世界的な知名度を誇る俳優のトニー・レオンが、黒沢清監督の最新作「一九〇五」で日本映画に初出演を果たすことがわかった。日本と台湾で大規模なロケが行われる今作には、松田翔太と前田敦子の出演も決定。1905年の横浜を舞台に、全体のセリフの約90%が中国語で撮影される意欲作で、男女3人が国境を越えて織りなす壮大なスケールのアクション大作となる。
黒沢監督にとって、日本映画でありながら初めて手がける外国語映画となる今回のプロジェクトは、2009年に実現に向けて大きく動き出すことになる。プレノンアッシュの篠原弘子プロデューサーは、「『欲望の翼』以来、トニー・レオンの映画を何本か配給するなかで、いつか我々の企画で彼の主演映画を一緒に作ろうということになり、7年前に彼と具体的な話をした」と述懐。そして09年3月、香港で開催された「アジア映画賞」で「トウキョウソナタ」が大賞を受賞した際、黒澤監督はトニーと初めて言葉を交わし、その後もトニーの来日時に再会の場が設けられ、ゆっくりと企画を練り上げていったという。
舞台に選ばれた1905年は、帝国主義というグローバリズムが世界を覆い、人々が革命に熱狂した激動の時代だ。西欧諸国の脅威にさらされていた日本と中国。清朝が革命前夜にあるなか、日本の近代化を学ぶために多くの中国人が留学生として来日し、日本人と深い交流を持っていた時代でもあった。そんな歴史的背景が絡み合うなか、トニー扮する高利貸しの楊雲龍(ヤン・ユンロン)は、5人の男に貸した金を取り立てるため日本へやってくる。時期を同じくして、松田演じる国粋主義者のグループ「報国会」のメンバーである加藤保は、香港育ちで中国語が話せるため、国家の命を受け5人の中国人革命家の強制送還任務を言い渡される。運命に吸い寄せられるかのように出会った楊と加藤は、目的こそ違うものの利害が一致し、協力して5人を追うようになる。
メガホンをとる黒沢監督は、今作の製作意図を「100年前の横浜は驚くほど国際的な街だったようで、そこに流れ着いた人々の思惑が国境を越えて激突するさまを物語の軸に据えてみました。彼らが経験する絶望と希望とは、私たちが今現在、そして未来に向けて抱えているさまざまな問題とずばり直結しており、今これを撮る意義もそこにあるのだと思っています」と説明。さらに、「夢のようなキャスティングが実現しました。私自身まだ信じられないくらいです。恐ろしく魅惑的な3人の俳優たちが言葉、年齢、性別を越えて魂と魂をぶつけ合うことになるでしょう。そのお膳立てができるなんて、監督冥利に尽きるというものです」とコメントを寄せている。
2000年に「花様年華」でカンヌ映画祭男優賞を受賞したトニーにとっても、今作は待望久しい仕事となる。黒沢監督作を長年にわたり敬愛してきたといい、「その監督と一緒に仕事ができる機会を得て、とても興奮しています。いかなる瞬間にいたるまで、この貴重な体験を楽しみたいと思っています」と、11月のクランクインに向け準備に余念がない。松田は、脚本を手渡されたときはゾクゾクしたそうで「この映画のスケールの大きさやキャストのすごさにも驚きましたが、この脚本で黒沢監督に会えると思うとうれしくて仕方がありません。自分を奮い立たせながら緊張感をもち、それと並行して意識をリラックスさせ、今の自分に自信をもって撮影を楽しみにしたいと思います」と並々ならぬ意欲をのぞかせている。
また、「AKB48」を卒業した前田にとっては、今作が国際女優としてのデビュー作となる。日本に滞在する楊の食事の世話などをする大西宮子役での起用となるが、健気で律儀な性格でありながら「何でも自分の思い通りになると思わないで」と言い放つなど、一筋縄ではいかない役どころだ。女優として大きく飛躍しうる今作に、「世界を舞台に活躍されている黒沢監督の作品に参加できることに、とてもワクワクしています。女性のあらゆる魅力を持っている宮子を、全力で演じたいと思います」と覚悟をにじませている。
なお、松田は流暢な中国語を操ることが求められ、前田も片言の中国語を話せる日本人役のため、撮入までに猛特訓が控えているという。撮影は来年1月のクランクアップを予定。すでに台湾、香港での配給が決定しており、今後もその動向から目が離せそうにない。
「一九〇五」は松竹とプレノンアッシュの共同配給で、2013年秋に全国で公開。