ろうげつ

花より男子&有閑倶楽部の二次小説ブログ。CP :あきつく、魅悠メイン。そういった類いが苦手な方はご退室願います。

父さん頑張れ 2

2020-05-17 09:53:43 | 父さん頑張れ(総つく)
美作邸にお邪魔した総二郎が目にしたものは、穏健な人物として名高いあきらの父親である肇と、ふんわりとした空気感を持つあきらの母親、夢子の姿であった。
二人は並んでソファに腰掛け、来訪者である総二郎を招き入れた。

「急に悪かったね、総二郎君」

「いえ、大丈夫です」

「あきら、誰にも気付かれなかったかい?」

「ああ。その点は、オフクロに念を押されてたから大丈夫だ」

「だ、そうだ。安心していいよ、ママ」

「・・・そう」

あきらの父親である肇は兎も角、母親の夢子のそっけない態度に違和感を覚えた総二郎は、隣に立つあきらに耳打ちした。

「なあ。お前のカァチャン、何か機嫌悪くねぇか?」

「みたいだな」

「何かしたか?俺」

「俺が知る訳ないだろ。少なくとも、お前を迎えに行く前までは普通だったぞ」

息子のあきらでさえも、母親のこの素っ気ない態度に戸惑いを覚えているようだ。
普段の夢子ならば、にこやかな笑顔で応対するはずなのに、今に限って言えば笑顔の「え」の字もない。
笑顔どころか無表情で、総二郎をじっと見据えている。
まるで、総二郎の一挙手一投足を見逃さぬように。
そんな夢子の姿を目の当たりにした総二郎は、常ならぬ雰囲気に少し焦った。
しかし、持ち前のポーカーフェイスが幸いしたのか心の動揺を悟られる事なく、肇に勧められるがまま、向かい側のソファにあきらと一緒に腰掛けた。


「家の方は大丈夫かな?総二郎君」

「はい。西門の家を出てマンションで一人暮らししてますし、そもそも独身ですから気兼ねする相手がいませんよ」

「そうか。じゃあ、話が長くなっても大丈夫だね」

「はぁ・・・」

「分かった。では遠慮なく、時間を使わせてもらうよ」

但し、話があるのは私ではなくママの方だけどねと前置きしてから、肇は夢子に主導権を委ねた。

「・・・」

「・・・」

「・・・総二郎君」

「はい」

「まず先に聞いておきたい事があるの。正直に答えてもらえるかしら」

「はい」

「若宗匠を名乗る事を固辞しているそうね。それは、次期家元として扱わないで欲しい。後継者から外して欲しい。そう捉えていいのかしら」

「はい」

「若宗匠を名乗らない事と、家元が薦める結婚を断り独身を貫いている事。その二つは関連性があると思っていいのね?」

「はい」

「では何故、次期家元を放棄して独身を貫いているの?それだけは答えて、総二郎君」

「アイツに会えるかどうかは、俺の答え次第って事か」

「答えられないの!?」

いとど鋭くなった夢子の語気と視線に、躊躇うどころかそれを真正面から受け止め、不適な笑みを浮かべた総二郎は、力強くこう言葉を放った。


「俺には牧野つくしが必要だ。牧野以外はどうでもいい。牧野しかいらねぇ。今の環境を全て切り捨ててでも、アイツと一緒になる。見つけたら二度と離さねぇ」

「その言葉に嘘偽りはないわね?取り敢えず、つくしちゃんに会いたいからって、口から出任せを言ったんじゃないわね?」

「俺が嘘偽りを言ってるのかどうか、美作社長夫人なら見抜けるだろ?逆に見抜けない様なら、美作商事の行く末も危ういもんだな」

「・・・」

夢子を挑発するかのような言葉を発する総二郎に、何か危ういものを感じたあきらは、二人の仲立ちをしようと口を開きかけたのだが、父親である肇に手で制されてしまった。

「二人とも、そのくらいにしなさい。少し冷静になったらどうだね?」

「でもパパ!」

「総二郎君の言葉に嘘偽りはない。それは美作商事の社長である私が保障する。だろ?総二郎君」

「はい」

「ママは私の言葉が信じられないかい?」

「そんな事ないわ!ただ私は───」

「分かってるよ。牧野さんの事を思うが故、総二郎君に敢えて厳しい態度で挑んでるって事くらい」

「パパ・・・」

「ママだって本当は分かってるんだろ?総二郎君の牧野さんに対する想いが本物だって事に」

だったらここは、建設的な会話をする為にも一歩引こうじゃないか。
そう穏やかに諭す肇に、夢子は苦笑いを浮かべながら頷いてみせた。
そして、向かい側に座る総二郎に『熱くなってごめんなさい』と一言謝ってから、話を切り出した。

「もう察しはついてると思うけど、つくしちゃんに関する情報を押さえてたのは、パパと私よ」

「・・・はい」

「でもね、全く情報が流れないのも不自然だと思って、少しだけ細工したの」

「!?」

「つくしちゃんに関わると、彼女が危険に晒される。F4に娘を嫁がせたい親から、危害を加えられるって」

「なっ!」

「総二郎君もその可能性があると思ってたんでしょ?だから慎重に動いた。そして、私達が細工した情報を耳にし、更に慎重に情報収集をしてた。違う?」

「何でそんな事をしたんだよ!そんな細工がなけりゃ、もっと早くアイツを見つけられた。7年も無駄な時間を過ごす必要もなかっただろ!」

どれだけ必死になって探してたと思ってる!?
アイツに危害が及ぶと思い表立って探せず、どれだけ歯痒い思いをした事か。
そんな俺を、アンタ達は陰で見て笑ってたのか!?
この7年、仕事の合間を縫ってアイツを探してた時間は何だったんだ。
ふざけんなよ。俺の7年、返してくれよ。
そう言葉を放って激昂する総二郎に、夢子は表情を崩す事なく口を開いた。

「細工しなかったら、大っぴらに動いてたでしょ?総二郎君も類君も司君も。そして、あきら君も。それだけは避けたかったの」

「何でだ?」

「美作家以外、つくしちゃんに好意的じゃないから」

「っ!」

「自分の息子が牧野つくしを探してる。その事を知った親御さん達がどう動くのか。それが分からなかったから、ありとあらゆる手は打っておきたかったの」

「・・・そこまで慎重にする必要があんのか?」

「あるわ」

「何でだ?」

総二郎からの鋭い眼光を事もなしに受け止めた夢子は、軽く瞑目してから意を決したかのように、こう言い放った。


「つくしちゃんと、つくしちゃんの子供を守る為よ」