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「格差という虚構」小坂井敏晶

2022年06月07日 | 読書

久しぶりに読書で一冊読み終えました。


私自身の問題意識として、経済格差による階級の固定化が進み、高学歴、高収入となる階層が親世代の拡大再生産となっていること。結果として、能力のある若者が、貧困家庭に生まれた場合に能力に応じた活躍が出来ずに、社会の活力が低下してしまうこと。

この問題意識自体が虚構だと喝破した本である。

最近、「親ガチャ」という言葉が流行し、どの親の下に生まれるかで、自分の一生が決まることを嘆く風潮がある。私は、「そんなことはない。日本は平等で学歴に対して開かれた社会で、勉強さえすれば、高い学歴を手に入れ、誰でも逆転のチャンスがあるんだ。」と言いたくなる。

これに対し、著者は、平等とは何か?能力とは何か?遺伝の影響は?努力できる人と努力できない人の違いは?
格差の定義は?格差は解消すべき?
などと根源的な問いを投げかけ、学歴社会に内在する搾取の仕組みについて、現代哲学や最近の科学的知見を引いて、明らかにしていく。

京極夏彦は、妖怪を、納得できない社会現象や自然現象を説明するための、社会的な装置と見破ったが、本書を読むことで、我々も前世紀の迷信家たちを笑えない、平等、能力主義という根拠のない神話を信じて来たことを思い知らされる。

引用される論文は難解で、読み切るのに知的体力のいる本であったが、問題意識を共有している著者からの渾身の哲学的問いかけに、愚昧暗迷たる私も幽かに開いた扉の先に知性の煌めきを感じた気がしました。

本書の最終版で、釈尊に、死んだ我が子を生き返らせて欲しいと望む母のエピソードが紹介され、印象的でした。


心に言葉が入る隙間を空ける【坊さんのナムい話・23】

私もさまざまな葬儀に接しますが、年齢が若いほど悲しみが深いことが多いようです。特にわが子を失った悲しみは特別です。私もひとりの親として...私もさまざまな葬儀に接し...

西日本新聞me

 

私たちは初めから答えを知っている。ただ、その答えが、知りたくない答えであれば、どうしても目を逸らせてしまう。
誤った彷徨から戻るには、百万の言葉ではなく、一つの行動が納得への道を開くのではないだろうか。

明治以降、多くの人の希望となって来た、平等主義能力社会という社会装置が逆に人を疲弊させている。きっとまだ目に見えていないだけで、新たなパラダイムが目の前に来ていると感じた読書体験だった。

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