乃木坂46『真夏の全国ツアー2014』ファイナル東京公演が8月30日、明治神宮野球場で行われた。10thシングル『何度目の青空か?』でセンターとして復帰する生田絵梨花が同曲披露でステージに立ったほか、療養中の橋本奈々未もアンコールのMCで姿を見せ、またAKB48の握手会があったため東京公演に帯同できなかった松井玲奈も中継で登場、グループ全員が顔を揃える千秋楽となった。
今回のツアーで乃木坂46は5都市9公演を行ない、30日のライブでは約3万人を動員した。今夏で結成から3周年を迎えキャリアを重ねてきた乃木坂46だが、それぞれの本拠地に常設劇場を持つAKB48グループと違ってライブの経験に乏しいこともあり、ライブパフォーマンスについては課題でもあり続けている。しかし、この日のライブでは、その弱点を克服し、ライブグループとしてのレベルアップを目指すための萌芽も見てとることができた。ここではその萌芽のいくつかにクローズアップしたい。
まず特筆すべきは、アンダーメンバーの躍動である。この日最初のアンダー曲となった「生まれたままで」から、キレの良い動きで皆を引っ張る伊藤万理華を中心としたアンダーメンバーは、力強く堂々たる姿を見せる。選抜メンバーが固定されがちな乃木坂46の中で活路を見出しにくくもあった彼女たちが、ひとつ進化したレベルに立っていることをうかがわせた。それはグループ結成以来、アンダーメンバーの中でも決して恵まれた位置にいなかった斎藤ちはるの表情にもあらわれる。10月8日発売の『何度目の青空か?』でようやく初の選抜入りを果たす斎藤はこの3年間、目立つ場所を与えられる機会が少なく、思い悩む気持ちを吐露することもあった。しかし、神宮球場に立った彼女の顔には余裕の色さえ見え、以前よりくっきり大きくなったパフォーマンスが広い会場によく映えた。
このアンダーメンバーの頼もしさは、今年6~7月に行われ、引き続き10月にも公演が決まっているアンダーライブの成果によるものだろう。アンダーライブはメディア露出の限られている彼女たちにとって貴重な活躍の場だが、それにとどまらず、むしろ選抜常連メンバーには経験できない継続的なライブ活動の機会として、アンダーメンバーの大きな糧となっている。アンダーライブを経た現在の彼女たちは、単に選抜常連組の後塵を拝するような存在ではない。その経験を武器に、あわよくば選抜常連メンバーを喰わんとする勢いさえ見せていた。自信をつけてきた彼女たちのパフォーマンスは、グループ全体に厚みをもたらしている。
目覚ましい印象の変化を見せていたのは、『気づいたら片想い』『夏のFree&Easy』と直近の2作連続でセンターポジションを務めている西野七瀬だ。いわばこのライブ時点での、乃木坂46のセンターは彼女である。生駒里奈をはじめとするこれまでのセンター経験者や、他の福神(選抜メンバー前列ポジションの呼称)常連メンバーに比べて、西野は自身を強烈に押し出すことが少なく、センターに立ってなおその言動は控えめだった。

しかしこの日の西野は、一曲目の「夏のFree&Easy」から煽りにも表情にも、ひとつ殻を破ったようなパワーが見え、春から今回のツアーに至るまで選抜メンバーの中心として活動してきた証を見せつけていた。どこか不安げにしているような仕草は今も変わらぬ彼女の個性だが、この日のライブでの存在感は強く、支柱のひとつになっていることを示した。センターというポジションは、確実に彼女の自覚を引き出している。
そして生駒里奈。デビュー以来、乃木坂46のフロントに立つ者としてグループを背負ってきたのは彼女である。昨年夏の6thシングル「ガールズルール」以降、センターポジションから外れ、形式上は脇を固めるメンバーとして選抜に名を連ねてきた。
しかし、生駒はどのポジションに移ろうとも、常に乃木坂46の象徴として存在した。センターが別のメンバーに変わっていくたび、むしろ彼女が揺らぐことのない、グループの絶対的中心であることが浮き彫りになるようでさえあった。
それを物語るのはこの日のライブ終盤、「世界で一番 孤独なLover」から「制服のマネキン」への流れである。セットリストがクライマックスに近づくほどに、パフォーマンスの核が次第に生駒へと収斂していく。「制服のマネキン」でスクリーンに大写しになった生駒の表情は気高く、彼女がグループの屋台骨を引き受ける存在であることを強く示すかのようだった。
乃木坂46のパフォーマンスレベル向上の必要性やグループの対世間的な見え方に関して、常に人一倍自覚的な言動を行なってきた生駒だが、その責任感からくる孤軍奮闘は時に空回っているように見えることもあった。AKB48との兼任もあり、いまだ彼女が背負い込むものはあまりに大きい。
しかし今回のライブツアーで見えたのは、アンダーメンバーや、西野らセンター経験者など、生駒の周囲を固めるメンバーが獲得しつつある自信と自覚だった。その進化は、ライブパフォーマンスの端々で少しずつ実を結び始めている。それは、「魅せる」ことについての各メンバーの意識が、一段高まってきたことの証左でもあるだろう。
メンバーの技量の面でも、大会場を用いた演出の面でもステップアップすべき点は多く、まだまだライブ運びが巧みなグループとはいえないかもしれない。しかし、乃木坂46のメンバーは、次のレベルを見据える準備を少しずつ整えつつある。