アンドロメダ銀河鉄道がブラック惑星に近づいた頃、ハルリラの言葉を借りれば、珍しいことが起きた。
窓の外の銀河の中での出来事だ。
巨大な響きの雷が鳴り、その光は銀河全体に広がり、その光の中から、
我らの行く手に巨大で美しい鉄道がとまったのだ。ハルリラの話によれば、アンドロメダ銀河鉄道の守護列車だという。
我らのアンドロメダ銀河鉄道と違って、金色の色をして、もう少し大きく、長く、さらには様々な色の宝石などの装飾がほどこしてあった。
このように、銀河鉄道どうしがめぐりあうのは珍しいことで、しかも、あの列車には銀河の守り神の梵天と帝釈天と四天王が乗っているのだそうだ。釈迦が悟りを開いて沈黙しようとした時に、説法を促したことで知られるこのような高貴な人達とスタッフの孫悟空に似たサルが乗っている。サルはみな白い十字架のペンダントを首につけていた。窓から、こちらを見て手を振って「ハレルヤ、ハレルヤ」と言っているのはそのサルだった。
運転席の車両のところに、威厳に満ちた帝釈天と梵天が二つの席にすわり、帝釈天と梵天の眉間から雷の光とは違った不思議で神秘な一条の光が我らのアンドロメダ銀河鉄道の方に流れて来た。
その光を見ていると、ちょうど山に登ってご来光に思わず手を合わせたくなる
ような不思議な慈悲に富んだ光だった。
光に照らされた守護列車の下の方には瑠璃色の平地が広がり、光は虚空に広がっているような感じだった。
「アンドロメダ銀河鉄道の旅、どうぞご無事を祈ります」という声がその金色の列車から歌のように響いてくる。
周囲から、沢山の種類の華麗な花がその守護列車に降りかかり、今までの金色の色はまさに花の色々な色で不思議な模様を描き始めていた。
「次はブラック惑星。お気をつけて、旅をなさって下さい。あそこは惑星アサガオほどひどくないですが、温暖化が進んで、ひどく暑いところです。それに魔界メフィストが狙っているという噂のある惑星です」そういうアナウンスが聞こえて来る。
その時、帝釈天と梵天の眉間から、さらに神秘的な光が我らのアンドロメダ銀河鉄道の中にまで入り込み、吟遊詩人のヴァイオリンを包んだ。ヴァイオリンは不思議な輝きに包まれ、遠くから「そのヴァイオリンはこのブラック惑星で大きな力を果たすだろう」と声が聞こえてきた。
アンドロメダ銀河鉄道がブラック惑星につき、ブラック中央駅を降りると、我々はウエスナ伯爵の紹介状を持って、KPC弁護士事務所を訪れることになっていた。
駅の前のビルの一角からは三本の道が伸びていて、一本の道は石畳のように、綺麗にされていたが、
我々は一番貧しい感じのする道を選んだ。というのは、弁護士事務所は貧しい人を助けるという理念から、そういう方角につくられたいきさつを聞いていたからだ。
道は黒に近い色をしていて、小さな石ころが沢山ある。南国の街路樹が並んでいるのはいいが、道の横にはゴザが敷いてあって、そこで横になったり、座っている人が目立つ。
道は広く、自転車が通ることはあるが、多くの人は歩いている。
段々、分かってきたことは道端にいる人は家を持っていない人のようだ。
道端の背後に小屋がある場合もある。
そこが家という場合もあるのだろう。小屋の中には、白内障になった老人や皮膚がんになったものがいると聞いた。オゾン層が破壊され、紫外線が強いのだ。
一キロごとに、椅子に腰をかけたタヌキ族の制服姿の男がいる。最初の男は茶色の口髭をはやし、大きな丸い目で相手を射るように見つめていた。
どうも行く人をチェックしているようだ。
監視社会の目がこんな所にもう現われているようだ。
時々、道行く人が呼び止められ、何か言われている。何を言われているのか、聞こえないが、ある場所で聞いてしまった。
「仕事を持っていないなら、兵士になれ」と制服の男が言っているのだ。
それに対して、ぼろぼろの服を着た若い男は「兵士はいやだ」と言っている。
「じゃ、どうやって、生きていくのだ。めしを盗んでいるのがいるというが、お前はその仲間か」
その内に、その辺の住民と、制服の男が集まり、激しい言い合いが始まってしまった。
吟遊詩人はその時、ヴァイオリンを出し、我々のことを何か言っている人の前で、弦を弾いた。
音楽は短いもので、絹のようなやわらかで優美な音色が、そのあたりの空間を包み、絹の絨毯に春の日差しが射しこむような心なごませる響きがあった。
さらに、詩人の歌が続いた。
花と昆虫の生きる自然よ
光と風の吹くところ
さわさわと緑の梢を揺らす
そこに光が射し
木漏れ日ができる
その並木の道を歩く男女
ちょっとした口論から
ふと、風に揺れる緑の梢と木漏れ日を見る
ああ、我らは自然の子
二人の間に笑顔が戻る。
母よ、あなたに感謝する。
我らを生み出した
偉大な力
鳥が飛ぶ青空と馬の足音の響く大地
どこからともかく、我らはやってきた旅人
我もあなたも
旅人の悲しみと共に
森羅万象をおおう夕日に向かって歌う
黄昏時の愛のそよ風が雨のように降りそそぐ
その静かな澄んだ空間の中に
響き渡る小鳥の声のように
おおらかに歌う我ら旅人
悲しき迷宮を歩けども、明るく歌う我ら旅人
ああ、不思議に、多くの若者に笑顔が浮かび、自然と殴り合いは終わった。住民も制服の男もいつの間にどこかに行ってしまった。
集まって来た若者の一人が言った。中肉中背で、顔は赤く、リス族のような顔をしていた。
「これは魔法のヴァイオリンですね」
吟遊詩人は言った。「そんな風に言われたのは初めてですよ」
「古来、オルフェウスの楽器以来、そういうのが宇宙のどこかにあると聞いていたけれど、私は魔法のヴァイオリンだと思う。いつもなら、こうした争いは殴り合いに発展して、時には血を流すのに、そういうことがないだけでなく、皆の顔に笑顔が戻った。これは奇跡ですよ」
「そうか。ありがとう」
「どちらに行かれるのです」
弁護士事務所だと答えた。大きなみかんが枝もたわわになっている大きな木のそばで、若者は笑顔で、「ぼくが案内しますよ」といった。
ふと、横笛の音がした。知路である。
リス族の若者が「魔界の女ですよ。背後に恐ろしい魔界のメフィストがいますから、気をつけた方がいいですよ。この惑星はメフィストのせいで、かなりおかしくなった歴史があるのですから」と言った。
「しかし、横笛の音はいいね」とハルリラが言った。「話しかけてみるか」
「知路さん。何で、あなたはわたしらの前によく出てきて、そして消えて行くのだい」
「あたしは詩人の川霧さんのヴァイオリンがとても好きなのです。その音を聞くと、あたしは本当は魔界の娘ではないという気持ちがするのです。あたしの行動はメフィストに指図されていることが多いのですけれど、詩人の音楽を聞くと、メフィストの言うことをきく気に慣れないのです。でも、言うことを聞かないと、魔界に戻った時、鞭で打たれるのです。おそらく、あたしはただの人なのです。メフィストに、私の記憶が届かないような幼い頃、誘拐されたのです。そういう夢を最近よく見るのです。もしかしたら、詩人と同じ地球人なのかもしれないという希望を持つのです。なぜなら、詩人のヴァイオリンを聞くと、ああ、何というのでしょう、不思議に美しい気持ちになるのです。今までに経験したことのないような気持ちです」
「メフィストから、逃れられないのかね」とハルリラが言った。
その時、雷が鳴りだした。そして、知路は忽然と消えた。
【つづく】
【久里山不識】
【今朝2019年2月 2日のニュースを聞いての感想】
米国の大統領はロシアとの中距離核戦力【INF】全廃条約から離脱すると正式表明したそうだ。
まさに、新たな核軍拡の始まりを感じさせ、キューバ危機を思い出させる。何故なら、米国、ロシア、中国の核軍拡が将来の悪夢を妄想させるからである。次の世代のために、日本は被爆国として、経済大国として、この三つの国の軍拡競争に傍観者であって良いのか。もっと、国民の平和への願いが政府を動かし、政府が三者の国の軍縮を進めるように働きかけはできないものなのか。そのためにも、憲法九条は守るべきである。そして、文化交流が大切である。
【憲法九条を守る意味】【再掲載】
この文章はFC2の【猫のさまよう宝塔の道】2016年10月 3日に掲載したものです。今もあります。憲法九条を守るが物語の一番のテーマですので、物語をきちんと読んでいただければ「何故、憲法九条を守らねばならないかが、分かると思っているのですが、お忙しい方もいて、拾い読みする方もあるようで、そうすると、意味がきちんと把握できないという方も出てくるかもしれません。それで、以前書いた「憲法九条を守る深い意味」を思い出し。この場に付け足しておきます。【書いた時間が大分前なので、今と少し違和感がある文もありますが、直さないでそのまま掲載します 】
映画の感想を書いて、次の物語の備えをしていたら、たまたまコメントが入った。私の【the Pianistとアドルフに告ぐ】のブログを読んで、彼自身もその映画を見てみたいし、「アドルフに告ぐ」もいずれは読んでみたいという内容には、良いことだと思った。
しかし、そのあとに続く内容は私の日本国憲法を守るという立場とはかなり違う。
要するに、北朝鮮の脅威を言っているわけで、それに対する防備をしなければならないということだと思う。でも、北朝鮮の脅威は多くの日本人が感じていることだし、核兵器開発に恐怖を感じていることは、この日本国の大地に住む者は同じ思いだと思う。
どうやって、日本を守るか、政治家はもちろん、ジャーナリスト、学者、一般の人、みんなこの日本の大地を守り、日本の子供たちがこの大地で健やかに育つことを願っていると私は思う。
しかし、どうやって守るかで意見がわかれる。私は両方の意見を聞いて、考え、やはり、憲法九条を守る方が平和への道に近いと感じる。
勿論、人間ですから、色々な意見があって、改憲、憲法九条の廃止そして軍拡をして、もしかしたら核武装論にまでいく考えを持っている方もおられるのではないかと思いますが。
しかし、もしそうした立場に日本が突き進んだとしたら、中国や、北朝鮮、やロシアはどういう反応をするか、東アジアは今以上に不安定になり、軍拡競争がはじまり、いきつく先は核戦争ということになりかねない。
【人類は滅亡の道に進む可能性があるということです。少なくとも文明・文化は破壊され、第二次大戦を上回る死者も予想される。こういう恐怖は既にキューバ危機で人類は経験しているのです 】
では、憲法九条を守っていては、北朝鮮が図に乗って、何かの拍子に彼らのミサイルが飛んでくるではないかという心配はどうか。
確かに、そういう不安があるから、今、活発に外交が進んでいるのではないでしょうか。
安部首相がキューバのカストロ氏に会って、北朝鮮の核開発を押しとどめるように協力を要請しましたね。キューバは北朝鮮の友好国であり、カストロ氏は大の親日家であって、日本庭園を持っていると聞きました。
それにやはり、平和憲法を持っているという実績は安倍首相がカストロ氏と会った時に、口に出して言わなくとも(首相が改憲をたとえ、考えていたとしても)
、現実にある憲法九条の威力は 無言の世界の行くべき方向をカストロ氏に指し示していることが私には感じられるのです。
それから、憲法九条がアメリカ軍という占領軍の中でつくられたものだし、日本を軍事的に無力にするというご意見。それがたとえ、本当であるとしても、憲法の内容を吟味すると、軍を最小限にして、その金を国民の生活にまわすという発想はそれなりに、将来の人類の行くべき方向を指し示しているのではないでしょうか。
人類の歴史を見ていると、戦争の歴史である。ことにヨーロッパでは三十年おきぐらいに戦争をしていた。全く、人類は戦争が好きなのではないかと錯覚するくらいである。
事実、日本でも、日露戦争の時に、戦争反対ののろしをあげた歌人の与謝野晶子とキリスト教思想家の内村鑑三は一時、非国民と言われたのであるが、今や教科書に載る偉人である。
そのあと、人類は第一次大戦と二次大戦という怖ろしい戦争を経験してしまった。
今や、オバマ大統領のように、核兵器をこの地上からなくしたいという思い。これは人類の悲願なのではないでしょうか。出来れば、通常兵器も世界的に縮小していくことがのぞましい。
過去のように、軍拡が世界の雰囲気となったら、人類は生き残れないと思う。
既に、過去にはキューバ危機で、ソ連とアメリカが核戦争寸前まで行った。
最近では、パキスタンとインドの軍事衝突が核戦争一歩手前まで行ったと聞いている。
イスラエルも核兵器を持ち、アラブとの対立が懸念されている。
至る所で、戦争の火種がくすぶっている。
そこへ日本人が憲法九条を見捨てたら、戦争へ戦争へと突き進むことになることは火を見るより明らかではないだろうか。
憲法九条を守り、今の段階では、それなりに防衛力を強化して、世界に平和外交を展開する、それが日本の進むべき道だと私は思う。
最近、「日本会議」というのを耳にした。どうも、宗教右派といわれるごく一部の人達が中心となり、財界、政治家の一部と結んで、憲法改正、憲法九条廃止、国防軍の設立、ということを考えて立ち上げた運動のようである。
宗教というのは本来、平和を目指すものである。人間のいのちという素晴らしい奇跡の存在に驚きと感謝の念を持ち、そのいのちを守るために、平和を考えるのである。
その平和をつくる願いがストレートに実現している憲法九条を廃止するというのは理解しにくい。
お釈迦様が悟りをひらいたあと、お釈迦様が若い頃、王子であった国に隣の大国がせめてきたという話がある。
お釈迦様の所に、かっての家来たちがやってきて、「お釈迦様、どうぞ我々の総大将になって、あの大国に反撃していただけませんか」とお願いした所、
お釈迦様は悲しみの表情を浮かべ、座禅をしておられたそうである。もし、あの時、お釈迦様が総大将になったら、反撃はできても、仏教はこの二千年、人類に巨大な足跡を残すことが出来たであろうかという貴重な意見を聞いたことがある。
科学が生命を物質レベルでいくら探求しても沢山の知識は増えていく喜びはあるけれども、生命の不思議さは増すばかりという「いのち」の神秘を仏教は悟りの世界で解き明かしたものである。これは人類の宝である。宗教はキリストの言われたように、隣人を愛せよ、さらに敵さえも愛せよという教えに見られるように、愛と大慈悲心が根幹にあるのだから、宗教というのは 人と争うことを拒否するものである。
そんな呑気なことを言っていたら、北朝鮮が攻めてくるではないかという意見も分かる。
しかし、だからと言って、人類の宝 憲法九条を捨てるわけにはいかない、憲法九条を守りながら、平和外交を進めるしかないのでないかと思う。
私は文化の交流が大切であると思う。
今、多くの心ある方が文化と政治の面で、平和外交と平和へのコミュニケーションの取り方を研究し、それを少しずつ進めていると私は期待している。それを応援するしかないのではないかと思われる。
人類は憲法九条の指し示す【カントのいう永遠平和】に向かって、前進しようとしている気がするのですが。【現実の世界の状況はあまりに違うのは実に残念ですが、多くの人々はそのように努力している、そう思うようになりました】
【久里山不識】
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