竹村英明の「あきらめない!」

人生たくさんの失敗をしてきた私ですが、そこから得た教訓は「あせらず、あわてず、あきらめず」でした。

新電力事業が面白くなってきた

2024年12月31日 | 地域エネルギー
みなさん、今年も大変お世話になりました。
気がつけば、ブログ2つしか書いていませんでした。慌てて、せめてもの3つ目です。ブログを書けないのは忙しいからですが、今年2024年は新電力事業(電気の小売)グリーンピープルズパワー(GPP)のウェートが非常に大きくなったと感じています。もちろん、これまでもウェートは大きかったのですが、何が違うかというと、対等であった再エネ発電事業が「新電力事業の一部」のように感じられるようになったことです。24時間?新電力事業から離れられなくなった・・という感覚です。
新電力事業には、リアルタイムで電気を使われるお客様(需要家)、今や10人を超える数のスタッフの存在があります。供給する電気の確保、価格の安定、確実な支払、スタッフの給与の確保などなど、360度かつ多層にわたる現実対応の営みがあります。頭の中の理念と行動が、需要家やスタッフの平穏な営みとバッティングしたり、かけ離れた状態になってはいけないのです。具体的には資金繰りや人員補充、電気料金単価と営業拡大、再エネ(CO2ゼロ)拡大と需給調整の方法、政府審議会の議論と会社の長期計画など・・全てひとつながりで進行している感覚です。
ただ、神経衰弱ゲームのようなことを毎日しているのかというとそうではありません。業務量が多いが、任せられる人も増えてきたからです。ここを押せばここば動く・・というのが次第にわかってきて、おーこことここが繋がっていたのか・・というような発見もあり、毎日が楽しいとさえいえます。ただそんな「楽しさ」に没頭してしまい、ブログも書けず、肝心の電気を売る営業もできず、気がつくと「やばい!」状態かと。ともかくも今、新電力事業が面白いのです。苦しいけれど・・。
そんな1年を軽く振り返ってみたいと思います。
 
1、アースデーとソーラーツリー
 
昨年2023年のアースデーのために作ったソーラーツリー。子どもたちが手でさわれる発電所というコンセプトで世に出しました。最初の構想は竹村、設計は法政大学の島田先生、補強補修は所沢の吉野さん、そのほかたくさんの人の知恵と力が結集して出来上がり、維持されています。所有は市民電力連絡会で、一番使っているのがグリーンピープルズパワー(GPP)です。町田市民電力や「ワタシのミライ」、最近は「マルイ」と「みんな電力」でも使われました。どんどん使って欲しいと思います。
今年2024年のアースデーでは、「ワタシのミライ」エリアができて、ソーラーツリーがイベントスペースに置かれました。全イベントをソーラーツリーの電気で実施しました。気候危機に対する若者を中心とするアクション集団が「ワタシのミライ」です。アースデーも「地球のことを考える日」です。その日に、気候危機が大きな一つのテーマとして掲げられ、その真ん中にソーラーツリーがいたというのは、考えてみたら感動です。
代々木公園のアースデー東京には10万人近い人が集まります。エネルギーや環境のことを考えている人たちばかりではありません。貧困や健康のこと、ゴミ問題、リサイクルなど。今年は1月の能登地震を踏まえ、被災ボランティアやリフレ(どんな場所でも生きられる暮らし方)もテーマになりました。ウクライナやパレスチナ支援、そして難民問題もありました。社会問題のごった煮とも言えますが、それを来場者に伝えながら楽しんでもらう。この「楽」というのがとても重要な要素です。
何も知らなかった人が、音楽を聴いて、ブースサーフィンしているうちに、なんだか明日からの人生が変わっていた・・みたいな場所じゃないかと思います。2024年後半には被団協のノーベル平和賞、障害を持つ子どもたちの実行委員会への本格参加などもあり、2025年はまたひとあじ違ったごった煮になると思います。
 
ソーラーツリーイベントの様子
 
 
2、市原市の人たちとのつながり深まる
 
3月のGPP出資者ツアーは4月5日のブログで紹介しました。市原市の高滝湖のほとりの一角です。三つの発電所ができる予定ですが、最初の予定地には高滝湖第1発電所が完成しました。発電所の下はブルーベリー畑です。発電所着工前の8月10日、19日にはブルーベリー狩り(収穫ツアー)が行われました。参加者はのべで約20名。子どもたちもたくさん参加しました。
 
高滝湖第1発電所
 
まだ高滝湖第2、第3発電所が予定されています。この二つの発電所は蓄電池を併設する予定で、昼間に貯めた電気を夜にGPP需要家に供給します。市原市を南北に流れる養老川の途中を堰き止めて高滝ダムが造られ、高滝湖ができました。地域の人たちの元々の家も、多くの畑や田んぼもダムの底になっています。その小谷田地区町内会で発電所計画を説明し、ご理解をいただいた上で発電所着工しました。発電所の電気は災害停電時には、地域の人に使ってもらうつもりです。
小谷田地区を紹介してくれたのは、高滝発電所を作った高滝町内会の方々です。この方々に発電所の草刈を有料で年に数回行っていただくことになり、改めて町内会とは別の団体「おたすけ高滝」を立ち上げていただきました。その皆さんのネットワークのなかで小谷田の話が舞い込み、今また新たに大和田地区の発電所設置の話もはじまっています。
小谷田地区の高滝湖第2、第3発電所は蓄電池併設のためにコストが大きくなります。そこで東京都の都外PPA補助金の申請を検討していますが、そのためには市原市との災害時協力協定の締結が必要になります。これまで市原市と話し合うルートはそんなに太くなかったのですが、こちらも「おたすけ高滝」のみなさんの紹介で、市議会議員の方を通じ市原市危機管理課との協議が実現しそうです。
市原市には「チバニアン」と命名された地球の地磁気逆転を証明する地層露出もあります。養老川の河岸で、その一帯は元々太平洋の海の底で、川を歩くと海の貝の化石が次々見つかるというところです。川底は青緑色で、あちこちに小さな穴(窪み)があるのが特徴です。隈研吾さんの設計になるガイダンス施設が再来年あたりにできる模様です。市原市湖畔美術館もおすすめで、ちょっと足を伸ばすと、市原市を出ますが養老渓谷もあります。発電所の周りは見どころ満点。これからもツアーをどんどん組んでいきますのでお楽しみに。
 
チバニアン
 
3、オーガニックライフスタイルエキスポとエコプロ展
 
秋から冬にかけては、毎年2つのイベントに出展します。10月のオーガニックライフスタイルエキスポ(OLE)と12月のエコプロダクツ展(エコプロ)。OLEはメイドインアースというオーガニックコットンのお店が主催するエリアでブースを出します。エコプロでは「Be Good Café」という団体が主催するエリアでブースを出します。
小売電気事業者なので、電気を売るブースですが、ブースで電気を売ることはほぼできません。みなさん、電気を街角で買う(契約する)というのには抵抗があるようです。電力自由化以降は、メール1本、電話1本でも電力会社を変えることはできるのですが、電気は洋服を着替えるようにはいかないと思われているのでしょう。
OLEではそれにあえてチャレンジし、三人の新規顧客を獲得しました。顧客でありOELに出店されている和食レストラン「きじま」さんの協力で、新規電気契約者に「きじま」さんのお弁当プレゼントと打ち出してみた結果です。三人のうち二人は、ブース出店されている方で、実は毎年お顔を合わせているうちに、気にしていただいていたということ。その導入が「お弁当」になりました。毎年やると名物になり、人気になるかもしれません。
OLEでもそうでしたが、電気契約の申し込みよりも電気を買ってという発電事業者さんからの相談が実は多いです。エコプロでもそうで、だんだんと非FIT発電所の「行き場所」がなくなってきていることを感じさせてくれます。GPPのような買い手がいないと発電所が作れない、再エネが伸びなくなるということですが、逆説的にいうと、GPPユーザーになればそんな生発電所の電気の直送が受けられるということです。そんなユーザーが大きく増えれば、再エネ発電所も大きく増えることになります。この関係を最後の「再エネ発電所いちば」で書きます。
エコプロ展は室内ですが、あえてソーラーツリーを展示してみました。なんだろうと思ってきてくれる人も多く、ついている太陽光発電パネルが薄型パネルなので、これはペレブスカイトですかという質問がとても多かったです。去年まではペレブスカイトは、ほんの一握りの人しか知らなかったのではと思いますが、政府が旗を振ることの効果は大きいなあと思います。
 
エコプロ展のソーラーツリー
 
4、2度にわたる南三陸と陸前高田訪問
 
今年(2024年)5月、とても久しぶりに南三陸と陸前高田に行きました。もともと東日本大震災のとき、「つながりぬくもりプロジェクト」を立ち上げて重点支援した地域です。支援とは、長期停電で電気のない地域に太陽光の電気を届けることでした。避難所となっているところに太陽光パネルを抱えて、簡易的蓄電池と一緒につけて回ったのです。その費用をプロジェクトとして集め、たくさんのボランティアメンバーがパネルをつけてまわりました。太陽の熱を届ける太陽熱温水器支援にも広がり、バイオマスの熱を届けるボイラー・ストーブ支援もやりました。
全部で200箇所を超える避難所に支援を行い、2016年頃に一度その後の状況調査に行きましたが、それから8年です。南三陸の宮城県漁協志津川支部戸倉出張所(以下「戸倉漁協」)のパネルは今も健在、現役で働いていました。被災から12年で、すでに営業を終えられた施設もありましたが、南三陸の津の宮荘、陸前高田の米崎保育園、登米の「手のひらに太陽の家」など太陽光発電は健在でした。
ただ「手のひらに太陽の家」の太陽熱温水器やバイオマスボイラーは壊れて使えなくなっており、設置後のアフターケアの重要性を感じました。使えなくなった機器が屋根や土間を占領しており、対策が必要です。今年はできませんでしたが、来年にはなんらかの手を打ちたいと思っています。
戸倉漁協では震災を挟んで起こった牡蠣養殖のドラマを聞きました。震災前は漁業者が争って海いっぱいに牡蠣筏を置き、小さな牡蠣しか獲れませんでした。津波でそれらが一掃され、絶望的な状況の中、翌年は大きな牡蠣が育ったのです。牡蠣筏を減らせば、良質の高く売れる牡蠣が作れるのではないか。しかし漁業者の権利は簡単に減らせません。とことん話し合って、3分の1に牡蠣筏を減らしました。すると翌年、以前の3倍もある大きな牡蠣が取れたのです。まるでプロジェクトX、日本初のFSC認証をとった牡蠣養殖のドラマです。
8月には、この戸倉漁協も含め、もう一度南三陸と陸前高田を訪れることになりました。震災後に陸前高田で太陽光発電事業を立ち上げた陸前高田しみんエネルギーの実践を見るツアーのためです。参加者には、陸前高田だけでなく、改めて戸倉漁協の話を聞いてもらい、手のひらに太陽の家を見てもらいました。
 
戸倉漁協の太陽光発電
 
陸前高田しみんエネルギーのソーラーシェアリング
 
5、建築ジャーナルと能登ツアー
 
今年は「建築ジャーナル」という雑誌に「たけちゃんが行く」という連載が始まりました。毎号1ページだけの小さな企画ですが、竹内昌義さん、黒岩哲彦さんとの対談がそれぞれ3ヶ月に分けて収録されています。黒岩さんとの対談のとき、雑談の中で能登震災の話をしました。震災で壊れたお寺の再建は可能かという話です。実際に見なければ判断はできないということで、見に行こうということになりました。そのお寺は、かつて私が泊めていただいたことがある塚本さんのお寺ですが、ご本人は再建の意思はないとのことで、一旦この話は終わったのです。ただ私が能登半島の「地殻変動」を実際に見てみたく、連絡を取った珠洲市の北野さんに、短時間でも珠洲を案内していただけないかとお願いして、無理やりお邪魔することになりました。すると黒岩さんも行きたいということになり、建築ジャーナルの発案者で記事を最終的にまとめているGPPスタッフの山口さんを含め三人の弾丸ツアーになりました。
能登の報告は本来、もっとちゃんとスペースを取ってやらないといけないのですが、北野さんに案内していただいたいくつかの写真をお見せします。家が倒壊している写真はみなさんたくさんご覧になっていると思いますが、道からマンホールが1m以上飛び出している写真はどうでしょう。復興が進まない・・と言われる能登でも、さすがに道がこれでは車が通れないので、この時点でマンホールはかなり撤去されたのだとか。これは隆起ではなく地盤沈下も大きかったことを示しています。(これをタイトル写真に入れました。)
能登半島の右側(東)が沈下し、北と西(左側)が隆起しました。北野さんは珠洲市にあった二つの原発計画を止めた人ですが、その一つ寺家の炉心予定地だった海岸に案内してもらいました。高さ2mくらいある岩場が出現していました。原発が計画された時には遠浅の砂浜だったそうです。
 
寺家の海岸隆起
 
続いて、高屋の原発予定地を見ました。こちらは設計図まではできていなかったということですが、海岸が白く眩しく見えました。隆起した岩場についた牡蠣殻が広く光って見えるようでした。この辺りは2mの隆起ですが、輪島の先の黒島漁協では最大の4mの隆起と聞き、翌日向かったのですが、まだ九州にいるはずの台風9号の風雨がものすごく、危険を感じて断念しました。最近のニュースでは、5.5mの隆起も確認されたとかで、一瞬の動きでこんなにも大地は動くのかとびっくりです。写真は高谷の「ひじき棚(ひじきを栽培する海の畑)」です。2m以上の隆起で、こんもり山のようになっています。地震前は、ここが海水面だったことを示しています。
 
高谷の海岸隆起
 
高谷は塚本さんのお寺があるところで、お寺も見させていただきました。本堂は倒壊しておらず、母屋が倒壊していました。塚本さんは海岸近くの仮設住宅に移られていました。仏教の教えには建物は必要なく、お寺を再建するとなると檀家の皆さんに大変な負担をかけることになるので、お寺再建は考えていないよと静かに語られていました。同じようなお話を、最近の東京新聞でも語られていました。「心が折れる」という特集でしたが、心なんて折れてないよと。
十数年前まで原発賛成と反対で真二つに割れていた珠洲市。北野さんによれば、原発建設が中止になった時、反対派は大喜びせず、推進派の人たちのことを思い「原発」という話題を封印したそうです。それで良かったのか今も考えている・・という北野さんの言葉。詳しくは「建築ジャーナル」1月号に載りますので、そちらをご覧ください。
 
6、PPA事業と再エネいちば構想
 
最後に2025年いちばんの大仕事になるであろう「再エネいちば」について書きます。おそらく今後、何十MWというような巨大メガソーラーは日本では作れないだろうと思います。反対運動もありますし、送電線への連系が難しいでしょう。政府が積極的に送電網を増強すれば可能性もありますが、「幸いにして」望み薄です。連系が可能なのは、「市民電力」が作るような低圧分散型の発電所で、一つが50kW未満のものです。これとて、大きな土地を区画して作ると分割案件と称して連系は認めません。持ち主がバラバラの小さな土地が。発電所に向いているのです。
その条件を満たすのは「農地」です。多少広くても過積載の低圧にできます。問題はそんな発電所を計画しても、電気を買う新電力がいなければ建設はできないということです。全国のことは分かりませんが、GPPが電気を供給しているエリアでは、発電所の電気を買う新電力がいなければ、送配電会社は連系を認めません。おそらく全国同じだろうと思います。
したがって、何が起こっているかというと、かなり多くの会社から、小さなGPPに「電気を買ってくれないか」という相談が来るようになったということです。GPPはすでに需要量を2倍くらい上回る発電所と契約しています。昼間は余った電気を市場に売らざるを得ない状況で、これ以上電気を買い取ることはできません。
もし発電所と需要家を同時に増やすことができたら、この悩みは解消します。発電所が2倍になっても、需要家が2倍になれば無駄に電気を市場に売ることはなくなります。そして、特定の発電所を特定の需要家につなぐPPA(電気の直接販売=産直)という手法は、発電所単位で需要家の問題を解決できる方法です。問題はどうやって需要家を見つけたら良いのか・・ということです。
そこで発電所と需要家がお見合いをする「マッチングサイト」が作れないかと考えました。需要家サイドの団体に聞いてみると、あちらはあちらで、どこに行ったら再エネの電気が手に入るのかわからなくて困っているとのこと。サプライチェーンの中で、なんとしても再エネ電気を確保したいのにという話です。それならば、このマッチングサイトのニーズは大きいはずです。こうして構想されたのが「再エネ発電所いちば」です。
来年4月には、実際に「マッチングサイト」(いちば)を立ち上げ、発電所建設に繋げていきたいと思っています。
 
再エネ発電所いちばの図
 
以上、2024年を振り返りました。
新電力事業としては、今年本格稼働の代理店制度のこともありますし、PPA手法を活用した「再エネダイレクト」メニューのこと、あるいは容量拠出金や燃料費調整額のこともあります。第7次エネルギ基本計画のことも触れたいです。これらは、来年回しですが、できるだけ早々に発信したいと思います。
まずは今年1年お世話になりました。また2025年もよろしくお願いいたします!
 
 


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