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もう一日、『マッサン』の話です。
それは、モノづくりに携わる者として強烈に心に残る場面でした。
戦争から帰ってきたマッサンの甥が、ウイスキーとは似ても似つかぬ
三級酒が横行している風潮を嘆くマッサンに、
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「酒に…本物も偽物もなぁでしょう。
祖国に着いて、何年ぶりに酒を飲んだ。うまかった。涙が出た。
その酒を…叔父さんは偽物じゃ言うた!
本物って何ですか!?わしにとっちゃあの三級の酒が本物じゃ!
偉そうなこと言うて高い酒造っても今の日本人は誰も飲めん!
飲めん酒なんぼ造っても、そりゃ造っとらんのと同じことじゃ!」
と心の叫びをぶつける。
それを聞いたマッサン、
「わしゃこの国に…新しいウイスキーの時代が来ることを信じて、
やり続けてきた。これからも今までどおり、本場に負けん
美味いウイスキーを造り続ける。
じゃけど…大事なことを忘れとった。
命の水じゃ。ウイスキーの語源はゲール語の命の水に由来するんじゃ。
わしゃこれまで三級酒はウイスキーじゃなぁ思うとった。
じゃけど…悟の話を聞いてよう分かった。命の水に本物も偽物もなぁ。
一級も二級も三級品もなぁんじゃ。
みんなに飲んでもらえる安うてうまいウイスキーを造るために、
わしゃ…これから頑張る」
でも、安くても、香料も着色料も一切使わない美味しい三級ウイスキーづくりは
難航を極めます。
そんな時、北海道を訪ねてきた、代々造り酒屋を営んでいるマッサンのお父
さんが、
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「一つ言えるとすりゃ肝をつかむんじゃ。
わしゃ、ウイスキーの事はさっぱり分からんが味も色も香りも
全部いっぺんに何とかしよう思わんで、まず、肝を決めて、
それをつかむんじゃ。
わしの場合は米じゃった。
その米を、肝に据えたんじゃ。この米の良さを最大限に生かせる
麹はどれじゃいうて。改めて麹を探し始めたんじゃ」(笑)
このアドバイスをもとに、マッサンは三級ウイスキーの肝になる、原酒を
ブレンドする時にその中心に据える原酒、つまりキーモルトを探し始め
ました。
そうしてついに香料も着色料も一切使わない、安いけど美味しい三級ウイスキー
を完成させ、社運を懸けた、試飲会を開く事になりました。
そこに、オール巨人演じる大阪の百貨店の社長が登場します。この社長、
以前マッサンが作ったウイスキーを酷評した人です。
ひと口飲んだ澤田は、
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「あんた…変わったな。
前にあんたの造った酒を飲んだ時には、この酒を造った人間は
独り善がりやなと思うた。日本で初めてウイスキーを造った事
自体に酔うとるなとそう感じたわ。
せやけど、これは違うな。この酒は…伝える酒や。
あんた、造る時にお客さんの顔を見ようとしたやろ?
伝えたい思いを込めたやろ?」
「うまいわ!はっきり言うて今の日本にこれだけうまい三級
ウイスキーは他にはない。
このメイド・イン。ジャパンはな、きっと時代を変える。
あんた…新しい時代作ってしもうたな」
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これにはマッサンも大喜び。
しかしそれで満足してしまうマッサンではありませんでした。
「ありがとうございます。
じゃけど…わしゃ、これでは終わりません。
この三級ウイスキーは、わしにとっても、この国にとっても
一つの通過点です。いつかわしゃこの日本に…本物のウイスキーの
時代を作ってみせます。その日が来るまで…わしゃ絶対諦めません!」
作り手がつくりたいものをつくり、自分ひとり満足してしまう。
ありがちな姿勢です。
しかし『命の水』というウイスキーの原点に立ち返って、新しい時代を
切り拓く三級酒を作った。
かと言って、それで満足することなど決してなく、将来の日本の復興を
信じて、いつか来るその時に求められる次のなるウイスキーの開発を
目指す。
『i機』づくりを目指す我々ISOWAにとって、忘れちゃいけない
ことだと感じたので、もう1回『マッサン』ネタとなりました。
そうですね。最後になって、やっとマーケティングに覚醒した
ってことでしょうね。
それに反して、鴨居の大将は最初からマーケティング。
対照的でしたね。