大助は、隣に寝そべって漫画本に笑い転げているタマコちゃんの愛用の布袋からお菓子を取ろうとして、漫画本に夢中になって布袋に手を伸ばしたところ、彼女の胸をまさぐる様に偶然手が当たり、不意をつかれた彼女がビックリして
「ナニヨッ エッチ!」
と声を上げて彼の頭を叩いたので、彼は
「イテテッ マチガッチャッタ ゴメンヨ」
と彼女の手を払い、彼女が
「今度は、何が欲しいの、もう、お煎餅しかナイヮ」
と言ってお煎餅を出して渡すと、彼は相変わらず本を見ながら美味そうにパリパリと音をたてて食べていた
珠子は、二人の仕草を見ていて呆れてしまい、美代子の顔を覗き気まずそうに苦笑して
「ホレッ!ごらんの通りで、高校に進学するとゆうのに、あの有様ょ」
「なんだか、頼りないようで悲しくなっちゃうゎ」
と呟くと、美代子は
「そんなことないゎ」
「わたしには、歳下の女の子を相手に上手に遊んであげている様に思え、彼の優しさがよく判るゎ」
と、珠子の弟思いの優しい心を察知すると、それまでの珠子の対する恐怖心を忘れるかの様に、彼を庇って笑い、珠子さんのサンダルを借りて、忍び足で彼に近寄っていった。
大助は、本に夢中になっていて、美代子が近ずいて来たことに気ずかずにいたが、タマコちゃんが突然スットンキョウナ金切り声で
「ダイチャン!大変だア!!」
「外国の女優さんがコッチに近寄って来たヮ」
と叫んで、周囲をキョロキョロ見回して
「ネ~ェ 大ちゃん、わたし達、映画かテレビにでも写されているの?」
と、ビックリして落ち着かない目をして彼に聞いていたところ、美代子が笑いながら静かに彼の傍らにしゃがみ込んで
「大ちゃん、今日わ。面白そうな本を読んでいるのネ」
と聞き、タマコちゃんにも愛想よく微笑んで
「わたしも、お仲間にいれてネ」
と言ったので、彼も驚いたような顔つきで
「アレッ! いつ来たの?。今日来るとは聞いていたが、時間までは・・」
と返事をしながら、読んでいた本を慌てて閉じると恥ずかしそうに苦笑いした。
美代子は、足を横崩しにしてスカートのはしで膝を隠して彼の傍らに腰を降ろすと
「明日、ミッションスクールの入学説明会や寮の見学に行くの」
「その前に、お爺さんの言いつけで、君のお母さんと珠子姉さんに御挨拶に寄せてもらったのょ」
「母と節子小母さんは、お部屋でお話しているゎ」
と、上京目的を説明したあと続けて、青い瞳を輝かせて
「これで、君の親も認めてくれた、お友達になれるのょ」「わたし本当に嬉しいわ」
と、彼に一層身体をすり寄せて微笑んで言うと、その話しぶりに安心したのか、傍で聞いていたタマコちゃんも人なつこく恥ずかしげに
「ワタシ タマコ トユウノ ワタシモ オトモダチニ シテネ」
と、愛嬌のある可愛い顔で自分を紹介していた。
美代子が、「イイワヨ ナカヨクシマショウネ」と、タマコちゃんの手をとって親しみの篭った優しい声で返事をして
「いま、なんの本を読んでいたの?。面白そうに笑っていたじゃない」
と、タマコちゃんを誘い込む様に問いかけたところ、人なつこいタマコちゃんは
「お姉ちゃん、スゴーク綺麗だけれども、何処の国のひとなの」
と聞いたので、彼女は
「イギリスョ、だけど、私は日本人ョ」
と答えたら、タマコちゃんは判った様な判らぬ様な顔をしていたが、大助が
「ソンナ目で俺を見るなよ。ホントウダヨ」
と言うと、お茶目な彼女らしく
「お姉ちゃん、”恋ばな”って知っている?」
と、彼等の意表を突くように思いもよらない質問を浴びせ、続けて
「わたし達、同級生の女の子が集まると、必ずこんな話でワ~ァ ワ~ァ騒ぎだして、賑やかになるんだけれども」
「大ちゃんは、全然、判らないので、いま、わたしが、本で教えているのョ」
と、漫画本を見せながら話したので、美代子は
「アラッ ソウナノ。 鼻下に少し髭も生えているのに困ったお兄ちゃんね。今度は、わたしも、教えるようにするゎ」
と、やっとの思いで答えると、好奇心旺盛なタマコちゃんは、なおも探求の手を緩めず、あどけない顔をしながらも
「アノゥ~ お姉ちゃん、大ちゃんとキスをしたことある?」
と聞いたので、美代子は彼女の鋭い質問に躊躇したが
「ウ~ン チョコットネ」
と言いかけて、彼の頬を突っいて、小さい声で囁く様に
「話してもイイカシラ」
と聞いたので、彼は首を横に何度も振ってダメッと合図して
「タマちゃん、僕達はそんなこをしていないよ」
と、慌て気味に言ったところ、美代子は彼の横腹を強くつねったので、彼は
「イテ~ェッ! たとえ相手が小学生でも正直に話すことないじゃないか」
と言うと、美代子は
「アラッ 私達の間では、恥ずかしいことではないと思うけれども・・。嘘を言うことは良くないゎ」
と、ムットした顔で反論したが、タマコちゃんの二人を見ている観察眼は鋭く
「いま、大ちゃんの顔が茹蛸の様に赤くなったヮ」「ワタシ キイ~チャッタ キイチャッタ」
と叫んで手を叩き、獲物を獲った様に喜んだので、彼は
「タマちゃん、外国の映画にあるように、お姉ちゃんの生まれたイギリスでは、挨拶代わりに当たり前のことなんだよ」
「だけど、日本では違うんだよ」
「このお姉ちゃんの言ったことを勘違いして、珠子姉ちゃんやほかの人には絶対に言うなよ」
「タマちゃんを信じているからナッ!」
とヤットの思いで抗弁すると
「タマちゃは可愛いお姫様だョ」「今度、多摩川遊園地に連れて行ってあげるからサ」
と、精一杯御機嫌をとってタマコちゃんの思考を撹乱しようと、心にもない思いつきのお世辞を連発して、美代子の話を否定するのにやっきになって答えていた。
美代子は、彼の汗だくの弁解を聞いていて、彼の周囲の人達の前では、性については、そうゆうものかと、案外、開放されていると思っていたが、実際は自分の考えていたこととは随分乖離があると思い知らされ、それ以上彼とタマコちゃんの話に口を挟むことはしなかった。
タマコちゃんは、大助の説明に納得がいかず疑わしい目をしていたが、彼の巧みな話に吸い込まれ、二人の顔をジーット見つめていた。
美代子も、陽気で純真なタマコちゃん相手なら、今後も二人の仲を心配することはないと気が安らいだ。