〈もとの経文〉
願以此功徳(げんにすくくんてい)普及於一切(ふぎゅうおーいしい)
我等与衆生(ごてんいしゅんさん)皆共成仏道(かいきゅうじんぶどう)
〈和訳〉
願くはこの功徳を以て、普く一切に及ぼし、
我らと衆生と皆ともに、仏道を成ぜんことを。
〈超訳〉
人びとがみんなきっとすみきった心を持てますように
開甘露門の世界―お盆と彼岸の供養 | |
野口 善敬 | |
禅文化研究所 |
八月は月遅れのお盆です。七月十五日が正式なお盆の月日ですが、俳句歳時記
はお盆を秋の季語に分類しています。旧暦と新暦と入り乱れて訳がわからなく
なってしまった。訳がわからなくなってしまったけれど、一ヶ月遅れのお盆の
方が雰囲気がでます。
そのお盆のことばを何にするか少し悩みました。去年が『子ども俳句歳時記』
からの一首で、一昨年も池田澄子句集から。その前の年は青山俊董師の寸言。
というわけですから、今年は経文の超訳にしました。お盆によまれることが多
い『開甘露門』というお経があります。よくよまれるということは、その意味
を解けば、仏教がお盆をどう考えているかがわかります。
『開甘露門』の結句に普回向とよばれる漢字五字四行の一節があります。冒頭
に掲げた〈もとの経文〉です。これを普通は書き下して〈和訳〉とします。
〈和訳〉の漢文書き下しても何となくわかるのですが、何となくわからないの
は「功徳」という言葉と「仏道」です。これをもう少しかみ砕かないと、つま
らない。経文の〈超訳〉といえば半年前に紹介した伊藤比呂美さんがうまい。
というわけで、調べてみたのですが、比呂美訳「普回向」はなさそうです。
で、しょうがないから比呂美訳「観音経」で「仏道」を、「きっとすみきった
心」と訳していたので、それを拝借して「願以此功徳普及於一切我等与衆生皆
共成仏道」を「人びとがみんなきっとすみきった心を持てますように」と訳し
たわけです。
「I love youは「月がきれいね」とでも訳しておけばいいんだよ」と言ったの
は夏目漱石だったとか。そんな『開甘露門』訳をだれか早く出してくれないか
なぁー、と思うお盆です。