丘を越えて~高遠響と申します~

ようおこし!まあ、あがんなはれ。仕事、趣味、子供、短編小説、なんでもありまっせ。好きなモン読んどくなはれ。

ベランダ・クロニクル

2011年09月27日 | 四方山話
 主婦の日課の一つと言えば、洗濯物干し。私も一応主婦なものだから、毎朝出勤前にベランダに洗濯物を干していく。隣のおうちのベランダがびっくりするくらい近くに並んでいる。そこも当然物干し場になっているので、毎日お隣さんの洗濯物を眺めて一日が始まるのだ。
 
 うちが今の家に越してきたのは十年前。お隣さんのベランダには山のような洗濯物が干されてあった。働き盛りのお父さん、お母さん、中高生の息子さんが二人、おばあちゃんの五人家族。毎朝、おばあちゃんがゆっくりゆっくり大量の洗濯物を干していた。体操服やら、柔道着やら、カサの高い、汗臭そうな男物がずらりと並んでいく。ちなみに、その頃うちはまだチビ子のおむつをベランダに干していた……。

 それがそのうち、少し洗濯物が減った。息子さんの一人が不慮の事故で亡くなられた。それからしばらくして、もう一人の息子さんの洗濯物もベランダから姿を消した。結婚されたそうだ。また洗濯物が減った。

 今年の夏、おばあちゃんの洗濯物が無くなった。細い身体でゆっくりゆっくり洗濯物を干していたおばあちゃんは、天国へと帰って行った。ベランダの洗濯物は毎日干されなくなった。ベランダに面した扉の雨戸も、ほとんど開いている事はなくなった。

 週末になると、奥さんが大人二人分の洗濯物を干しにベランダに出てくる。私は大量の洗濯物(それこそ、干す場所がないくらいの量)を抱えてベランダに出る。
「ちえぞーさんとこ、多いねぇ」
「はい~。週末は特にねぇ」
「うちも昔はそうやったわぁ」
「そうですね~」
 そんな会話を交わしながら、洗濯物を干す。お隣さんはあっという間に干し終わり、ほんならまたね~っと言いながら中に入って行く。私も、失礼します~と頭を下げながら、ひたすら大量の洗濯物を干し続ける……。いつかこの大量の洗濯物も少しずつ減っていくんだろうなあ……と思いながら。


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