町田徹氏の『東電国有化の罠』(ちくま新書/2012年6月)を読んだ。原子力損害賠償支援機構が原発事故被害者の救済ではなく、加害者である東京電力を救済し存続させるための仕組みであることは私自身もかねてから指摘している。事故後間髪を入れずに打ち出され、まだ世の中が原発事故のなりゆきに戦々恐々としている時期にさっさとこんな仕組みを考えたのは一体誰なんだと思っていたが、その答がこの本で垣間見えてきた気がする。
この本は4つの章で構成されている。第1章は「誰が東電を守ろうとしたのか」。まさに、私の聞きたい「誰がこんなものを考えたんだ」に対する答である。第2章は「国民負担のための国有化路線」。国有化という名の、すべてを国民(税金と電気料金)に押し付けるという、この仕組みの本質が示される。第3章は「電力と国家、混迷の原点」として、間違いのもとになった原因と筆者が指摘する原子力損害賠償法の問題点。第4章は「日本にのしかかる巨大債務」というタイトルで、このままでは、これによって日本は破滅に向かうだろうという予言。
誰が東電を守ろうとしたのか
3月というのは通常の企業にとって決算の月である。東電にとって、原発事故が3月11日に起こったということは最悪の事態だった。直ちに3月末の2011年度決算がやってくるが、事故収束のための費用、被害者への損害賠償などを想定すると莫大な費用となり、この時点で東電は完全に破綻することが明らかだった。かりに赤字決算で乗り切ったとしても、6月には社債の返還時期が来る。通常は借換債で資金を調達し変換を行うが、事故後に東電に債券を発行する金を貸すところなどない。こんな会社に金融機関は危なくて融資もできず、東電は一気に破綻となる・・はずだった。
ところが3月下旬、東電メインバンクの三井住友銀行を中心に金融機関7行が2兆円の緊急融資を行なう。これによって、東電は最初の危機を切り抜けるのだが、その背景で何がうごめいていたのか。「東電国有化の罠」から抜き出して年表形式で並べてみる。
2011年
3月11日 東日本大震災、福島第一原発事故
経産省、財務省、金融庁の間で東電破綻を回避するための協議。
経産省が潰さないという方針。潰すと電力政策の誤りが明らかになる。
その工作を三井住友銀行に託す。当初、財務省は認めず、金融庁がしぶしぶ認めたとされる。計画停電の常態化を恐れたという間違った認識に基づく判断。
3月18日 東電取締役会、取引銀行に緊急融資の要請
3月23日 関係者協議がまとまる。東電に2兆円緊急融資の報道。
3月25日 奥野三井住友銀行会長と松永経産省事務次官の会談。
三井住友銀行6000億円、みずほコーポレート銀行5000億円、三菱東京UFJ銀行3000億円、中央三井信託銀行、住友信託銀行、三菱UFJ信託銀行、みずほ信託銀行の4行で5000億円の緊急融資実施。
4月5日頃 古賀茂明氏「東電処理案」。東電破綻処理、株主、貸手責任を問う。
同時期 「車谷ペーパー」(旧三井銀行常務)。将来にわたり東電存続。原発版「預金保険機構」の新設提案。
4月13日 経団連米倉会長が「車谷ペーパー」の援護射撃。
4月14日 奥田三井住友銀行会長が全銀協会長会見で原賠法3条の免責条項を上げ、国の支援を求める。
4月15日 日経新聞が1面トップで「原発賠償へ保険機構案-政府検討」記事。
財務省は一般会計に影響がある税金の出し方はしない。国が機構に貸与する交付国債は直接的な財政負担につながらないと考えた。賠償の免責は認めず、賠償額の上限設定も認めない。(三井住友銀行の思惑からはずれる。)
4月25日 東電要望書。「原賠法3条の免責条項も可能」
4月26日 東電がアナリスト説明会。避難住民への仮払いも1200億円(原賠法の定める保険金額)の内訳として対応。つまり、それ以上払うつもりはない。
5月2日 参議院予算委員会 福島社民党党首に枝野経産大臣が「東電の賠償に上限なし」と答弁。(東電の思惑とは食い違い)
5月13日 東電救済を菅内閣の閣僚懇談会で了承。(政策決定ではないパフォーマンス)
内閣法制局が支援機構法案は憲法違反と指摘していたため閣議決定にできなかった。他電力会社から支援機構への拠出金が憲法違反で、他電力会社から訴訟を起こされたら勝てないと。その後に、経産省が各電力に「訴訟は起こさぬ」と約束させクリアする。
5月20日 東電、連結決算の発表。1兆2473億円の最終赤字。
5月25日 東電の連結決算に新日本監査法人が最高ランクの「無限定適正意見」。
これで東電は3月決算を乗り切れた。追記条項で「重要な不確実性あり」と書きながら、最高ランクとは。
以上、町田氏の分析によれば、原子力損害賠償支援機構という東電救済策は、発案は経産省、脚色は財務省、実行部隊は三井住友銀行で実現した。金融庁の黙認が必要だったため、これは経産省や財務省が「騙して」「追いつめた」可能性あり。これに経団連の応援、さらに菅内閣までが協力して出来上がったものである。
ここまで「その1」。「その2」では事実上の国有化路線に突き進むステークホルダーの主導権争い。乞うご期待。
この本は4つの章で構成されている。第1章は「誰が東電を守ろうとしたのか」。まさに、私の聞きたい「誰がこんなものを考えたんだ」に対する答である。第2章は「国民負担のための国有化路線」。国有化という名の、すべてを国民(税金と電気料金)に押し付けるという、この仕組みの本質が示される。第3章は「電力と国家、混迷の原点」として、間違いのもとになった原因と筆者が指摘する原子力損害賠償法の問題点。第4章は「日本にのしかかる巨大債務」というタイトルで、このままでは、これによって日本は破滅に向かうだろうという予言。
誰が東電を守ろうとしたのか
3月というのは通常の企業にとって決算の月である。東電にとって、原発事故が3月11日に起こったということは最悪の事態だった。直ちに3月末の2011年度決算がやってくるが、事故収束のための費用、被害者への損害賠償などを想定すると莫大な費用となり、この時点で東電は完全に破綻することが明らかだった。かりに赤字決算で乗り切ったとしても、6月には社債の返還時期が来る。通常は借換債で資金を調達し変換を行うが、事故後に東電に債券を発行する金を貸すところなどない。こんな会社に金融機関は危なくて融資もできず、東電は一気に破綻となる・・はずだった。
ところが3月下旬、東電メインバンクの三井住友銀行を中心に金融機関7行が2兆円の緊急融資を行なう。これによって、東電は最初の危機を切り抜けるのだが、その背景で何がうごめいていたのか。「東電国有化の罠」から抜き出して年表形式で並べてみる。
2011年
3月11日 東日本大震災、福島第一原発事故
経産省、財務省、金融庁の間で東電破綻を回避するための協議。
経産省が潰さないという方針。潰すと電力政策の誤りが明らかになる。
その工作を三井住友銀行に託す。当初、財務省は認めず、金融庁がしぶしぶ認めたとされる。計画停電の常態化を恐れたという間違った認識に基づく判断。
3月18日 東電取締役会、取引銀行に緊急融資の要請
3月23日 関係者協議がまとまる。東電に2兆円緊急融資の報道。
3月25日 奥野三井住友銀行会長と松永経産省事務次官の会談。
三井住友銀行6000億円、みずほコーポレート銀行5000億円、三菱東京UFJ銀行3000億円、中央三井信託銀行、住友信託銀行、三菱UFJ信託銀行、みずほ信託銀行の4行で5000億円の緊急融資実施。
4月5日頃 古賀茂明氏「東電処理案」。東電破綻処理、株主、貸手責任を問う。
同時期 「車谷ペーパー」(旧三井銀行常務)。将来にわたり東電存続。原発版「預金保険機構」の新設提案。
4月13日 経団連米倉会長が「車谷ペーパー」の援護射撃。
4月14日 奥田三井住友銀行会長が全銀協会長会見で原賠法3条の免責条項を上げ、国の支援を求める。
4月15日 日経新聞が1面トップで「原発賠償へ保険機構案-政府検討」記事。
財務省は一般会計に影響がある税金の出し方はしない。国が機構に貸与する交付国債は直接的な財政負担につながらないと考えた。賠償の免責は認めず、賠償額の上限設定も認めない。(三井住友銀行の思惑からはずれる。)
4月25日 東電要望書。「原賠法3条の免責条項も可能」
4月26日 東電がアナリスト説明会。避難住民への仮払いも1200億円(原賠法の定める保険金額)の内訳として対応。つまり、それ以上払うつもりはない。
5月2日 参議院予算委員会 福島社民党党首に枝野経産大臣が「東電の賠償に上限なし」と答弁。(東電の思惑とは食い違い)
5月13日 東電救済を菅内閣の閣僚懇談会で了承。(政策決定ではないパフォーマンス)
内閣法制局が支援機構法案は憲法違反と指摘していたため閣議決定にできなかった。他電力会社から支援機構への拠出金が憲法違反で、他電力会社から訴訟を起こされたら勝てないと。その後に、経産省が各電力に「訴訟は起こさぬ」と約束させクリアする。
5月20日 東電、連結決算の発表。1兆2473億円の最終赤字。
5月25日 東電の連結決算に新日本監査法人が最高ランクの「無限定適正意見」。
これで東電は3月決算を乗り切れた。追記条項で「重要な不確実性あり」と書きながら、最高ランクとは。
以上、町田氏の分析によれば、原子力損害賠償支援機構という東電救済策は、発案は経産省、脚色は財務省、実行部隊は三井住友銀行で実現した。金融庁の黙認が必要だったため、これは経産省や財務省が「騙して」「追いつめた」可能性あり。これに経団連の応援、さらに菅内閣までが協力して出来上がったものである。
ここまで「その1」。「その2」では事実上の国有化路線に突き進むステークホルダーの主導権争い。乞うご期待。
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