歯抜け

　チビ太郎の歯が抜けた。現在六歳年長組のチビ太郎だが、まだ一本も歯が抜けていなかったのだ。チビ子は生え変わり始めがとても早くて、四歳になってすぐに抜け始めたのだが、チビ太郎はまったく気配なし。稀に永久歯を持っていないお子さんがいるという話を幼馴染みである歯科衛生士の友人から聞いた事があったので、少し心配していたのだ。
　ところがふいに、
「お母さん、歯がぐらぐらしてきた～。ちょっと痛い～」
　と嬉しそうに訴えてきた。
　見ると下の前歯がぐらぐらしているではないか！
「良かったね！　やっと生え変わるんやなぁ」
　と言うと、嬉しそうにニコニコしながら、でもかなり大げさに口を押さえて
「痛っっっ！」
　と顔をしかめる。
「いつ抜ける？　来年くらい？？」
「んな訳ないやろ（笑）。二三日で抜けるわ」
　私の言葉に目を丸くするチビ太郎。
　それからというもの、まあ、騒ぐ騒ぐ（笑）。歯が痛くてご飯が噛めないだの、痛すぎて食欲がないだの、大げさな事この上ない。あんまり騒ぐので最初は一緒に喜んでいたチビ子も私も、すっかり呆れてしまって無視。
　次の日の保育園の連絡帳にも一応歯の事を書いた。
「昨日から歯がぐらぐらしています。ものすご～く大げさに騒ぐと思いますが、ほったらかしておいてください（笑）」と書いておいた。

　その日のお迎えの時、チビ太郎がワンコのように走ってきて、
「歯、抜けた！！」
　と、ぽっかり一本分の空間が出来た口をあんぐり開いて見せてくれた。
　先生から聞いたところ、その日の給食中に抜けたそうだ。案の定、ものすごい大騒ぎをしたようで、皆に「騒ぎすぎやし……」と突っ込まれていたらしい。
　まあ、気持ちはわかるがの（笑）。
　
　しかし、マルコメ頭の我が息子。にっこり笑うとぽっかり歯抜け。これはちょっと笑える顔である事は間違いない。早いこと下の歯が生えてきてほしいものだが、あんまり面白いのでもうちょっと楽しみたいような気もする（笑）。いやはや、薄情な母ちゃんですまんの～。




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