<学術論文>
藤田英樹・前川久男・宮本信也・柿澤敏文(2010)注意欠陥/多動性障害児の刺激定位の被転導性における動機づけの影響に関する予備的研究―動機づけの自己調節困難と外的補償の2重の影響について―.障害科学研究,34,169-177.
http://ci.nii.ac.jp/naid/40017175560
<要旨>
被転導性とは「気が散る」ことであり、ADHDの主要な不注意症状である。ADHDの被転導性は「気が散る」原因を除去しても必ずしも改善せず、「気が散る」ものがあるために、却って成績が改善する場合がある。つまりADHDの被転導性は「低下」と「改善」のパラドキシカルな2重の性質を明瞭に示している。被転導性についてのこの2重性質はADHDの大きな特徴であり、理論的解明が課題であった。
本研究では、ADHDの被転導性は、ADHDの2つの動機づけ特性、すなわち1)動機づけの自己調節困難、および2)外的刺激により得られる動機づけによる補償によって生じていることを仮説とし、この仮説を心理学実験により実証した。さらにADHDの2つの動機づけ特性が注意制御のトップダウンとボトムアップに対してそれぞれ組み合わさるようにして作用し、それによりADHD児の被転導性の2重性質が生じることを理論モデルとして図解した。
ADHDの被転導性とはすでに研究者の関心が低下していた過去の研究テーマである。しかし被転導性に対して関与する要因が少ないため、ADHD特性が明瞭に現れた。ADHDの動機づけ特性に関するこの理論モデルは、ADHDの被転導性だけでなく、反応抑制やワーキングメモリなどに対しても適用可能な中核メカニズムであると思われた。