よんたまな日々

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「THREE/臨死」 林巧

2007年09月06日 | 読書
ピアノレッスンに味を占めて買った林巧の二冊目です。
三つの中篇からなっているので、THREEです。
一つ目は、韓国が舞台で、人食い鬼が住むという雑木林を開いて作られた高層マンションに越してきた、幸せいっぱいの新婚夫婦を襲った恐怖の出来事みたいな感じの話(相変わらず、相当不正確です。)
二つ目は、タイが舞台で、戦時中に捨てられた天才的な人形師が作った人形が、戦後別の人形劇団に拾われる。特に出色の出来の魔王の人形が、それを操ろうという人達に次々と不幸を引き起こす話。
三つ目は、中国が舞台で、警察官の父に連れられて廃墟となりつつあるマンションに引っ越してきた坊やが、同じマンションに暮らす謎の男の子供らしき赤い服の女の子と親しくなる。謎の男は、女の子が目に入らないように完全に無視しながら、毎日疲れ切った表情で、大量の茶色い液体を処分する。女の子は何者で、彼が処分している液体の正体は一体何者なのか。みたいな感じの話です。

二作目は、ストーリーがシンプルでひねりがなく、人形ネタホラーというのも面白いのですが、ややありきたりな感じがしました。
一作目も、ストーリーを整理してしまえば、結構シンプルなのですが、時間軸のシャッフルの仕方のうまさ。特に最初に奥さんが記憶喪失の状態で、気がつき、自分が何者なのか、自分の家族はどこにいるのか、そして幸せに暮らしていそうな自分の持ち物や、外の風景にも関わらず、周囲を歩く人々がなぜみんな人食い鬼と化しているのかという、そのギャップの描写が面白く、一方奥さんを失くした旦那が、崩壊していく家族の状況を嘆きながら、行方不明の奥さんを探しているが、果たして無事出会えるのかというスリリングな状況描写で読まされます。
ショッキングな(でも何となく予想できそうな)ラストシーンで、きちんとある種のカタルシスをもたらしてくれるところもなかなかいいです。
背景や細かい描写が、経済的に日本に追いつきつつある韓国らしさを感じるところもちょっと面白いです。

三作目は、ホラー系のネタとして仕込まれているのが、二つ(数え方によっては三つ)あって、そのホラーに巻き込まれるのが、お父さんが離婚していて、しかも仕事で忙しく、誰も住んでいないマンションで一人暮らさないといけない不安な子供の視点で一つ目の恐怖を、そして、子供を守らないといけない、警察官として不正と戦わなければならない父親の視点から二つ目の恐怖を描いている、これも小説の構成の面白さがよく効いています。
住民の少ないマンションの恐怖というのは、山田太一の「異人たちとの夏」などで印象的に描かれていますが、みんなが逃げ去った後の廃墟と化したマンションを舞台にするところや、写真館をうまくネタとして使うところが妙に中国くさくて面白かったです。

アジアのエキゾチックな恐怖が楽しめるということでお勧めの作品です。文学性とかテーマの重さという点では微妙ですが、エンターテイメントとしてよくできています。


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