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あの川、は、北上川で、いつもは眼下に見下ろすカタチなんだけれど、夏になると、なんだか仕事が忙しくなってくると、そこの、水面に浮かぶことになっていて、大抵は僕は遅れて、夜になっちゃってるんだけど、みんなが出来上がってから合流して、特に近況を報告するでもなく、フワッと入り、プシュッと手近のビールを開けて、寝床を作り、残してあった夕餉にありついて、夜の声が響き始める時には、僕の声も夜の声になっていて、そのうち自由に解散する。
次の朝は大抵寝坊をして、遠くに聞こえるみんなの声をBGMにして、そっから30分ぐらい寝るのが気持ち良かったりして、さも今起きたばかりを装って朝飯の輪に交じる。
慣れているから、朝飯の後は片付けが早いので、大体はいつの間にか水面に浮かんでいるけど、岸を離れるときはやっぱり「嗚呼ぁ!」と思うのは毎年の夏の恒例で、漕ぎ出す瞬間は、旅立ちのそれを思い出させてくれる。真面目でも不真面目でも、真面目な人間でも、不真面目な人間でも、川はちゃんと下流に運んでくれる。大体、同じ速度で。そんなことを、人生のなんちゃらに例えたいけど、ま、いいや。
川はそんな風に流れていて、僕はその上に浮かんでいるんだけど、陸の上では車やトラックが走り、どっかへ行く人たちが自転車をこぎ、歩きやすい靴をはいた人と、歩きにくい靴を敢えてはいている人が日差しを避けながら歩いていて、手をつなぐ理由がある人と手をつなぐ理由が無い人が手をつないで歩いていて、農作業している人が手を休めている。そんな対比を眺めながら、強烈に思う。
「ほ~ぉ…」
毎年思う。強烈に、思うよ。
水鳥を沢山見ることになるけど、一向に名前は覚えない。逃げ方が下手な鳥には名前を付けたくなっちゃうけど。
景色は大別して、水、木、空、木、たまに橋、鳥、たまに民家、橋の残骸、水路、地層、大きな石といった感じ。どれかの知識があればもっと楽しめるのかもしれないけど、どれから手をつけたらいいか分かんない。下流から上流を見るとたまに慣れ親しんだ山々が見える。その景色が好きだ。
ちょうどいいところで、上陸して、昼飯と夕餉の買い出し。張り切ってお酒を買い込むのは、誰もが一緒。
焚き木を拾い集め、遊びながらも夕餉と夜の暖の火力を確保。ビールは2本目。何処にも無い料理と何処にでもあるアルコールをぐいぐい進めて、またまた自由に解散。 「最高だなぁ…」 「最高だよ」 静かな水面のようにフラットな関係のクルー!?年齢や肩書って、なんだろね?!もしかしたら、名前すらも要らないかもしれない。長年連れ添った夫婦に例えてしまって、下手くそだ、と、気付いた。
旅が終わるころ、彩雲というものに出くわした。
大きな奇跡なのか、小さな奇跡なのか、もうどうでもいい。