きの性格がどうも嫌いらしい。ここの所はカルナと少し違う気がする。カルナはあくまでも、やっているサイ族の銅山から流れ出る鉱毒などの社会問題に重点を置いている。
「でも、彼らを祭りに誘っているのは、トミーさんとか」とハルリラは言った。
祭りが近づいている。
「トミーさんをそういう風な行動にかりたてたのは勘太郎さんですよ。あの人はトミーさんの悪友です。あの二人を切り離さないと、トミーさんは父親の伯爵とことごとく対立することになりますわ。」
「勘太郎さんが悪友とは」と吟遊詩人が質問した。
「説明するのは難しいですけど、勘太郎さんはギャンブルが好きなんですよ。トミーさんはそういう人ではないのですけど。ですから、勘太郎さんは異星人に警戒心はあっても、異星人の主張する株主中心の株式会社には大賛成で、そういう国会議員にも知人がいる人でね。自分の家は宝石店で、そこの息子ですから、その店もいずれ株式会社にするのでしょう。」
「伯爵とはまるで違いますね」
「伯爵の息子トミーさんが伯爵と意見を異にするようになったのはトミーさんが勘太郎と付き合うようになってからのことなんです」
カルナはエッセイストだった。アリサは語学学校に通っていた。隣のユーカリ国の言語を習得しているようだった。リミコはカルナとアリサの親友であるが、謎の女でもあった。三人は一緒に生活していた。
我々は二つの家の間の広場で、晴れの日はカフェーの外のテーブルで、食事をして色々な話をした。
ちょつと離れたロス邸と城がそこから見えた。いくつもの家にはばまれた一キロほど先に大きな広場があって、祭りが近いことが熱狂的な太鼓の音で分かった。
「トミーさんが異星人を祭りに誘ったというのは本当かね」とハルリラがある時、聞いた。
「そうよ」
「いいことじゃないか」と吟遊詩人が言った。
「でも、来るかしら。彼らは野蛮だから、文化を理解できるかしら。私たちの国は文明と言うか武力には弱いけど、文化には隣のユーカリ国よりも優れているし、まして異星人の文明だけの文化なしという国とは違いますからね」とカルナが言った。
そんな話をしていると、アリサとリミコもやってきた。
カルナはこの間行った、サイ族の銅山の話を好んでした。
アリサは姉の話を興味深く聞いてはいた。小柄で思慮深い顔をしていたが、自由奔放ではあるが、姉には一目置いているようだった。
リミコはセクシーでいつも服を毎日、変え、フアションに興味を持っているように思えたが、何か深く考えているようなところもあった。
我々は吟遊詩人とハルリラと吾輩の三人の男である。
リミコがアリサに質問した。「ねえ、アリサ。ユーカリ国に研修旅行に行ってきたのでしょう。どんな国だった」
「どんな国って、少なくともわが向日葵国よりは文明が進んでいるわよ。」
「どんな風に」
「車が発達してるわ。それにビルも」
「我がテラヤサ国にも変な車が馬車と並んで走るようになったじゃないの。あの車」
「ユーカリの車はデザインもスマートだし、スピードも出るわよ。ただ、町に時々、装甲車に乗った兵士が巡回しているのよ。あれは何か、嫌―ね」とアリサが言った。
「それはそうよ。あの国は科学を軍事利用しようとしているのだから。銃も大砲もつくっているのよ。それに、一番の欠点は我が国よりも文化レベルが落ちるということ。我が国のような宝殿もないし、伯爵が勧めているような絵画の文化もないし、詩の伝統もないし、陶器の芸術も ない。だから、我が国に対して、独特の羨望感がある。」とカルナが言った。
「それではわしの剣は役に立たんかな」とハルリラは笑った。
「ユーカリ国はわが国に敵愾心はないようだから、怖いということでは異星人の方が不気味ね」とアリサが言った。
「ああ、あのサイ族の連中。しかし、彼らも我らとビジネスをしたいだけじゃろ」とハルリラが言った。
「そうよ。彼らはそんな悪い人じゃないと思う」とリミコが言った。
「このテラヤサ国の何が欲しいのかな」とハルリラは言った。
「宝石よ。わがテラヤサ国はダイヤモンドやエメラルド、それはもう宝石の山がいくつもある。それに金もあるしね」
「でも、今は、銅山を開発して、それで一儲けしようとしているわ」とカルナが言った。
「鉱毒が流れているのにね」
「人の国の一部を勝手に占領して、鉱山を開発するなんて、そんなことは許されんことだよ」とハルリラが言った。
「ユーカリ国にも狙われそうだね」
「ユーカリ国は倫理があるから。卑怯なことはするなという倫理は深く浸透しているし、それに、我が国ほどではないけど、宝石の山は少し持っているわよ」とアリサが言った。
「サイ族の異星人は銅山で儲けた金銭で、宝石と金を買っていこうとしているのかな」とハルリラは言った。
「それだけじゃないわ。我々の産業では陶器ね。お茶碗と皿と花瓶。これは芸術品よ。」とカルナが言った。
「なるほど」
「それから、絹の製品ね。これはユーカリ国も盛んだけど、我が国のはデザインに素晴らしいものがあって」とアリサが言った。
「それにしても不法占拠は困るわ」とアリサが言った。
「そうよ。税金も払わず、あんな銅山も占拠し、青銅をつくって、車の会社づくりに乗り出したわ」とカルナが言った。
「異星人の車を買わずに、ユーカリ国の車を輸入したらどうなのかい」とハルリラが言った。
「ユーカリ国は高い関税をかけて、我が国に彼らの優秀なのは入れないようにしているのよ」
「何故」
「ユーカリ国はわがテラヤサ国より、文明において先んじていることに優越感を感じていたいのでしょ。でも、文化の点ではひどい劣等感を持っているのよ。だから、文明では、常に優越の立場にいたいのでしょ。なにしろ、あそこは象族が多くて、鼻の長いことを自慢にしているくらいですから。
わが国の絹やお茶には憧れの気持ちがあるのに、科学技術は秘密裏にしたいらしい。」
「どうも、ユーカリ国と異星人の間に、秘密協定があるみたいよ」とカルナが言った、
「だって、異星人は来たばかりでしょう。」
「ええ、でもね。ユーカリ国が自分の国の科学技術を秘密にする政策を歴史的にとってきたことと、異星人のあの黄金の魔法次元の長老の間にそういう秘密の交信があったのじゃないかと思って」
「どんな」
「わがテラヤサ国をビジネスにおいて食い物にするということよ。そういう取引がユーカリと異星人の間であったのよ。証拠はないわよ。このことはわがスピノザ協会が独自に調べたことなの。信憑性は高いと思うわ」とカルナが言った。
「人間って、象族にしても、サイ族にしても看板は綺麗にしておいて、平和にビジネスしましょうなんて言ってきて、裏ではそんなことをするのね。親念さまの教えは本当なのね」
「なんだ。その親念の教えとは」とハルリラが聞いた。
「新念さまというのは地球の親鸞さまの生まれ変わりで、銀河アンドロメダのある惑星で布教しているそうよ。モナカ夫人の宝殿に出入りしているハリエさんがよく言っている偉いお坊さんよ。人間には、悪があるが、魔界のささやきがある場合もあるから気をつけなさいと忠告なさっているらしいことよ」とアリサは答えた。
ハリエはロス氏の執事の奥さんだった。
「ああ、ハリエさんって、病気がちのお母さま、伯爵夫人の世話をなさっているとか」
「ええ、そして足しげく宝殿に通っているわ」
「そこでは、神様もいるということを教えるのかい」
「仏さまよ」
「要するに、神仏でしょ」と吾輩はこういうことに口出すことを遠慮していたが、猫として飼われていた京都の主人の銀行員がよく言っていた神仏の方がどちらの神様が偉いだとかいう争いがなくていいと思っていた。それに、隣のスーパーの猫吉がいつもそんなことを言っていたことをふと、思い出した。ああ懐かしい緑の地球。ああ、懐かしい京都、そんな感情が吾輩を襲った。
「わしはサムライ精神だけで十分と思っている。卑怯なことはしない。悪口を言わない。強きをくじき、弱きを助ける。」
「座禅も入れて欲しいな」と吟遊詩人が長い沈黙を破るかのように微笑した。
詩人は黙ってはいたけれども、常に口元に美しい微笑をたたえていた。吾輩は先程、ちょつと神仏だなんて口走った以外はずっとかしこまっていた。なにしろ、魅力的な女性が三人もいるので、どう話の中に切り込んでいいのか戸惑っていたからだし、また彼らの話につきない興味を感じていたからでもあった。
「わしはカント九条を伯爵さまに説明したが、そんな状態では無理かな。」とハルリラは言った。
「どういうこと」
「つまり、今度の新しい国造りに、憲法をつくると伯爵さまがおっしゃるから、わしはカント九条をぜひ入れて欲しいとお願いした。」
「カント九条って」
「カント九条とは」と質問されると、ハルリラは目を輝かして説明した。宇宙インターネットによると、銀河系宇宙に、ある惑星があって、カントいう偉人が出て、永遠平和の惑星をつくるべきだとして平和の提言をして、その九条がまるでモーゼの十戒のような美しい響きを持っているという。なにしろ、戦争を否定し、武力による威嚇、又は武力の行使は国際紛争を解決する手段としては永久に放棄すると書いてあるそうだ。
隣のユーカリ国だの、異星人だの、武力にまさる国があって、このカント九条を絵空事のように思う人も多いと思われるが、このテラヤサ国がこの向日葵惑星の平和のイニシャチブを取れば、このテラヤサ国だけでなく、ユーカリ国もまたその海の向こうのいくつかの国も武力を最小限にして、永久平和を宣言することができる。ただ、異性人はちょつとわしの計算違いではあるが、今のところ、ビジネスでいけそうであるのだからと、このカント九条を新政府にのませることが出来るチャンスであると、ハルリラは言った。
「それは素晴らしい条文ね」
「カント九条をつくり、向日葵惑星すべてにこの条文がいきわたるように、武力は警察力程度におさめる運動を展開する。これは夢みたいな話だが、
もう銀河の中には武力で滅びた惑星がいくつあることか、温暖化で滅びた惑星もある。地球の恐竜が滅びたのは自然災害だが、ヒト族は自らを滅ぼす道具を発達させているというのはどこの銀河でも悩みの種になっている」
「そう。その考えは伯爵さまが新政府に伝えているわ。しかし、異星人だの隣国のユーカリ国だのに対する保守派と改革派の思惑が色々からんで、そんなにすんなり行くかどうかは今の段階でははっきりしないみたいよ。
ただ、わがスピノザ協会の議員が活動していますから、望みはあるわ。スピノザの神は密度無限大の特異点から宇宙は始まったという科学とも相性がいいの。それに理想を目指すのですから」とカルナが言った。
「あら、宝殿の議員も三人いるから、それも加えたほうがいいのでは。ハリエさんが言っていたわよ」
「でも、難しいと思うわよ」とリミコが言った。
「どうして」
「だって、あなたも言っているように、異星人はミサイルを持っているのよ。
それから、ユーカリ国は大砲も新式の銃も持っているのよ。それで、どうやって、彼らと対抗するのよ」
「文化交流ね。彼らは我らの伝統のある文化を学びたいはず。かって、我が国は極度に文明が発達し、千年前の戦争によって破壊されたのよ。知っているでしょ。そういう悲惨な経験のあと、廃墟の中から文化、陶器、絵画、詩、演劇という風に文化の成熟をめざして復活したの。今にいたったこの長い歴史の中で、古代の文明と復活したあとの努力の結晶の文化の輝きは異星人もユーカリ国もまぶしいような憧れで見ているのよ」
「それではますます、異星人が祭りに来ることが楽しみですな」
と吟遊詩人が言った。
「でも、問題は彼らが来るかどうかよ」とカルナが言った。
「周囲の状況は難しいが、我らが今度、あの異星人の長老と話し合ってみますよ」と吟遊詩人が言った。
「本当」
「本当ですよ。アンドロメダの旅人がお役にたてれば、嬉しいです」
そう祭りが近い。吾輩も楽しみにしている。異星人は来るだろう。来た場合にトラブルはおきないのだろうか。そんな思いが吾輩、寅坊の頭をかすめ、詩句が浮かんだ。
祭りがやってくる。祭りがやってくる。
太鼓の音が胸に響く
笛の音は夢の緑のよう
さあ、踊ろうよ。すっかり頭が空っぽになるまで踊ろうよ
美しい日差しから夕方の黄金の空、そして星の輝くまで
全てを忘れて、皆で踊ろうよ。
さすれば、つまらぬ妄想は消え
踊る人はみんな友達になる
見ている人も友達になる
踊れよ、おどれ、向日葵の惑星は珠玉のように輝くだろう。
【 つづく 】
久里山不識
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