写真 千田完治
ずいぶんと昔のことになりますが、学校のテストに『陰翳礼讃』と書いてなんと読むか。そんな問題があったような気がします。「いんえいらいさん」が正解です。
「翳」の字はまず書けないな。書けないばかりか、谷崎潤一郎(一八八六~一九六五)の『陰翳礼讃』を知らなければ、読むのも困難な熟語では。
作家は冒頭のことばの前に次のよう書いています。
「夏など、まだ明るいうちから点灯するのは無駄である以上に暑くもある」。
そして、暑さを消すわざとして、「自分の家で四方の雨戸を開け放って、真っ暗な中に蚊帳をはってころがっているのが、涼を納れる最上の法だと心得ている」。
またまた、読み方テストです。「涼を納れる」の「納」はなんと読むのか。漢和辞典を引くと、「納」の字には、「いれる」という読みがあるので「リョウをイれる」と読むのだろうか。
『陰翳礼讃』は昭和八年に書かれた随筆のようだけど、その頃作家は神戸市に住んでいたのだろう。四方に雨戸がある部屋なんていうのは、どんな部屋なのだろうか。そんな部屋を開け放して、蚊帳をはって寝るなんていうのは、物騒な現代では防犯上からもできないし、そもそも蚊帳もない。
私は蚊帳をかろうじて、知っている世代ですが、蚊が侵入してこないほど、ちいさな編み目の布を天井からつりさげるわけで、蚊も入ってこないけれど、風も入ってはこない。四方が開いているような部屋ならば、風が通って涼しいだろうけれど、恐くて落ちつかないから安眠なんてできないだろうな、と思う。
さて、八月は月遅れのお盆です。お盆の風習というのは、地域で千差万別。民俗学の研究材料の宝庫なのでしょうが、松岩寺では、八月十三日の未明に提灯をもって墓地へ行き、盆迎えをする。これって、珍しいのではないかなぁー。ゆれる提灯のともしびに、しみじみと哀れを感じるのは、まわりが暗いから。LED電球に照らされて明るいなかでは、味気ない。お盆でお仏壇に灯明をつけることも多くなる季節。まわりを暗くして、ろうそくの灯りを楽しんでみては。でも、くれぐれも火の要慎。つけっぱなしは厳禁です。