注)濃い目の描写あります。お子様はご遠慮くださいませ。 . . . 本文を読む
有名百貨店の特設フロアーで有名な画家の個展が開かれていた。日本画家として名前が通っているが、中国を始めアジア諸国に造詣が深いその画家はしばしばシルクロードをテーマにした作品を描くことも知られている。今回はそのシルクロードを描いた作品を中心に展示しているという事だった。
日曜日に宏美はその個展を訪れた。開店して間もない時間だったが、師走の百貨店は賑わっていた。もっとも上の階に行くほど人の数は減り . . . 本文を読む
金曜の夜。残業を終え、宏美が会社を出たのは九時を回っていた。今までならどこかで田牧と落ち合って、食事を取ることが多かったがそんな事は当分ありえない。田牧は定時に帰宅していた。かといって、今からマンションに帰って夕ご飯を作ろうかという気にもなれなかった。
ぷらぷらと宏美は駅に向かって歩き始めた。どこかで一人寂しく食事を済ませよう。なるだけ寂しさを感じないような場所がいい。話し相手が欲しかった。
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何処までも続く薄い茶色の砂の世界。遥か地平線の彼方まで広がる砂漠は定規で引いたような直線で青い空と分けられている。その狭間でゆらゆらと揺らめきながら幻のオアシスが浮かんでいる。もう少し歩けば、そこに辿り着く。そんな期待を旅人に抱かせながら、ゆらりゆらりと誘うように、揺らめくのだ。
わかっている。いくら歩いたって、そこに辿り着く事は出来ない。一歩近づけば、一歩遠ざかる。乾いた身体に心に残酷な夢を . . . 本文を読む
それは突然やって来た。それも唐突に。彼は食事の最中だったが、はたと手を止めると、遥か天空へと目を凝らした。
お前の番が来た。行かなければならない。
何処へ?
高みへと、高みへと、行き付く処まで。
その声が何処から聞こえてくるのかすらわからなかった。自分の中から聞こえてくるようでもあり、遥か天上界から降り注いでくるようでもある。いや、もはやその声の主の所在など、彼にとって問題ではな . . . 本文を読む
そろそろ結婚しなくちゃいけない。ユリアがそう思ったのも無理はない。そろそろ三十歳が近くなってきた。それほど結婚願望が強い方ではないけれど、子供は産みたい。死ぬまで一人っていうのはやっぱり寂しいような気がする。そうだな、やっぱり結婚しよう。
ユリアは結婚相談所へ登録する事にした。昔は恋愛結婚が主流だったようだが、最近はそんな賭けみたいな事はしないのだ。理想の相手を探して、理想の子供を産む。そのた . . . 本文を読む
私が私であった頃の最後の記憶は、あの人の泣き顔と、私の喉にかかるあの人の指の感触、そして意識が暗闇に吸い込まれる直前に聞こえたあの人の声。
「後から逝くから……。必ず逝くから」
その声を聞きながら私は泣いた。泣きながら、逝った……。
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駅前のバスのロータリーの真ん中に、桜の巨木が立っている。十年前に駅前の再開発が始まった時、伐採される予定だった . . . 本文を読む
秋になり、大きな商談が一つまとまった。分室上げてのささやかな祝いに皆でいつもの居酒屋に繰り出した。
無礼講のアットホームな宴会で、僕の隣にはまだ新人臭さの抜けない若い女子社員と、例のオバチャンが陣取っていた。僕を挟んで、女の子とオバチャンはテレビの話題で盛り上がっている。どうやら最近ブームのスピリチュアルとかなんとか言う話題らしい。
「前世ったって、アンタ、美人のオネエチャンだったとかならいい . . . 本文を読む
注)ちえぞー倫理委員会R15指定作品
若干スケベェ(笑)なネタですので、ご注意下さい。
屋根の上はお日様がいつもたっぷり降り注いでいるから、瓦はぬくぬくで快適だ。寒い冬が少し一息ついたようなこんな晴れた日は、特に極楽状態。
ミュウは思いっきり両手を前に伸ばした後、今度は後ろ足を伸ばした。足先から頭の先まで心地よい緊張がぷるぷると筋肉を伝わっていく。なんとも言えない爽快感。ミュウは大きなア . . . 本文を読む
冷たい硝子窓の向こうに広がる空は、どんよりと重たい雪雲で覆われていた。ガタガタと戸袋の雨戸を揺する強い風に電信柱が物悲しげに唸っている。
びょおおおお
びゅうううう
聞きようによっては人の悲鳴にも聞こえる風の音を聞いていると、僕の頭は何か得体の知れない圧迫感に苛まれる。外からの圧力ではない。脳の奥の方から、深い深い海の底から、押し込めていた「何か」が出てこようとするのだ。それも訳のわか . . . 本文を読む
足がすくむような、切り立った断崖の上から、娘は足元を見下ろした。遥か下の方に細い谷川の流れが見える。谷から吹き上げてくる強い風に煽られて、娘は思わず後ろに下がった。
鬼泣き山……。うっかり入り込んだ者は二度と出てこられないと言われている。村人は勿論の事、旅人や怖いもの知らずの行者でさえも、この山に入るのは恐れていた。風の強い日にはそら恐ろしい唸りが山から響いてくる。あれは鬼の泣く声だと、村人は . . . 本文を読む
そろそろ冷たい北風が吹く季節になってきました。夏の間セミがいっぱい鳴いていた桜の木も、葉っぱの色が赤や黄色に変わって、風が吹くたびカサコソ言いながら地面に落ちていきます。おうちで飲む冷たい麦茶が美味しくなくなってきて、かわりにココアやホットミルクが飲みたくなるのです。そして、もうすぐ楽しい日がやってきます。そう!クリスマスです!!
日曜日の朝、モモカちゃんのお母さんが言いました。
「今年の . . . 本文を読む
のぶは夢を見た。妙に生々しい夢だった。
夢の中で、のぶは玄関の土間の掃除をしていた。ふと、表に人が立つ気配がして、のぶは振り返った。
そこには一人の男が立っていた。黒い洋装に身を包んだ、長身の男だった。
のぶは思わず、持っていた箒を取り落とした。
男はその端正な顔立ちに、照れたようなばつの悪そうな表情を浮かべていた。しばらく言葉を探していたが、やがてにやりと笑ってみせた。
「姉さん・・・。 . . . 本文を読む
私はその鳥に足環をつける
小さな細い足にキラキラ光る銀のリング
そして鳥は大空へ放たれる
陽の光にリングをきらめかせながら
鳥は一心不乱に
飛んでいくだろう
まだ見ぬ希望の地へ
いつか目指す地に辿りついた時
その鳥を見た者は気付くだろうか
見知らぬ土地で
見知らぬ誰かがつけたそのリングと
そこに込められた 密やかな祈り
いつかきっとこの地に還っておいで
私のこの . . . 本文を読む
移籍してからも雅博の芝居への情熱は変わらなかった。ただ、舞台以外の仕事が入るようになった。テレビのエキストラに毛の生えたような端役もあれば、テーマパークでのアトラクションでの小芝居なんていうのもあった。
「なんでも屋だね。」
雅博はそういって笑っていたが、決して満足している訳ではないのはわかっていた。舞台が好きなのだ。牧子にもそれが痛いほど伝わってきた。しかしなかなかチャンスはめぐってこなかっ . . . 本文を読む