冬と春の境目。昼と夜が同じ強さの日。全ての境界が曖昧になるお彼岸。そんな朝、不思議な夢を見た。
夫が運転する車に乗っていた。
外は山道、それもずいぶんな雪。夜なのか昼なのか、よくわからない時間。
私は後部座席でうとうとしながら心の中で明日の仕事の心配をしている。こんな遠くに今頃なんで行かなきゃならないのか……。仕事に間に合わなくなったらどうするんだろう……。
車は辺鄙な山奥の街にたどり着いた。
民宿のような宿に入りながら私はまだ仕事の心配をしている。
夜なのか、昼なのか、やっぱりよくわからない。
寝ているのか、起きているのかもなんだかよくわからない。
そうだ、同僚に電話しよう。この調子じゃきっと仕事には間に合わない。
夫と一緒に出先にいるんですけど、ちょっと今日中に帰れないかもしれなくて、明日送迎が入っているんだけど、間に合わないかもしれないので調整を……。
そんなことを言いながら、ふと思う。なんで夫と一緒に出先なんだ? 夫はもういないはず。ここはなんだ? 私、何してるんだ?
幽体離脱した魂のように体が家の中をくるくるとさまよい、そして外へと私は向かった。
大きなきらきら光る海があった。風が強い。
海には遊ぶ人たちがたくさん。でも私は海は嫌い。
街の中にはたくさんの人がいる。辺鄙な街のはずなのに、結構たくさんの人でにぎわっているようだった。
いつの間にか人の群れの中にいた。
ふと隣を見ると、数年前に亡くなった芸能人がいた。
あの方、Y.Tさんですよね?
ええ、そうですね。
…あなたも亡くなってるんですか?
いや、私はまだです。見送りに。
そんな会話を交わしながら、前を見ると、そこは船着き場のようだった。
人の群れは二つに分かれていく。船に乗り込もうとする人と、それを見送る人。
私はその場にとどまりながら、前へと進む人たちを見る。
その中に夫がいることを感じていた。姿も見えないし、声も聴こえないけど、船の乗客の中に夫がいることを確信していた。
金色のまぶしい日の光が乗客達を照らし、包み込む。
ああ、帰っていくんだ……。
そこで目が覚めた。
薄暗い部屋の中は夜のような、朝のような、曖昧な蒼い闇で満たされている。枕もとの時計は三時五十分。
ああ、船はきっと四時ちょうどに出るに違いない。
そうだ、今日は22日。お彼岸だった。そして昨日の晩は息子のサッカーチームの卒団式。息子以上に一生懸命だったサッカーチームの宴会にきっと出席しにきていたのだろう。
そう思うと無性におかしくなって、一人でくすくす笑い出す。笑いながら、そのうち泣いていた。なんだかよくわからないけど、無性に涙が出て、子供みたいに声を出して泣いていた。悲しいというのでもなく、切ないというのでもないのだけれど…。
死んでから行く世界はきっといつも隣にあるのだ。直線上、同じ平面上に存在するのではなく、別の次元の存在で、背中合わせにある。普段はきっと見えないのだけれど、冬と春の境がぼやけ、昼と夜の境界が曖昧になるあわいの季節にはきっと二つの国を隔てる境界線も淡く曖昧なものになるに違いない。
瞼がひりひりするくらい泣きながら、妙にのどかな気持ちで春が来るのだなぁ……などと思った。
夫が運転する車に乗っていた。
外は山道、それもずいぶんな雪。夜なのか昼なのか、よくわからない時間。
私は後部座席でうとうとしながら心の中で明日の仕事の心配をしている。こんな遠くに今頃なんで行かなきゃならないのか……。仕事に間に合わなくなったらどうするんだろう……。
車は辺鄙な山奥の街にたどり着いた。
民宿のような宿に入りながら私はまだ仕事の心配をしている。
夜なのか、昼なのか、やっぱりよくわからない。
寝ているのか、起きているのかもなんだかよくわからない。
そうだ、同僚に電話しよう。この調子じゃきっと仕事には間に合わない。
夫と一緒に出先にいるんですけど、ちょっと今日中に帰れないかもしれなくて、明日送迎が入っているんだけど、間に合わないかもしれないので調整を……。
そんなことを言いながら、ふと思う。なんで夫と一緒に出先なんだ? 夫はもういないはず。ここはなんだ? 私、何してるんだ?
幽体離脱した魂のように体が家の中をくるくるとさまよい、そして外へと私は向かった。
大きなきらきら光る海があった。風が強い。
海には遊ぶ人たちがたくさん。でも私は海は嫌い。
街の中にはたくさんの人がいる。辺鄙な街のはずなのに、結構たくさんの人でにぎわっているようだった。
いつの間にか人の群れの中にいた。
ふと隣を見ると、数年前に亡くなった芸能人がいた。
あの方、Y.Tさんですよね?
ええ、そうですね。
…あなたも亡くなってるんですか?
いや、私はまだです。見送りに。
そんな会話を交わしながら、前を見ると、そこは船着き場のようだった。
人の群れは二つに分かれていく。船に乗り込もうとする人と、それを見送る人。
私はその場にとどまりながら、前へと進む人たちを見る。
その中に夫がいることを感じていた。姿も見えないし、声も聴こえないけど、船の乗客の中に夫がいることを確信していた。
金色のまぶしい日の光が乗客達を照らし、包み込む。
ああ、帰っていくんだ……。
そこで目が覚めた。
薄暗い部屋の中は夜のような、朝のような、曖昧な蒼い闇で満たされている。枕もとの時計は三時五十分。
ああ、船はきっと四時ちょうどに出るに違いない。
そうだ、今日は22日。お彼岸だった。そして昨日の晩は息子のサッカーチームの卒団式。息子以上に一生懸命だったサッカーチームの宴会にきっと出席しにきていたのだろう。
そう思うと無性におかしくなって、一人でくすくす笑い出す。笑いながら、そのうち泣いていた。なんだかよくわからないけど、無性に涙が出て、子供みたいに声を出して泣いていた。悲しいというのでもなく、切ないというのでもないのだけれど…。
死んでから行く世界はきっといつも隣にあるのだ。直線上、同じ平面上に存在するのではなく、別の次元の存在で、背中合わせにある。普段はきっと見えないのだけれど、冬と春の境がぼやけ、昼と夜の境界が曖昧になるあわいの季節にはきっと二つの国を隔てる境界線も淡く曖昧なものになるに違いない。
瞼がひりひりするくらい泣きながら、妙にのどかな気持ちで春が来るのだなぁ……などと思った。
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