和文仏教聖典 価格:¥ 525(税込) 発売日:1996-02 |
一つのたいまつから 何千人の人が火をとっても たいまつはもとのとおりであるように 幸福はいくら 分け与えても滅るということがない
「一つのたいまつから~」はわかりやすく現代語訳されているので説明する必要もありません。けれど一つだけ気になることがある。種火となったたいまつは火を分け与えても減りはしないけれど、上手に炎をコントロールする努力をしないと灯りを持続させることはできない。炎をもらったほうも、慣れない灯火をうまく燃やさないと消えてしまう。幸福って、はかなくて危ういものなのでしょう。
出典は『四十二章経(しじゅうにしょうきょう)』という経典です。どういう経典かというと、紀元一世紀頃に翻訳されて、漢字で表された最初の仏教経典らしい。禅の書物、『寶林傳』にも引用されている経典なのですが、原典から引用してきたかというと、恥ずかしながら、孫引きです。参考にしたのは、仏教伝道協会編『仏教聖典』の138ページ。『仏教聖典』と聞いてなじみがなくても、ホテルの部屋に置いてある、オレンジ色の仏教の本と言えば、「見たことある」という方もおられるのでは!
仏教伝道協会の活動はホームページでも見ていただくとして、協会のHPには載っていないおいしい情報を少しばかり。
何がおいしいかというと、仏教伝道会館(東京都港区芝)の2階にある「菩提樹」という精進料理の中国料理店が美味しいのです。肉や魚を使わず特別な材料と工夫をするので、価格は少し高いかもしれない。「かもしれない」と書くのは食事をしたことはあるのですが、自分では払ったことがないから。だれが支払ったかというと、今夏6月に急逝された故松原哲明師にご馳走していただいたことがある。
哲明師といえば以前、小学生にこんなミニ法話をしていたのを思い出しました。場所は北軽井沢の坐禪堂。お堂には坐禪用の布団が並べられて、線香がたかれて、ロウソクがともされていた。そのロウソクを見ながら哲明師が小学生にこんな話しをした。
「見てごらん。ロウソクのともしびを。ロウソクは身をけずって、汗だらだら流して、まわりを明るくしているから、美しいんだよ。ロウソクのように生きられたらと思うし、そんな風に生きてみないか!」
もう、十数年も前のことだから、あの時の子どもたちはいくつになっただろうか。あの時の話しをたぶん憶えていないだろうけれど、かたわらにいた私には忘れられない小話です。
さて、近頃はいろいろと工夫され細工をほどこされて、汗も流さないし身もけずらないロウソクがはぶりをきかせているけれど、あれは風情がない。燃え尽きずに減らないものばかりを見ていると、すべてのものは変わることなく永遠だ、なんて錯覚してしまう。だから、松岩寺の本堂にあるのは汗を流して身をけずる昔ながらのロウソクです。昔ながらのロウソクですから、ときどき掃除して芯など切ってやらないと綺麗にともってくれない。ロウソクも幸福もはかなくて危ういものなのでしょう。