竹村英明の「あきらめない!」

人生たくさんの失敗をしてきた私ですが、そこから得た教訓は「あせらず、あわてず、あきらめず」でした。

電力自由化の今と再生可能エネルギーの未来

2016年10月11日 | 自然エネルギー
またしばし、ブログをお休みにしてしまいました。
9月はとても忙しかったのです。本業の再生可能エネルギー発電事業が順調なのですが、次々と事業展開する資金繰りも大変。同時に、再エネ発電事業の周辺環境が変わる制度変更も続いています。単にお勉強ではなく、生き残るために、それを把握し乗り越える術を考え出していかねばなりません。そんな中、パワーシフトキャンペーンとBe Good Cafeが主催した、ロフト渋谷でのイベント「POWER SHIFT」に出さしていただきました。
津田大介さんの進行で、楽しく面白くお話をさせていただきましたが、いかんせん時間が少なくて作成したパワポの半分以上はお見せできませんでした。そこで、今回は、そのパワポを使って、ブログ上講座をつくってみました。

電力自由化とは

電気を誰でも「創れる」「売れる」「選べる」というのが自由化の意味。「選べる」というのは、一般消費者も好きな電力会社(新電力)や発電種別(再エネとか)が選べると言う意味。でもこれは、正式には「電力システム改革」という大きな変化の一部分なんです。
じゃあ、電力システム改革ってなんだ・・というと、ひとことで言うと、既存の電力会社を3つに分割すること。聞いたことがあると思いますが、「発電」「送配電」「小売」の3つです。どうして分割するのかというと、それぞれ全く別の仕事で、一つの会社の中で行ってなくても良いのに、一緒にやってるがためにコストとかあるべきルールが分かりにくくなっているからです。

「コスト」はわかりますよね。とくに発電コストが重要で、本当は高い原発のコストを他のコストに混ぜ入れて「安く見せる」なんてこともできるわけです。「ルール」はわかりにくいですよね。全て一社がやっているので、他に携わっている会社がなく、送配電や電気料金設定などのルールが公平なのか正しいのかがわからない以前にどうなっているかさえわからないという状態だったのです。
だから、そのあたり、見える化しよう。そのためには、独占もやめてもらって競争原理を入れていこうということです。
客観的には大事なことですが、切り刻まれる方にとってはたまったもんじゃないですよね。私有財産とか憲法で守られているものを切り離されたり、自由に使えなくされたりするのですから。だからものすごい抵抗で、とくに電力会社の力の強い日本の電力自由化は、世界で一番遅れたのです。

スイッチ(電力会社切り換え)はまだまだ

さて、やっと日本でも電力システム改革の最後の仕上げである、電力小売完全自由化の段階になりました。一般消費者も電気を選べる、電力会社は分割されるのです。でも、既存の電力会社から新電力に契約を切り替えることを「スイッチ」と呼びますが、その割合はまだ全国で3%足らず。まだまだだなあという印象です。でも欧米でも、最初の1年目はこんなもので、日本の消費者がとくに遅れているというわけじゃありません。
問題なのは、電力自由化をスタートさせてからも、何やら激しく制度をいじっている政府です。去年、今年、来年・・とルールや制度が変わるんだと、消費者も安心して電気が選べませんし、作る方も売る方も、実は気が気でないのです。
この背景には、日本の消費者が、実は値段だけでなく「電気の質」を見極めて、ちゃんと電気を選ぼうという意識が高かったということもあるのではなかろうかと感じています。昨年、日本で大きな騒ぎになったのは、再生可能エネルギーの表示問題でした。

「表示問題」から見えた消費者意識の高さ

「表示問題」とは、FIT再エネは再エネとは呼ばせないという政府のお達しです。『FIT』というのは固定価格買取制度のことで、再エネの電気は特別に高く買い取るという仕組みのことです。買い取るのは電力会社なんですが、普通の値段より高くなる部分(差額部分)を負担するの電力会社でなく一般消費者です。電気料金として1kWhあたり2.25円なりで徴収されていて、全消費者が差額部分を負担して、再生可能エネルギーの普及を手助けする仕組みなっているのです。
政府はこれを持って、再エネの再エネたる価値(これを「環境価値」と呼びましょう)にお金を払っているのは消費者であって、電力会社ではない。したがって電力会社は再エネを売っていると称するのはまかりならぬ・・とお達ししたのです。お金を払った消費者には「環境価値」の「かけら」すらも渡されてはいないのですが。
「環境価値」はどこに消えちゃったんでしょう。ということはおかまいなしに、政府はFIT電気をCO2の排出量では「火力発電と同じ」にしてしまいました。ただ、CO2は高くても、それが再エネで作られた電気であることは事実です。消費者はFITであれ、原発でも石炭でもない再エネの電気を選びたいという一大運動を展開し、政府も「FIT電気」という表示は認めざるを得ないということになりました。「再エネ電気」だったら、もっと明確に消費者は選ぶに違いないということです。

消費者に「再エネ」を選ばせない・その1

そこで、政府は考えました。
消費者が「再エネ」を選べなくなる方法。その1は、再エネは電線につながない。太陽光であれ、風力であれ、発電設備ですから、電気を送る道である送電網につながないと役に立ちません。そこで、あれやこれや理由をつけて、再エネの送電網への接続制限をはじめました。
どうやったかというと、各電力会社のエリア内での需給状況を理由に、これ以上再エネはつなげないという限界量を決めたのです。「接続可能量」といいます。いまは「30日等出力制御枠」と呼んでいます。
これを決めたのは、電力小売完全自由化がはじまる前のことでした。それどころか、それに先立つ1年前、電力広域的運営推進機関(以下「広域機関」)がスタートする直前のことでした。広域機関は、各電力会社のエリアを超えて日本全体を一つとして需給調整をやろうという機関です。
エリアを超えてのルールを作ろうとしているときに、エリア内のルールをつくりその限度内に再エネを固定化したのです。これによって北海道や九州など再エネの最高の適地ではほとんど再エネ開発ができなくなりました。

実は日本は再エネの猛烈な資源国

の本の再エネの実力は、日本を4つ賄えるほどあります。とりわけ風力発電のポテンシャルがすごくて、これだけで日本の電力需要の4倍あります。太陽光発電で3分の1、小水力、地熱、バイオマス発電で5分の1くらい。


日本はエネルギー政策として2030年には、供給される電気の再エネ比率を24%にすることを掲げています。内訳は地熱1.1%、バイオマス4.8%、風力1.7%、太陽光7.0%、水力9.2%です(合計値は少し足りません)。これだけ発電量を確保するために必要な設備を算出してみると、風力は2メガのもので4525基。現在でも2000基ありますので、倍ちょっとにしかしないという計画。太陽光は7460万kWで、現在の設備認定量が8000万kWを超えていますので、もう上回っています。
つまり、この計画、いまからほとんど増やさないという計画なんです。それでも、風力発電を2倍にするには、送電網の増強などの取り組みが必要なんです。実はそれすらやらない・・というのが、消費者が「再エネ」を選べなくする方法・その2です。

消費者に「再エネ」を選ばせない・その2

送電網がなければ電気は運べません。その送電網は1種類じゃなくて、いろいろあります。ローカル線から大動脈の高速道路まで。原発みたいな巨大発電所の電気を大都市まで一気に運ぶのが50万ボルトの高速道路。一般家庭の周りを走っているのはローカル線の0.66万ボルト。太陽光発電や風力発電は、このローカル線につながっています。
間には2.2万ボルトや6.6万ボルトなど、いろいろな段階があります。ローカル線は末端で、一番細い道です。これまでは電気を上から下に流すだけで、この道の端っこから電気が送られてくることを想像していませんでした。
(海外ではとっくにそうなっているので、日本も想定しなきゃいけなかったんですが、あえてそうはしなかったんでしょう。)
で、太陽光や風力発電が増えると、この道がいっぱいになります。渋滞すると停電です。だからこの道にはもう入らせないというのが、送電網を所有している既存電力会社の考えでした。でも対策はあるのです。バイパスを2.2万ボルトへ、さらに6.6万ボルトにむけて作れば良いのです。これを「逆潮流」と言います。
「逆潮流」をさせるためには、それをコントロールする変電所が必要になります。変電所を作るにはお金がかかります。諸外国では、当然この費用は送電網の管理コストとして送配電の会社が負担しているのですが、日本では「よけいな」再エネが作られたための費用だとして、再エネ発電所が負担を求められます。たぶん、原子力発電所や石炭火力には、この費用は求めていないと思います。再エネにだけ、差別的に求める「嫌がらせ的」費用です。
小さな再エネ発電所では、この費用負担で設置コストが倍になることもあります。倍まで行かなくても、1.5倍でも、ほぼ建設は断念せざるを得ません。こうして、開発、建設段階で再エネをブロックしているのです。


原発の廃炉、事故処理費用の託送料金への転嫁

さて、どうしてこんなに再エネをブロックしたいのでしょう。日本は再エネの資源国というところで紹介した日本の2030年のエネルギー計画では、原発が22%、石炭火力が26%となっています。いま原発はゼロに近いです。これから再稼働を必死にしようとするのでしょうが、反対も大きいし、そもそも22%なんて再稼働だけではダメで新増設までやらないといけません。
他に発電方法がなければ、世論も「しかたない」となるのでしょうが、再エネはブンブンでアイドリングしています。なんでこっち使わないんだと言われると困るので、「いやー、こいつら送電線にもつなげないんですよー」と放置しときたいのです。
石炭火力も昨年のパリ協定の国際合意で、もう作っても動かせなくなるのは目に見えています。でも作るという裏には、原発22%があります。これで石炭のCO2をオフセットしたいからです。存在している発電所のCO2をオフセットするのではなく、オフセットする原発を作りたいがために石炭火力を強引に推し進める。本末転倒どころではなく、今の金儲けのためには、あとは野となれ山となれ、地球が終わってもその頃には俺やいない・・という思想です。
しかし、これだけブロックしても、原発は高コスト。福島原発事故の損害賠償、事故処理、廃炉費用は青天井で、どこまで増えるかわかりません。それがなくても、数万年という放射性廃棄物の処理処分コストは算定不能です。電力自由化の競争の中で、こんな電気が売れるわけないのです。
そこで、考えたのが、それらのコストの託送料金(送電網使用料)への転嫁です。冒頭に、電力会社の3分割の説明で、それは発電、送配電、小売のコストをそれぞれクリアにするためと書きました。いま、堂々とそれを破り、発電のコストを送配電に乗せるということが行われようとしているのです。


呆れ果てた「低炭素市場」もしくは「非化石市場」

それでも、再エネを選ぼうとする消費者が怖いと見えて、究極の作戦がでてきました。再エネ特措法の改正で、来年4月からは、FIT電気は送配電事業者買取となります。買い取られたFIT電気は例外を除き、電力取引市場に投げ込まれます。もう石炭も天然ガスも一緒に混じった電気になります。それならば・・ということでしょう。「低炭素市場」もしくは「非化石市場」というのを作るという構想が発表されました。
原発と再エネだけを混ぜた、悪魔のような市場です。誰がこんなところから電気を買うのでしょう。一方で「ベースロード電源市場」というのもつくられます。石炭火力、大規模水力、そして原発の三つで構成されます。うたい文句としては「安い」電気です。安定的な「安い」電気は既存の電力会社しか保有していないので、これを新電力にも使わせてあげるための市場ですよと。
この市場開設に伴い、常時バックアップという新電力の需給調整を助ける仕組みを廃止するので、新電力は嫌でも「ベースロード電源市場」から調達せざるを得なくなるだろうという魂胆です。
ちなみに低炭素とは「原発+再エネ」の合言葉。再エネではなく原発に重きがあり、再エネを汚すためのものだと思ってください。周辺に「低炭素」が現れたら要注意です。





それでも我々は再エネ発電所を作る

うーむ、ここまでやるか!と思われたでしょうか。
しかし、私たちはがっかりすることはないのです。原発再稼働はしょせんできません。事故や裁判や自治体選挙などが次々に襲いかかり、動いたり、止まったり状態でしょう。経済合理的な運転はできません。石炭火力は早晩、世界が禁止するでしょう。
どんなに道を塞いでも、溢れ出るエネルギーは動き出すのです。福島では、富岡復興メガソーラー30MWなんてのもはじまりました。福島には他にも、会津電力や、南相馬、飯館電力などつぎつぎに発電所が誕生しています。
新電力では、九州や北海道でも果敢に挑戦中。まあ簡単に言えば、原発が再稼動したり、石炭火力が動き出す前に、どんどん作って、先に送電網につながってやるぞ!という戦略。多少のコスト増なんて気にしない。妨害が多くて再エネ100%とはいかないが、再エネ魂は詰まっている。
もっと詳しく知りたい人は、そんな電気を売ってる新電力を、パワーシフトキャンペーンで調べて応援してください。

http://power-shift.org/choice/



タケちゃんの話をもっと聞きたいという方は

10月29日(土)、30日(日)
二子玉川ライズにて、竹村英明の「再エネ初耳学」にどうぞ。
二子玉川駅改札出て右側、「世田谷エネフェス」の会場にて行います。
10月29日(土)11時から
10月30日(日)13時から

http://www.city.setagaya.lg.jp/event/1993/d00148416_d/fil/enethirashi.pdf


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