それから、さらに夜になると、寝台車に行くものもいる。我々三人は若いので、やわらかな絹のようなソファーの自分の席で、そのまま寝る。それでも、吾輩、寅坊はまだあまり眠くない。時々、目をつむったり開けたり、あたりの様子をうかがう。目をつむると、やわらかな緑の柳が清流にかかり、岸辺には花が咲いている。吾輩には眠る前に、時々、こうした幻影が現れることがあり、これが楽しみなのである。
物音で、目をあけると、今までに、そのあたりにいた沢山の乗客はすっかりいなくなり、いるのは我々三人とライオン族のおまわりさんとヒョウ族の若者と虎族の若者モリミズと猫族の娘ナナリアだけになった。
鼻歌が聞こえて来る。かすかな声だが、どうもおまわりさんの鼻歌のようだ。
レモンよ! 君の瞳に愛と死を見る奥の深さ
おお、やわらかな黄色の毛を身体にまきつけて
僕の日記に嵐を吹き起こす
熱情の恋人よ。涙の嵐に吹き荒れる緑の風景
おお、夜はそこまで訪れた。海の衣ずれの音と共に
やさしくふりかかる君の黄金の髪
おお、そして神秘に光る町の灯のような君の瞳
僕は大森林の芝生の上で君とたわむれ、笑う。
これこそ、人生。
永遠のやさしい月夜の晩に僕はレモンに魅入り
愛の深まりの中で夢を見る
ライオン族のおまわりさんの声はそこで急に小さくなり、聞こえなくなってしまった。
吟遊詩人が微笑して、「レモンで思い出したが、僕にはこの有名な詩がすきだな」
彼の声も珍しく小さかった。
おまわりさんに遠慮したのだろうか。
そんなにもあなたはレモンを待っていた
かなしく白く明るい死の床で
わたしの手からとった一つのレモンを
あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
トパアズ色の香気が立つ
その数滴の天のものなるレモンの汁は
ぱっとあなたの意識を正常にした
あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑ふ
わたしの手を握るあなたの力の健康さよ
あなたの咽喉に嵐はあるが
かういふ命の瀬戸ぎはに
智慧子はもとの智恵子となり
生涯の愛を一瞬にかたむけた
詩人川霧さんはふとそこでやめた。おまわりさんの声が再び聞こえたからだろう。何て言っているのだが、はっきり聞き取れない。
「月夜の砂漠の中に彷徨う隊商のように」だけがやっと聞こえた。
ちょっと見ると、ライオン族のおまわりさんの目に涙が光って、鼻水が流れるような感じがあった。
吾輩の耳は猫の耳であるから、聞こえは抜群にいいが、二人の詩の最後まで聞こえなかったのは残念だった。吾輩の胸にも響く吟遊詩人の詩は、高村光太郎の「レモン哀歌」である。おまわりさんの方は分からない。何で逞しいライオン族のおまわりさんがその詩を歌い、かすかな涙を光らせていたのかは勿論、分からない。ただ、人間というのはどんなに強そうに見える人でもそうした一片の悲しみの詩をかかえていることがあるのだろうと、吾輩は思った。
それでも、吾輩は何か素敵なものを見たような気がしてしばらくぼんやりしていると、すると、ライオン族のお巡りさんの鼾が聞こえて来た。
そのすきをついたのか、ヒョウ族の若者が猫族の娘の所に行き、
「ねえ、付き合ってくれよ」とねこなで声で言う。
「ここで、お話するくらいならいいわよ。でもあたし、ティラノサウルス教って苦手なの」
虎族の若者が来て、「おい、あまりしつこくするなよ。悪いだろ」
「なんだと。お前が出るまくか」
「それに彼女のブログは匿名なんだぜ。何でそれを虎族の小母さん達に喋っちゃうのさ。悪いと思わないのかい」
「うるせえな。ティラノサウルス教よりスピノザ協会の方がいいって書いてあるから、虎族の小母さんの心の栄養にいいと思っただけだよ」
「君はティラノサウルス教なんだろ」
「そうだよ。しかし、あれはヒットリーラが一時心酔した強者の哲学だからね。もう少し、弱い人の立場に立った慈悲の心があった方がいいと思っているよ」
「なるほど。そこまで分かっているなら、彼女の邪魔をするべきではなかったな」
「何だと。貴様」
ヒョウ族の若者はナイフを振り上げる。
「腕力じゃ、僕に負けるからって、ナイフを出すとは。彼女がおまわりさんを呼ぶわけだよ。ところで、おまわりさんは寝ているな」
ここでハルリラが立ち上がり、素早くヒョウ族の若者が持っているナイフを取り上げる。ハルリラの動作の敏捷さに驚いた。
「やめたまえ」
ヒョウ族の若者もこの猫族の女の子ナナリアが好きだったのだろうが、彼の恋慕の情の嵐は理性の壁を破ってしまったと思える。以前から、虎族の若者とヒョウ族の若者でこの恋人ナナリアの取り合いがあり、一編の恋愛確執の物語があったのだろう。吾輩、寅坊はそういうことに興味がないでもなかったが、その時はただ、状況をはらはらして見ているばかりだった。
「おまわりさん」とナナリアが声を上げた。おまわりさんは驚いたように目を覚まして、ラグビーの選手のように物凄い勢いで「逮捕だ」と雄叫びをあげながら飛んで来て、ヒョウ族の若者の手首をつかんだ。なるほど、先祖がライオンだけある、居眠りからダッシュまでの変わり身の物凄い敏捷さには百獣の王の血が流れているようだと、猫である吾輩は思った。
こうして、ライオン族のおまわりさんは男を逮捕すると、別の車両に連れて行ってしまった。
「ここにすわりませんか。モリミズさん」と吟遊詩人が言った。
虎族の若者モリミズは「ええ、ありがとうございます」と言って、「綺麗ですね」と窓の外を指さした。
何時の間に、月は窓わくから見えなくなり、代わりに、見えたのは、青白く光る銀河の岸に、銀色の空を背景にした色とりどりの薔薇の花が、もうまるで一面、風にさらさらさらさら、ゆられてうごいて、波を立てているのでした。
アンドロメダ銀河鉄道の先の方で多くの鳥達が飛びたったようなのです。
天空に舞い上がる極楽鳥のような色とりどりの小柄な鳥の本当の名前は分かりませんが、熱帯にいる赤いインコ、青いインコ、黄色いインコのような不思議な美しさを持っています。
それがピアノの音のような美しい音を大空全体に響かせて、それから舞い上がり、キラキラ光る星を飾るさまは、まるで江戸の隅田川の空に上がった花火のようです。
確かに、周囲の下の方は何か水晶のような美しい水が流れているのかもしれないと、吾輩は思ったのです。
たえず、ピアノ・ソナタのような、美しい響きがまるでそれが列車の音であるかのように聞こえるのでした。何という美しい音楽だろうと、吾輩は思わず思ったものです。
虎族の若者は満足そうに、吾輩と吟遊詩人とハルリラのそばに、空いている一か所にゆったりと座りました。
「すごいね。さすがにハルリラさんは武士だね」と吾輩は言った。
「おまわりさん居眠りしていたから、心配してずっと見ていたんだよ。娘さんが危ないと思ってね」とハルリラが言った。
「助かりました。僕も空手二段の腕前があるのですけれど、ナイフを出されると、やはりこちらも相当怪我をする覚悟がいりますからね。それにしてもライオン族のおまわりさんは呑気ですね。それに比べあなたの敏捷なこと」と虎族の若者モリミズが言った。
「相手がナイフを持っていましたから、ちょつと気を使いました。でも、刀を出す相手とは思いませんでした。そんなことをしたら、武士として失格ですからね」とハルリラは言った。
ちょつとした沈黙があった。
「どちらへ行かれるのですか」とモリミズが吟遊詩人の方に声をかけた。
「この次は、惑星アサガオでおりようと思っているのですよ」と吟遊詩人は答えた。
「ああ、あそこですか。僕もそうですよ。ご案内しましようか。」とモリミズは言った。
「君には、ナナリアさんがいるのではないですか」と吟遊詩人は微笑した。
「あの子は惑星アサガオではおりないと思いますよ。なにしろ、あそこは今、革命の動乱期ですからね。僕が危険だから、この惑星は飛ばして、次の惑星で降りるように説得しました。
惑星アサガオは熊族の王朝が長く続き、ロイ二十世という王様が専制的に支配しているのですが、これがまた税金問題で国民を苦しませていましてね、国民はあの消費税には我慢がならないと色々不穏な動きがあるのですよ」
「それで、虎族の君がそんな所に行って、何か目的でも」
「ええ、惑星アサガオの民衆には、鹿族が多いのですが、これが貧しくてね。明日のパンさえ、手に入らない、中には餓死者が出るあの国の首都のお城では、お姫様が『パンがないなら、ケーキを食べればいいじゃないの』と言いながら、王様は消費税を二十パーセントに引き上げるなんて言っているんですよ。
貴族の中には虎族やライオン族がいましてね、僕の遠い親戚の虎族の伯爵から僕は呼ばれているのですよ。彼は貴族でありながら、この熊族のロイ王朝の政治のやり方に反発していましてね。ウエスナ伯爵というのですが、彼はインターネットで地球のスピノザを勉強していたものですから、僕がスピノザ協会に入ったと言ったら、喜んで僕を招待してくれたわけです」
「熊族の王朝にまで、やはりテイラノサウルス教があるのですか」とハルリラがモリミズに聞いた。
「や、あれは伝統的に虎族の宗教ですから、ロイ王朝は熊族ですからね、ブロントサウルス教でしょう」
「それはどんな考えのものなんですか」と吟遊詩人が聞いた。
「あれは草食系のせいでしょうかね、なにしろ、紙が好きなんですな。お札をどんどんすって、インフレにして、消費税などの税金を増やして、貧しい庶民を困らし、富んだ貴族や大金持ちや富裕な商人からは税金をとらないのですよ。おまけに、貧しい庶民にまわす福祉の金は、軍事力を誇示する戦車をつくる金に化けてしまうというわけです」
その時、向こうから、猫族の女の子ナナリアの声が聞こえた。モリミズを呼ぶ声だ。
「それじゃ又。惑星アサガオに降りる間際にご案内します」と言って、モリミズは離れた。
吾輩はしばらく寝た。詩人もハルリラも寝たのだろう。
ふと吾輩が目を覚ました時は、ハルリラの寝息が聞こえるくらいあたりは静かでした。アンドロメダ銀河鉄道はどのあたりに来ていたのでしょうか。星の輝く中に黒い森のようなものが続くかと思えば、その横を見えないアンドロメダ銀河の川が音もなく、トコロテンのようにやわらかく、もっと透明な流れとなっているようで、不思議な大きないのちの水があらゆる星屑とすれ違いながら、その時出すみかん色の美しい光はたとえようもないものでした。
時々、なにやら吹く野原の風のような音がまるで弦楽器の響きのように、聞こえては消えていきます。
「ああ、この次の惑星アサガオは波乱の舞台のような感じもする」と吾輩はロイ王朝のウエスナ伯爵がどんな人か想像しながら、そんな独り言を言うのでした。
大きな向日葵や柳の木のようなものがまるで並木道のようにえんえんと続くではありませんか。向日葵、菜の花、柳のようなものが星のように輝き、
向こうにトパーズという宝石のような黄色みがかった惑星アサガオがゴムまりほどに見えてきました。
吾輩は殆ど歓喜の声をあげました。なにしろ、地球の京都では、あの主人の銀行員が我輩にゴムまりをなげつけて、吾輩がごむまりにじゃれるのを子供のように、喜び、腹をかかえて笑ったのを思い出したものですから。あれでは、どちらが猫か分かりませんね。
どちらにしても、今の吾輩はどういうわけか、猫族の人間として、服まで来て、さっそうとアンドロメダ銀河の旅を続けているのです。
これほど、生きる喜びを感じる時はありません。
それにしても、ハルリラは静かな武士です。顔も優しい感じがしますが、腕はかなり太いです。筋骨隆々としたエネルギシュな肉体が服の中に隠されていることがなんとなく感じられる外見です。
吾輩はつくづくハルリラの顔を見ると、どうしても仏像広目天を思い出してしまうのです。
「銀河がこんなに美しいのは目に見えない何かを隠しているからだ」と思いました。「何だろう。それは。」
どこからか、銀河のはての丘陵から何かの旋律が聞えてくるようでした。
「そうだ。いのちだ。目に見えないいのちを銀河は持っている。」
ふと、気がついた時はもうゴムまりではなく、バレーボールほどの大きさに惑星はなっていて、相変わらず、トパーズのような少し黄色みがかった巨大な宝石のように思えたものでした。
「銀河は目に見えないいのちを持っている。だから、こんなに美しいのだよ」
と吾輩、寅坊は虎族の若者の目を見ながら、そう言った。
そう言って、吾輩はこんな風に言ったのは、映画を見たあとの吟遊詩人のいのちの講釈が我輩の無意識の海の中に入っていて、それが噴水のように言葉となったのだなと思った。
なにしろ、自然は神の現われだとスピノザは言っていた筈だと虎族の若者は言っていた。
何時の間に、吟遊詩人もすっかり寝て、気持ちよく目を覚ましたと見え、すがすがしい目をして、吾輩に向かって言った。
「僕はここに杜甫の詩集を持っている。」と吟遊詩人はややふるぼけた小型の薄い本を見せた。「それから、この首にかけているヘッドホーンを耳の方にあてると、僕の好きなバッハやベートーベンが聞こえてくる」と言って、微笑した。
吾輩は、吟遊詩人はいのちの話をするのだなと直感した。
「杜甫の詩を読んで、そこに展開する千年前の不思議な絵巻物のような光景を頭に浮かべて感動する時、そこにいのちを感ずる」
「それに」と吟遊詩人はヘッドホーンをなでながら、「これは素晴らしい。最近はベートーベンをよく聞くんだが、そこに宇宙のいのちを感ずる。芸術は知識でもない、技術でもない、ただ素直に聞き、感動することさ。ロダンは感動こそ、芸術のいのちというが、こういう素晴らしい音楽を聞いて、感動した時もそこにいのちの躍動を感じる。これは絵でも詩でも同じこと」
吾輩は吟遊詩人が映画の感想を言った時と、似たことを言っていると思った。あの時には、虎族の若者モリミズがその席にはいなかった。
吟遊詩人は吾輩の心を読んだのか、優しい目を吾輩に向けて、微笑して、さらに話した。
「寅坊君が言うように、銀河は目に見えないいのちを持っている。だから、こんなに美しい。その通りさ。勿論、銀河のような巨大な宇宙ばかりでなく、可憐な花を見ても風に揺れる植物を見ても、いのちを感ずる。いのちというのは形がない、目に見えない、しかし、我々の肉体が単なる物質の集合体でないと我々が知っていて、「いのちがある」と誰でも言うように、いのちというのは、感ずる心がある人には、いたる所に、いのちがある。
僕はトラカーム一家で過ごしていた時、何冊かの歴史の本を読んだが、その中でも「安土桃山時代」と「明治維新」は面白かった。貧しい百姓の出から、信長に仕え、天下をとり、その豊臣の天下も結局、徳川に譲らざるを得なかった歴史の動きは実に面白い。明治維新も同じ。下級武士たちが動きだし、やがて、長く続いた徳川政権を倒す、このあたりの人々の動きを見ていると、そこに不思議なドラマ、つまり、歴史物語といういのちを感ずる。
いのちはいたる所に感ずることが出来る。
星の輝き、空気の心地よさ、風の梢を揺らす音、小鳥の声いたる所にいのちを感ずることが出来、そして、いのちをささえているのは愛であり、大慈悲心である。これを不生不滅の霊性と言っても良い。そういう風に、いのちというのは不思議なものだよ。」
【つづく】
【久里山不識より】
この素晴らしい大切な「いのち」を傷つける行為がこの地球で行われてきたことは大変残念なことです。その筆頭が「戦争」でしょう。
この恐ろしい戦争を経験して平和になっても、人は人を平気で傷つけることが行われているのはちょっとニュースを見ただけで分かります。
禅では、人は仏性であるとか、もっと深い言い方では、無仏性であるとか言い、白隠和尚などは仏と人間は紙一重であると言い、人間の中に素晴らしいいのちの宝があることを示していますが、どうもこの百年間ぐらいの戦争などの歴史を見ていると、親鸞が言う「人は愚かな悪人で救いようがない、それを助けようとなさっているのが阿弥陀仏だ、阿弥陀仏の回向によって仏の世界に導かれていく」という方が現代には相応しいのかと思ってしまうことがあります。阿弥陀仏って、な~になんて、最近の仏教離れの人に聞かれてしまいそうですが、私は難しい話は横において、
「大慈悲心に満ちた宇宙の不生不滅のいのち」と言って、そう間違いはないと思っています。
そのいのちを傷つける行為は日本国憲法によって、禁止されています。私達の「いのち」は 日本国憲法によって守られているのです。例えば、基本的人権。
さて、いのちを傷つける悪の象徴たる戦争ですが、下記の記事が目にとまりましたので、掲載させていただきます。
ハ月十五日【2015年】の東京新聞の朝刊に九十三歳の瀬戸内寂静さんの特に若い人たちへのエールが掲載されていました。
長い珠玉のような文章の最後の方にこんな言葉がありました。
「安保法案が衆院で可決される結果は想像していたわよ。それでも反対しなきゃならないと思ったの。いくら言ってもむなしい気もするけれども、それでも反対しなければならないの。歴史の中にはっきり反対した人間がいたということが残るの。そのときは「国賊」だとか言われても、どちらが正しかったかを歴史が証明する。一生懸命、小説を書いてきて分かりました。
若い人が立ち上がってくれたことは本当に力強いことです。
法案は参院でも可決されるかもしれない。
もしそうなったとしても力を落とさないでほしい。
立ち上がったという事実はとても強い。
負けたんじゃない。いくらやってもだめだとは思わないでほしい。
闘い方が分かったんだからこの次もやっていこうと思ってほしいわ。運動に参加した人は、その分の経験が残ります。
若い人たちは行動する中で自分が生きているという実感があると思う。
未来は若い人のものです。
幸せも不幸も若い人に襲い掛かるんだから。
われわれはやがて死んでいく人間だけれども経験したことを言わずにいられない。法案を通した政治家も先に死ぬのよ。残るのはあなたたち。闘ったことはいい経験になると思います。むなしいと思われたら困るのよ。どっかでひっくり返したいね。
いい戦争はない。絶対にない。聖戦とかね。平時に人を殺したら死刑になるのに、戦争でたくさん殺せば勲章をもらったりする。おかしくないですか。矛盾があるんです。戦争には。」
【ご紹介】
「迷宮の光」「霊魂のような星の街角」は、アマゾンで電子出版されています。
Microsoft edge の検索でも、「霊魂のような星の街角」が出て来ます。「迷宮の光」はペンネーム久里山不識で入力すれば、表示されます。
【参考】レモン哀歌全文
そんなにもあなたはレモンを待っていた
かなしく白く明るい死の床で
わたしの手からとった一つのレモンを
あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
トパアズ色の香気が立つ
その数滴の天のものなるレモンの汁は
ぱっとあなたの意識を正常にした
あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑ふ
わたしの手を握るあなたの力の健康さよ
あなたの咽喉に嵐はあるが
かういふ命の瀬戸ぎはに
智慧子はもとの智恵子となり
生涯の愛を一瞬にかたむけた
それから山巓でしたやうな深呼吸を一つして
あなたの機関はそれなり止まった
写真の前に挿した桜の花かげに
涼しく光るレモンを今日も置こう
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