我が家はセトゥーバルで一番最初に朝日が当たる。
と言っても東側には殆ど窓がなく、広―い壁になっているため、その壁に朝日が当たるのだ。
武本比登志油彩画「ポルトガルの町並」(F20)と文章は関係ありません。
只、浴室の小さな窓だけは東側に開けられていて、そこからなら日の出も朝日も拝むことが出来る。
それと北側と南側にあるベランダに出れば、どちらも東側にも向いていてそこからも日の出と朝日を拝むことも出来る。
たいていは日の出前に目が覚める。レースのカーテンはそのままにし、カーテンを開ける。ベッドに横になりながら、ベランダの手すりの桟を眺めていると、そのアルミの桟の東側の面が茜色に照らし出される。日の出だ。
それっとばかりに浴室に行き、日の出を拝む。
居間も寝室も東側に広い壁があり、それをもしぶち抜いたならばセトゥーバルの街全体が見渡せ、朝日も煌々と降り注ぐのだが、建築基準上それは出来ないらしい。
以前に知り合いになった人が建築中の家を買った。建築途中なので「こちらに窓を作りたい」と申し出たのだが、「建築設計基準上それは出来ない」と断られた。と言う話も聞いた。ポルトガルは結構、建築基準法に厳しいのだ。
セトゥーバルは南にサド湾とトロイア半島、そして大西洋の水平線。
東側にモンテベロの丘の住宅地と工場地帯。
西には我が家もそこにあるのだが、アヌンシアーダの丘の住宅地とサン・フィリッペ城とそれに続くアラビダ山。
そして北側にパルメラの丘とパルメラ城。
それらが取り囲むようにしてセトゥーバルの中心市街地がある。
モンテベロの向こう側の地平線から朝日が真っ赤な頭を覗かせる。日の出だ。
我が家の浴室から撮影した日の出(2024年7月19日6:25撮影)
点から線になり、まあるい、まるでフライパンに卵を落とした如くぷるぷるっとした楕円形になり、そして全体が姿を現す。一瞬だ。
まるで日の丸の如く真っ赤な時もあるし、プラチナ色に輝いている時もある。そして黄金色に燃えさかって、もう直視できない時もある。日によってそれも様々なのだ。
別に宗教的な気持ちはないのだが、思わず拝みたくなる。
それも二拝二拍手一拝をきちんとして、ごにょごにょと願い事を唱えたりする。
真っ先に朝日が当たる我が家をことのほか気に入ってはいるのだが、アニマルズの『朝日の当たる家』は刑務所とか少年院を歌った歌だったのだ。それもアニマルズが最初ではなく、アメリカで古くから『Rising Sun Blues』として、歌われ続けてきた歌なのだ。
男が歌えば刑務所か少年院として歌われ、女性が歌えばそれは娼館となる。
『The House of the Rising Sun』The Animals
There is a house in New Orleans They call the Rising Sun
And it's been the ruin of many a poor boy
And God, I know I'm one
My mother was a tailor
She sewed my new blue jeans
My father was a gamblin' man
Down in New Orleans
Now the only thing a gambler needs
Is a suitcase and trunk
And the only time he'll be satisfied
Is when he's all drunk
Oh, mother, tell your children
Not to do what I have done
Spend your lives in sin and misery
In the House of the Rising Sun
Well, I got one foot on the platform
The other foot on the train
I'm goin' back to New Orleans
To wear that ball and chain
Well, there is a house in New Orleans
They call the Rising Sun
And it's been the ruin of many a poor boy
And God, I know I'm one
高田渡は曲調を変え独自の節回しで歌っている。
『朝日楼』詩・曲:高田渡
ニューオリンズに女郎屋がある、人呼んで朝日楼、
たくさんの女が身を崩す、そうさあたいもその一人。
母ちゃんの云うこときいてたら、今頃は普通の女、
それが若気のいたりで、博打打に騙された。
あたいの母ちゃん仕立て屋で、ブルージンなんかをこしらえる、
あたいのいい人吞み助さ、ニューオリンズで飲んだくれ。
呑み助に必要なものは、スーツケースとトランクだけ、
あの人の機嫌のいいのは、酔っ払っている時だけさ。
グラスに酒を一杯にし、じゃんじゃん飲みまわす、
この世で一番の楽しみは旅に出ることさ。
可愛い妹に云っとくれ、あたいの真似するなと、
ニューオリンズに近寄るな、あの朝日楼へ。
妹に後ろ髪を引かれ、汽車に乗ってくあたい、
ニューオリンズへ帰っていく、あの囚人の暮しに。
ニューオリンズへ帰ろう、命ももう尽きる、
帰って余生を送ろか、あの朝日楼で。
ニューオリンズへ帰ろう、朝日がもう昇る、
帰って余生を送ろか、あの朝日楼で。
そして、決して囚人の暮しではなかった、この『朝日の当たる家』で30年余りを暮らした我々は、あと2か月足らずでお別れをしなければならない。
武本比登志