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・この前、
三男のところが、
応接間を増築したとかいっていたので、
電話をかけて、
応接セットをあげる、
といってやった
「あら、うれしいこと
買わずにすみますわ」
三男の嫁の須美子は、
珍しく上機嫌な声を出す
「ありがとうございます
お姑さんのところのソファセット、
しっかりして上等ですものね」
「フロアスタンドもあげますよ」
「まあ助かった
でも、お姑さん、
あそこ、
畳敷きにでもなさるんですか」
「いや、
あたしゃ和風はきらいでね」
「ソファセットや、
サイドボード、フロアスタンド、
みんな頂いたら、あそこ、
がらんどうになりますわね
でも、お姑さんもお年ですから、
もう余分なものはないほうが、
お気持ちが楽なんでしょう、
ホホホ」
気をつけてものをいえ、
このスカタン嫁
先の短い年寄りにゃ、
家財家具は不用とでもいうのか
「だれががらんどうにしておく、
なんていいました
あそこへ私ゃ、
新しいセットを買うのよ
だから古いのをあげるっていうのよ
タダで」
三男の嫁は急に冷めた声になった
「今になって、
買い換えられるんですか」
どういう意味でいうてるのや
(先の短い身に、
要らざる贅沢ではないか
年寄りはそのへんのミカン箱、
リンゴ箱でも使ってりゃいいのに)
と聞こえる
嫁は急に手のひら返したように、
事務的な声になり、
「ねえ、お姑さん、
あのセットはせっかく、
あの部屋用に作らせになった、
ものなんでしょ、
やはりあの部屋にお置きになったほうが、
映えますわ
ウチみたいな新建材の、
建て増しの応接間よりも
こういっちゃなんですが、
お姑さんが買い換えられる額の、
半分でいいからウチに、
まわしていただけません?
私、
ウチの家の好みにあった、
家具を買いたいんです」
この嫁はわりに、
言いたいこといいの、
あつかましい奴である
よくもこんな勝手なことが、
いえたもんだ
「あ、そう
そりゃあんたとこの、
好みにあったほうがいいでしょうけど、
じゃ、よろしい、
古道具屋へ引き取ってもらうから」
「古道具屋へ出されるのなら、
頂きますよ」
嫁はあわてていった
次の日には、
息子たちの家に知れわたったとみえ、
「本箱、要らんのやったら、
ウチにくれ」
と次男が電話してきた
「あれは作りつけにしたから、
動きませんよ」
「三角戸棚は?」
「あれは要りますよ」
「ほかにないか」
まるでハイエナである
長男は長男で、
電話してきた
「なんで今頃、
椅子やテーブル買い換える、
いう気ぃになりましてん」:
「飽いたからや」
「飽いたいうたかて、
七十六にもなって・・・」
と長男は絶句し、
「何やな、あのう、
トシヨリいうたら、
長いこと使い込んだ品物に、
愛着もっていよいよ気に入る、
いうようなもんとちゃいますか
古いもんの値打ちを、
トシヨリこそ知る、
いうような・・・」
「そういう人もあるやろうけど、
私ゃ、飽いたんや
次から次へと、
新しいきれいなもん使ったほうが、
気分一新してよろし
いつまでも昔のもの使うてたら、
思想が沈滞してしまう」
「さよか
へえ・・・思想、
ねえ・・・」
「あんた、
あの道具欲しかったんか」
「うん、
あれ、骨董めいてええなあ、
思うててん
あれ、六角の昔風柱時計の、
下なんかにおいといたら、
ええ、思うけどなあ」
「うわ、
かんにんしてんか
六角の柱時計なんて、
ぞっとするわ」
と私はいった
息子たちと嫁たちは、
互いに電話で連絡しあい、
「飽きっぽい」「新しもの好き」の、
お袋について情報交換、
するようになったようである
「何をしよるかわからん」
と警戒する気があるらしい
私は駅前家具店から、
しゃれた洋家具の応接セットを、
一式買った
猫足で白と金で縁取りした、
優雅な椅子である
布はくすんだブルーのビロード、
いっぺんに部屋が若々しく、
明るくなった
ようし、これでよし
しかも家具屋は、
ハワイ招待抽選大売出しをしており、
私はそれに当たったのだ
ヨーロッパや東南アジアは行ったが、
ハワイはまだ行ったことがない
ヨーロッパは、
見るところや買い物が豊富で、
何べんいっても楽しめる気がする
かつ、絵の好きな私には、
スケッチしたくなる場所も多い
それに美術館めぐりだけでも、
収穫多い旅である
しかしハワイへ行って、
絵が描けるか
絵ハガキや写真を見て、
絵ごころをさそわれたためしがない
アメリカも同じである
私にとってアメリカは、
私の孫たちのような気がする
大味に育ちすぎて、
スカスカである
よって私は今まで、
アメリカやハワイというのは、
食指をそそられず、
バカにしていたのである
家具屋は、
招待は一人だけであるが、
もし二人で行くなら、
あとの一人は安い実費でよい、
といった
ほかにフトン店や仏壇屋、
そのチェーン店が集まっての催しなので、
たいそう安いお金で、
ハワイへ行けるそう、
六日の旅というけれど、
パンフレットを見ると、
現地滞在は丸三日である
「お連れと一緒にどうぞ」
と家具屋はいうが、
連れていってやるような人も、
思いつかない
それより、
三日、四日ぐらいなら、
ハワイも目新しく、
気が変わっていいかもしれない
孫的スカスカ、
孫的ボンクラの土地でも、
三、四日なら退屈することも、
あるまいと、
私一人で行くことにする
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(次回へ)